第091話 何の為の適合者
「……お前は、誰だ。」
俺は刀を構えながら奴に対してそう問いかける。
「……私はクロノス……こいつの名前をとってアルマ・クロノスと名乗ろう。さあ、ヴィクトリアが選ぶ者よ……会いたかったぞ。最終戦争を始めよう。」
「クロノス……っていうのか。」
「いかにも、私は此の世界を創造した上位存在の一人、クロノス。」
「上位存在が、一体何の用だ!!俺たちの世界を破壊しに来たのか!!」
上位存在の、神が考えることなんて俺たちには到底理解できないか。
「……ふむ。この世界には2度、神は降り立った。しかしそれらは滅ぼされた……貴様らにだ。千歳樹。」
クロノスは俺に対して指を刺しながらそう言い放つ……
「……2度……って、俺は何もしていない。」
「忘れたか、共鳴反応だ。」
「……うん、共鳴反応のことです……樹。」
「……え?そうなのか、ソニア博士。」
共鳴反応……確かに2度あった……別世界の俺の暴走と、ファレノプシスの暴走……確かに彼らは人格を乗っ取られていた……。
「共鳴反応。私も一度体感したから分かる。あれはいわゆる神が強すぎる力に手を伸ばそうとする存在に対して乗っ取って罰を与える行為……って事ですよね。」
「……そうだ。」
「でも神の考えることは人間には到底理解出来ない、それに神自身退屈しているから顕在化したら暴れ出す……それこそが、共鳴反応の正体……!!」
「……そんな、そういうことだったのか!!」
「ああ。そうだ。魔法のある世界で起こる魔石による共鳴反応はその禁忌をわざと起こさせるための私たちの悪戯だ……」
クロノスは追加でそう説明する。
即ち……人々の聖なる力とかを求める魔石の共鳴反応も神が実体化するためにインガニウムの反応を起こさせる為の災害だという……。
「……クレオールはそういう為だったのか!!!」
「そうだ。だがそれを知ったところで貴様らに私を殺す事も出来ない。」
「……いや、殺せるだろ。」
暴走は、インガニウムを離すことさえできれば終わる……そのはずだ。そうすれば本体のアルマードが戻ってくるはずだ。
「……貴方は特別……と言うことですか……人に知恵を授ける最高神……」
「……どういうことだ!ソニア博士。」
俺は呟くソニア博士に問いかける。
「……彼は神の中でも最高の存在。この世界を作り、この世界にかつて現れた神々すらも作り出した、そんな存在と言う事……」
名前はクロノス……と言うと個人的に時間の神様なイメージがあるけど、そう言うわけでもないのか。
神の名前だって今の俺にはきっとペンダントの力で翻訳されているんだ。
つまり、クロノスっていう名前は一番最適な名前だっただけで、特に神話などの関係はないのかもしれない。
「いかにも。私は君たちを生み出し、滅びるまで見つめる存在。そして偶に私はこの世界に干渉する。そう、貴様の祖先のように……」
クロノスはソニア博士のことを睨む。
「……そうですね。私の名前はソニア・ラキ・クロノシィード……貴方の力……種を嘗てもらった一族……」
クロノスのシード……って言うことか。
てことは、さっきアルマードが言っていたクロノシィードって……ウプシロンもそうなのか。
「そうだ。つまり貴様は私の子だ。私に対する恩を忘れたか。その頭の良さも、全てがクロノシィードの力……」
つまり、ソニアの先祖にあたるニケの頭の良さも、神器を作り出したのも……全てこいつの力を貰ったから……と言うのか。
「……そう、です……だから私は、貴方に攻撃することは……出来ません。」
「そうだ、それで良い。ソニア。」
ソニア博士はクロノスのいう言葉を聞きそのままそこに正座する……
「ソニアに何をしたの!!!大丈夫!!?ソニア!!」
カーラはソニア博士に声を掛けて心配する。
「大丈夫だ。奴は私に抵抗できないだけ……私を信じる存在だからこそ、私に逆らえないだけだ。」
「なら、俺がお前を倒す!!」
俺は因縁の刀を握って彼に近づいていく。
「……ふむ……」
「……うおぉぉ!!」
俺が斬ろうとした瞬間、奴は小指一本でその刀を抑える。
「……何!?」
俺はそのまま投げられる。
アルマードとは、格が違う……
「アルマードはお前なんかに体を乗っ取られて満足なのかよ。」
顔を垂れる血を拭きながら起き上がり、俺はそう問いかける。
「……今私はアルマ・クロノスだ……合体しただけに過ぎず、乗っ取られているわけではない!!」
そう言いながら奴は因縁の刀で地面を攻撃する。
たった一度の攻撃だけでオーセント南部へと続く道路は真っ二つに地割れする。
「……化け物かよ……」
「……さて、終わりだ。千歳樹……貴様はヴィクトリアが認めた人だと聞いていたが、この程度だったか……」
奴は地割れに困惑する俺の元へと近寄った。
「……このやろう!!!神じゃねえのかよ!!どうして破壊なんて……アルマードなんかに協力するんだ!!!!」
俺は叫ぶ……
「……終わりだ。あの世で会おう。」
そのアルマ・クロノスが持つ因縁の刀は……俺の腹部を斬った……
* * *
樹が神器になることで初めて守護神器の呪いがなくなる……きっとそう言うことなんだ。
あの世界の樹が神器になったのも、きっとそうすることで初めて侵略者に勝つ事ができたから!!
「それしか、道はないの……?」
「ああ。きっとそうじゃ……」
マーガレットは私に対してそう言う。
「……早く、早くその槍を貸してくれ!!エマ!!!」
「だめだよ!!!!!」
私はガイからも、リエからも守護神器を渡すように迫られる。
でも、そんなことをしてしまったら本当に死んでしまう。
「……ここは戦場です。犠牲なんかよりも、勝った時の方が大きいのです……さあ。その天界の杖を渡してください……エマ。」
確かに、リエのいうことは合理的だった。
もう、みんな疲れていた。
私たちだけでソニアも25体は倒したと思う。
メルトもウプシロンもレイカ達も、同盟軍の残党を炎で焼き尽くしたり、水の精霊族と思われる個体と戦ったりとだいぶ戦っている。
樹はずっとアルマードと戦っていた。
ここは戦場。たった一つの死よりも、敵に与える打撃の方が優先……それはそうなんだ。
でも、私にはみんなを殺したくない。
「こんな兵器の呪いなんかで、みんなを殺したくなんてない!!!」
だから私は絶対に守護神器は使わせない!!そう思っていた。
けど……
その時、アルマードは覚醒した。
爆発やビームの音など戦場の音がうるさくて聞き取れなかったが、間違いなくアルマードはアルマードじゃなくなっていた。
どちらかというと私が前に戦ったファレノプシスとか、別の樹みたいなものを感じる。
「……あれは、やばい!!!!」
「お、おい!エマ!!!」
オーセントが地割れした。
まるでファヴァレイのように。
私はそれを見て、樹の元へと駆け寄って行く。
樹が、死んじゃう!!!!!
……でも、もう遅かった。
私の目の前で、樹は呪いを断ち切られた。
不死の呪いを、断ち切られてしまった……かろうじて、息はあるのかもしれない。けどもう、彼は不死じゃない……と思う。
「……樹……」
私はその樹を抱えて、泣く……
「なんだ貴様は……」
「貴方こそ誰!!」
「私はアルマ・クロノス……私は貴様らを倒しに顕在した……それだけだ。」
やっぱり、アルマードはもうアルマードじゃなかった。
一撃一撃が重く、樹を滅ぼしそうになるほど……でも、ソニアやアルマードのように容赦無く私を攻撃して来たりはしない……一体、目的はなんなんだろう。
「……さあ、もっと楽しませろ、樹、エマ。」
アルマ・クロノスと名乗るその人は私たちの事を見て、首を鳴らしながら退屈そうに言う。
「……楽しませろって、殺しておいてそんなことはないでしょ!!!!」
私はもう息もほとんどしていない樹を抱えながら、本気で泣いていた。
このクロノス……が考えていることなんて私にはわからない。でも、その理不尽さだけは分かった。
「……殺してはいない。瀕死にしただけだ。つまらないからな……」
……その男、顕在した神アルマ・クロノスはそう笑った。