第090話 彼の時の暴走者
「……きっとレイカだ!!」
レイカ達が、助けに来たんだ!!
私はそのファレノプシスのように巨大で、蛾のような炎を見てそう確信する。
「私達も早くソニアを片付けよう!!」
「……そうだな。早く片付けようぜ。」
私達……ガイとマーガレット、リエとジャックは複数のソニアを相手していく。
ガイ以外はみんな魔法に慣れていた。
「……すごいな。魔法って……」
「貴方も覚えるんじゃ。ガイ……」
マーガレットは目の前でソニアを一体一体魔法でぶっ壊しながらガイにそう言う。
「……あのババア……力ありすぎだろ……」
ジャックはやる気なさそうにマーガレットを見つめる。
「動きなさい。ジャック……私達も5年間エマよりも過ごしているんです。昔のままではないでしょう?」
5年前へと帰り、国立図書館で見つけたオリンパスの本を書いたらしい、あの時右腕を失っていたリエは5年経って義手になっていた。
「……はーい。」
ジャックは変わっていなかった。
「……ところで、その天界の杖とかってどうするんだ?」
「……あ。これ?」
ジャックは私の下にあるその守護神器を見つける。
「……これは、ある条件が揃えば呪いがなくなるらしい……それで適任者がいるとか、なんとか……」
きっと間違いなく適任者は……リエか、ジャック……槍はきっとガイ……。
……でも、ある条件って何??神器の呪いを無くすなんて……
「……母神器くらいじゃな……呪いをなくせる力があるとすれば……」
マーガレットは私の言葉を聞いてそう言い放つ。
「母神器!?」
「そうじゃ。わしの仲間……ヴィクトリアは皆を救うために真神器に呪いをあえて作らせる為の存在、神子を作ったのじゃ。そしてハシラビトとして皆を守った……それはエマも知っておるじゃろ。」
「……うん。」
確かに……そんなの、それしかないよね……
「……なら、一つしかなかろう。ヴィクトリアの後を継ぐ……新たな母神器の誕生。それこそがこの神器から呪いを消す方法じゃ。」
新たな……母神器の……誕生。
「……そんなの……って。誰が……」
私は自分の中の記憶を辿る。
新たな母神器だなんて……そんなの……
「……はっ!?」
私はあることを思い出した。
「どうかしたか?エマ。」
ガイは私の背中に触れて様子を見る。
「……大丈夫。」
……母神器……そんなの、絶対に嫌だよ!!
* * *
「……お前の負けだ。」
俺はレイカから返してもらった因縁の刀を持つ……
もう、証は全て壊された。重力を操ったり、飛んだりすることはできないけど、魔法統括システムが作り直してくれた魔法の概念によって、ヴィクトリアが作った反魔法結界は消えた。
だから、この扉の目の前でも魔法が使えるし、この刀にだって魔法は乗せられる。
それに対して、奴は魔法を知らないらしい。俺の方が優勢だった。
「……まだだ!!まだです!!全銀河同盟軍、来るのです!!!!」
アルマードは手を広げて……そう叫ぶ。
全ての銀河同盟軍……と言うことは、またあの時のようにソアロンのような宇宙船で……来るのか?
でも、扉からはきっとソアロンは入ってこれない。だから一人一人入ってくるだけ……か。
「……まだいるのか……多すぎだろ。」
「……フハハハハ。恐れましたか。こんな物であるわけがないでしょう。最高戦力は確かにソニアと既にここに来た幹部数百人……ですが下の外民どもは数兆人……それが扉の先では待っています。勝てるはずがないでしょう。」
「……銀河中から奴隷のように集めた、兵士か……」
そりゃあ、それほどいるのも当たり前か……でも、そんな人達やりたくて戦っているわけじゃない……よな。
扉はまた敵が入って来たときのように渦を巻き始める。
本当にそんなに入ってきたら……どう足掻いても……勝てない。
それこそ、俺が神器になるようなことをするしか……。
「奴隷……ではありません。僕は彼らに仕事を与えているだけです。死ぬためだけの兵士という、最高の仕事を……」
やっぱりこいつは精霊族か……実体化しているとはいえ、心は終わってる。
「……くそっ。」
「……さあ、来なさい……来るのです!!」
アルマードは兵士たちを呼ぶ。しかし、数人入ってきた後、その扉の渦は段々と収まっていく……
「……面倒だな。」
俺はその数人の兵士に絡まれて、アルマードの元から少し離れた。
「……一体、なにが……起こっているのです。なぜ、来ないのです!!」
「……アルマード!!!!もう、侵略はさせません!!!!」
「……扉を動かす水路の魔法水なら、私が全て蒸発させました。」
……そこに来たのは、ソニアに乗ったカーラだった。
「カーラ!!!?」
「なぜだ、なぜソニア0号が……敵を味方しているのです!!!」
「……ソニア0号、ではありません。私はソニア・ラキ・クロノシィード!!!貴方を倒しに来ました!!!!」
誰だろう。でも、とりあえず味方だということだけはわかる。カーラの知り合い……か何かだということも。
「……まさか……あの木偶人形から目覚めた……というのですか……ソニア博士。」
「……ええ。良いようにしてくれるじゃありませんか。アルマード。」
ソニア博士、というらしいその人は着地してカーラをその場に降ろす。
「……ありがとうございます、やっぱり貴方だったんですね、千歳樹……」
そう言いながらソニア博士は俺の両頬に触れる。
「……ソニア・ラキ・クロノシィードって……」
「はい。私はニケの子孫……別世界のニケの子孫であり、別世界の貴方を導き、ソニアを作り出した博士です……ソニアは悪用されましたが……」
そういう事か……ニケは別世界だと子供を残していた、のか。
「……そういえば、貴方もクロノシィードでしたね。でも、ここで終わりです!!!」
アルマードはそう言ってソニア博士に対して因縁の刀で斬りかかる。
「……このインガニウムの体が……その刀で通るとでも?」
「……何!?」
アルマードの刀はソニア博士には通らず、火花を散らして弾かれる。
そのままアルマードは吹っ飛ばされ、重い衝撃のせいか怯んでいる様子を見せる。
「……初号機は重すぎたのです……インガニウムで体を作った為、使い物にならないほど重く、またコストがかかりすぎた……だから破棄したのです。一部素材だけ抜いて。」
「……すげぇ。」
俺は絡んできた数人を倒した。
自分が作った神器だから、その強さの引き出し方を完全に博士は理解している……
強力すぎる助っ人、もう一人来た!!勝てる、勝てるぞ!!!
「……じゃあ、俺も頑張らないとな。」
俺は因縁の刀に電気を纏わせる。
「……サンダーバード!!」
「……スキル:サンダーソニア!!」
俺が魔法を唱えて雷の鳥を出して怯むアルマードに対して突撃し出すと、ソニア博士はスキル……と言った。
俺は驚いてソニア博士の方を一瞬見ると、無言で彼女は頷いた。
「……くっそ……」
アルマードは体勢を整えた。
「そのくらい!!効かないです!!」
アルマードは再び刀を握り、俺の攻撃を防ごうとする……
……その時
「なんだこれは!?」
アルマードのいる地面には花が咲き……その花の茎や葉によって動きが封じられ、そして電撃が流れて行く。
「……スキル、サンダーソニア。貴方も知っているでしょ?あの世界の物だもん。」
「……そうか……スキルか……あの外宇宙にあったゴミみたいな力……か!!!」
アルマードはそのソニアの攻撃を喰らいながらそう叫ぶ。
「……これで、終わりだ!!!!!」
俺と共にその雷の鳥と、雷を纏う俺の刀は身動きが取れないアルマードの体に直撃し、彼の体は真っ二つに斬れた……
「……これで。終わった、のか。」
「やりましたね。樹さん!」
俺はアルマードの元からカーラ達の元へと戻る。
「……カーラ。助かったよ。水を抜いてくれて……」
「当然です!神子ですから。」
俺とカーラは安心していた。
「……いや、まだです……まだ、アルマードは死んでいません。」
「……な、あの直撃を受けて死なないわけが……」
「……はぁはぁ……なかなか、やりますね。」
黒く上がっていく煙の中で彼はまた、立ち上がった。
そのシルエットだけがよくみえる。
そしてそのまま、煙が晴れてアルマードの姿は見える。
「……最終手段です。褒めてあげます。私をここまで追い詰めたこと……」
「何をする気だ!!!!!」
アルマードはあるものを取り出した。
「……インガニウム!!!」
ソニア博士はそれに気づいて叫ぶ。
インガニウム……だと。
「さあ、来なさい……私の体を乗っ取るのです……暴走して……。うっ……」
アルマードはインガニウムを握りながら結びの扉に触れ、そう言って苦しみ出した。
その数秒後、彼は人が変わったかのように起き上がる。
「なかなか素晴らしい魂……アルマをしているな。名前の通りか。」
その人物はアルマードの体を見て、手を握ったり広げたりしながらそう言う。
「……お前は、誰だ。」
俺は刀を構えながら奴に対してそう問いかける。
「……私はクロノス……こいつの名前をとってアルマ・クロノスと名乗ろう。さあ、ヴィクトリアが選ぶ者よ……会いたかったぞ。最終戦争を始めよう。」
……最後の敵は、現れた。