第089話 其の世の大親友
「オーランさん……頼みがあります。」
「……なんだ、創造主。」
私はあることをオーランに頼むことを決める。彼ならきっとできる。
彼は記憶や心……私の世界のオーランと同じならば、その操作をすることができる神器のはずだから……
「私に、貴方が持つニケの記憶と、彼女……カーラが持つこの世界の記憶……そしてカーラに私が持つ、別世界のカーラの記憶を共有して欲しいです……」
「……そうですね。私も貴方のこと、別世界の親友の事を知りたいです。」
カーラは私の提案に乗ってくれた。
「それに私にニケの匂いがある、って言われてもニケのこと、その人格なんて何も知りませんから。」
「……分かった。」
オーランは頷き私とカーラの頭に対して手をかざし、その力を使う。
光の粒……の様なものが私とカーラ……オーランの間を往復する様子がわかった。
私は目を瞑った。
「……これで終わりだ。どうだ、変わったか?」
「ありがとうございます、オーラン。」
私はオーランにお辞儀する。
「じゃあ、俺たちは先に行く。ソニアを倒しつつ、避難させてくる。」
「バイバイ、創造主!」
フランとオーランはそう言ってその場を離れて行った。
「バイバイ……二人とも……」
私は手を振って二人を見つめた。
「……これが、貴方の記憶……」
私は後ろでそう呟くカーラを見つめる。
「……そう。私……あの世界だと貴方の親友だった、私の記憶です。」
「……っはは。」
カーラは急に笑った。
「ソニャニャン……って……どんなことが起こればこんな呼び方する様になるんですか……あはは。」
「……そ、それはカーラが最初に言い始めたんですよ!!」
カーラは泣きながら笑っていた。嬉し泣きか、面白泣きか……それとも。
「……面白いですね……私って。」
「……この世界だと、君が扉の神子をやっていたんだね……」
「ですね。逆に私が王女だなんて……信じられません。」
カーラは笑っていた。あの世界のカーラと、やっぱり同じだ。
いやそれ以上に楽しんでいるのかもしれない。
「……でも、こんなに悲しいんですね……あの世界。」
「……ん?」
「王女……とは言え、何も私は力を持っていないじゃないですか……それにこの侵略だって……全て止められなかったのは、ある意味私のせいじゃないですか……」
「……それは……カーラのせいじゃないです。あの世界は全て元から狂っていました……カーラが動いたところで何かが変わっていたようなそんな世界じゃない……だから安心して下さい。」
少しだけ弱さを見せるカーラを私はそうやって慰める。
「……そう、ですね。」
カーラは立ち上がる。足の負傷はなんとかなったのかもしれない。
「……私も戦います!!」
カーラは私に対して、そう言った。
「え!??」
「私も貴方と同じ……アルマードに対してやられた身です。そうでしょう??」
私の記憶を持った以上、彼女も確かに当事者……ではあるかもしれない。
「……でも……」
「いいんです。私は貴方と共に行きたい。危険なんて顧みなくても……いいんです。だって、私達は大親友でしょ??」
カーラはそう言って私の口元に手を当てて、何も言わせない……としてくる。
確かに、カーラの記憶を受け取った私になら、わかる。
カーラは5年前からこの世界の神子という役職についたらしい。
この世界の彼女は今20歳……16歳からの5年間、彼女はずっとその役職に囚われていた。
出身はアルトポリス……親は農家……
本当はそんな家なのに、突然5年前からオーセント……での神子を魔法統括システムから言い渡された……みたい。
アルトポリスに残る親も、友達もみんな捨てて……孤独にこのオーセントにやって来たって、言うこと。
そんな毎日神子として生活する彼女はもちろん人と会わない訳ではない。
『扉に導かれし者』のエマだって、樹だって、一緒に仕事をしたメルトだって、彼女にとっての思い入れがある人達、友人なのは間違いない……
けど彼女自身はどこかで、私は神子だから……仕事だから。って一線を引いていたんだ。
私が今ちょっとだけ感じるこのメルトに対しての思いだって……仕事だから、で押し殺してるんだね……
だからこの世界のカーラは少なくとも5年以上は孤独を抱えながら生きている……
記憶をもらって、そういうことだって分かった。
だからこそ、一緒に冒険したいと。それが彼女の意思なんだ……
そんな彼女の意思を、私は……
「……でも……」
「私だって、魔法は使えます。この足が完全にヒールするまでは使い物にならないかもしれませんけど……きっと力になれます。戦いましょう!ソニャニャン!」
「……わかりました。行きましょう。アルマードを倒しに……」
私はヒール中のカーラを背中に抱え、オーセント中心部、アルマードが居そうなその場所へと飛んで向かった。
* * *
「……助けに来たわ。遥々……アレに乗って。」
「……あれ?」
レイカが上を指差すから、俺はそれに従って上を見上げる……
そこには浮遊都市ソアロンがあった。
「……な、またアルマードの……宇宙船!?」
「……は?なんだ?何故、私の宇宙船がここにあるのです……」
アルマードはレイカに心臓を握られながらそう困惑する。
「……貴方のものじゃないです。あれは私の物。元は貴方の物を簡びの鋏の力で呼び出しただけなのかもしれないですが……」
その少女……天使の様な見た目をしたウプシロンは俺の前に降り立った。
「ナイスカバーです、レイカ。」
「こちらこそ、送ってもらえて助かったわ。神様。」
……あのウプシロンが……あの狂っていた奴が、この世界に来ている……だと。
「……ウプシロン、アールはどうした……あのアールは……」
「大丈夫。アールは解放しているし、もう全てわかってます。」
「……そうか。」
なら、いいんだけど……戦力としては強いが、こいつ、本当に信用できるのか……?
俺の中にはその感情しかなかった。
「……くそっ……魔法に、クロノシィードですか。」
「……貴方、それを知っているのね。」
「……ああ。勿論です……」
アルマードは苦しそうにそう呟く。
「……なら、最後です。行きなさい。精霊族!!」
アルマードがそう言うと共に扉からまた、数百体もの精霊族……が現れた。
「……相変わらず人使いが荒いですね……ボス。」
「貴方は……!?」
ウプシロンはその存在……恐らく水の精霊族を見て怖い顔を見せる。
「おや?どこかでお会いしましたかね……知りませんが。」
「異世界の私は貴方に負けたか……存在していないか……。知りませんが、私は貴方を倒します!!!!」
ウプシロンはそのままその因縁がありそうな水の精霊族に向かって飛んでいった。
「……早え……全く見えない。」
ウプシロンとその水の精霊族の対決は全く目に追えないほど早かった。
水の精霊族は腕を紐の様に伸ばしてどこかにくっ付けることで素早く移動を可能にする……
どこかの蜘蛛男や立体に移動する装置の様だが、それを行う事で普通に移動するよりも相当な速さに加速する……という原理があるらしい。
よくわからないが、それこそが水の精霊族の力かあの個体の話なのだろう。
「……あとは任せるわ。樹。」
「……行くか。」
「……レイカ……シャガ……」
「貴方ならきっと倒せるわ。アルマードを……あの時みたいに魔法で剣を強化……すればね。」
レイカは俺にそう耳打ちで伝え、シャガと共に新たに入ってきた宝石の精霊族などの討伐へと向かう。
彼らは飛び上がった。それは魔法で……だろう。
「……はぁはぁ……くそ小娘が……ゆるしません!!やってしまいなさい!!」
アルマードは自分の個体……すなわち宝石の精霊族にそう命令してレイカ達の元には数十体の精霊族が集まる……
「……見てなさい。樹。これが私達の成長した姿よ。行くよ、シャガ!!」
「……待ってました。レイカ。」
「魔力共有!!」
シャガはそう言ってレイカに対して手を広げて赤い光の粒子の様に魔力を流していく……
「……さあ、エマ。私達だって強くなったんだから……見てなさい……」
レイカの体を覆い尽くすように全方位に、魔法陣は現れる。
俺もアルマードもその様子を見つめていた。
……戦闘なんて忘れて。
「……古代魔法……ファレノプシスフレア!!!!」
その炎は蛾のようになり辺りを照らして包み込む。
羽のように羽ばたく炎は、そのまま宝石の精霊族達を飲み込んで行く……
「……すげぇ……。」
その様子は花火のようであり、蛾のようであった。
古代魔法を……魔力が足りないからと言う理由なのは分かっていたが、共有する魔法をきっと作り出して、足りない部分を補う方法を考えだした……って言うことだと思う。
「……な、なん……だと……僕の……僕の精霊族が一撃で……」
アルマードはその様子を見て困惑する……
「……お前の負けだ。」
俺は勝ちを確信する。
ソニアの個体数ももう、半分以下、精霊族達も入って来た時の半分以下だ。
ウプシロンも奥の街の方で水の精霊族を倒している様子が見えた。
助っ人が強力すぎた。
エマ達は水を操って戦っているのが見える。
あれは多分マーガレットさん達だ。
……だからもう、きっと負けない。