第085話 統括者
「ただいま!!カーラちゃん!!!!!よかったああああ!!!!」
「ど、どうかしました?エマさん。」
カーラは泣きながら抱きつくエマに困惑する。
俺たちは帰ってきた。
歴史が変わった。カーラは生きている。
だからこそ、カーラは何も無いからこそ困惑しているんだろう。
寵愛の盾は置いて来たが、きっとおそらくこの時代に届いている。
予想だが、俺たちがアルマードに勝つというのは元から決まっていた歴史だったのだと思う、だけどそこにメルトが同行するというのは無かったのではないかと思う。メルトは度々因果力に引っかかっていた。だからだ。
勝ったけど、残党か何かによって盾だけ持ち帰られ目的の惑星を手中に収める為か何かしらで使われることになっていた……という事だと思う。それが、メルトの存在で変わったということだ。
「臨時の担当ありがとうございます。フュー……。助かりました。」
「勿論だ。いつでも頼ってくれ、メルト。」
このフューというらしい魚人は統括者らしい。彼はメルトの代わりに臨時で扉の時間移動の仕事を受けていた。
「そういえば千歳樹……急だが、アールの事知らないか?あいつ、無断で欠勤し続けているんだ。」
急に俺はフューにそう、聞かれる。……この人はアールと仲が良かったのかもしれない。
「……あー……アールは故郷に帰っちゃったから、多分、統括者やめたんだと思う。」
「そうか、あいつらしくないな……」
俺は濁しながら答える。
フューは悲しそうな目を見せる。
流石にウプシロンにずっと囚われている……とは言えないし。これが最善か。
「……じゃあ、またですね。樹、エマ。」
「そうだな……」
「ばいばい、メルト!」
俺とエマはメルトに別れを告げ、研究所方面へと向かった。
今回は長い旅だった。
帰って来たら時間は同じだが、俺とエマ、メルトは向こうで1年以上過ごした。
たまに帰って来てはいたが、かなりの時間を過ごした。
「……色々あったな……」
「そうだね……!」
「エマと出会ってから1年以上経つけど、ようやく守護神器……全て集まったな。」
「やっとだね。長かった!」
俺たちは母神器から出る光の粒子が舞う空を見つめながら研究所の方へ向かう。
ようやく、守護神器が集まったんだ。
これから侵略がある……それはずっと知っている。それに備えないといけない。
まだまだ、戦いはこれからなんだ。
「……アクセス許可。伝言。データ、『ハシラビト:ヴィクトリア』」
突然、俺たちの前には昔見た……最近すっかり存在すら忘れていたような……魔法統括システムが現れた。
「……何!?魔法統括システム!?」
俺たちの辺りには少し風が吹く。魔法統括システムが来た影響だろうか。
「『ありがとうございます。二人とも……最後の守護神器、手に入れたんですね。待っています。』以上。」
そのデータ上のエルフの少女は消えていく。
「……今から行くつもりだっていうのに……わざわざ魔法統括システム使うのか……」
「まあ、そのくらい私たちに感謝したいんじゃない?いいじゃん、ヴィクトリアのお遊びだよきっと!」
「……アクセスブロック。デデー……タ……外……部……アクセス……『アルマード』」
「お、おい、どうした。魔法統括システム。」
消えたと思ったらまたその魔法統括システムは復活した。
何か様子がおかしい。
「『待っていてください……そちらの世界。』以上……ピーッ」
今度こそ、魔法統括システムは消えていった。
「な、何それ……怖っ!!」
「一体なんだったんだ……アルマードって、俺たちが過去で出会った、倒したやつだよな。」
「……け、けどそちらの世界って……!」
謎の音声に俺たちは焦った。
アルマードが、生きている??それとも……アルマードこそが、侵略者なのか??
俺もエマも、困惑していた。
でも、やるべきことは一つ……母神器の元へ、向かうだけだった。
「おめでとうございます。二人とも。」
「……生きててよかったよ。ヴィクトリア……」
命界に入った俺たちはヴィクトリアと話す。
「……長かった守護神器集めも終わりだね!」
俺たちが置いてきた寵愛の盾は母神器の下の穴に刺さっていた。
俺たちが刺した3本を合わせ、ヴィクトリアの元に4つの守護神器は帰って来た。
……まあ、そのうち一つ……殲滅の槍は此処じゃない次元の、異世界の物なんだけど。
「ええ。終わりです。本当によく集め切りました。」
ヴィクトリアはその命界にポツンとある机と椅子……俺とニケがチェスをしていた時と同じようなセットから立ち上がる。
「……で、教えてくれ。ロストリアは、いつ攻めてくるんだ。」
ここに来た理由。それは決まっている。ロストリアの侵攻日時と、守護神器の使い方……だ。
どうして守護神器を手に入れたのか、その意図はずっと分かっていなかった。
「……攻めてくるのは……私が死んだ時です。」
ヴィクトリアは笑顔で俺たちの方を見つめ、そう言った。
「死んだ時なの!?」
「ヴィクトリア……やっぱり死ぬ運命は変わらないのか。」
俺たちはそのヴィクトリアの緊張感の無さに驚く。
「はい。私は死にます。私は極度に寿命が伸びた人工生命の種族で間違い無いですが、死にます。そしてご存知の通り、私は呪いで延命などは自分に施していません。」
「……俺が5000年前に渡した力だけ……か。」
「はい。そのお陰でこの数日間私は生きられています。」
俺のエネルギーはヴィクトリアをなんとか繋いでいるみたいだ。
「……で、でもヴィクトリアが死ぬのと侵略になんの因果関係があるの?」
エマが聞く。確かにそうだ。
それを聞いてヴィクトリアは命界の中にある椅子と机……の横にある巨大な生命の木に触れる。
「……そうですね。私が死ぬと、この木は枯れます。」
「枯れる……のか。」
「神器って、ハシラビトが死んで初めて完成するんじゃないの??枯れたらおかしくない??」
「はい。魔神器……即ち真神器はハシラビトが死ぬことにより呪いが無い神器となり、完成します。それに対して母神器は人が神器になったもの……依代は人にあるのです。」
「……依代。」
「依代です。真神器はあの道具の形自体が依代となる存在であり、ファレノプシスのように鏡が壊れればハシラビトも神器も破壊されます。ですがこの木は私自身。母神器という存在は、言ってしまえばハシラビトであり神器でもある……それ故に強力な力が得られますが、死ねばその力は後世には残りません。」
「……そういう、事なのか。」
薄々気がついていた。エマが言っていた事だと別世界の俺は神器になっていて、その上で母神器だと名乗ったらしい。
そしてこの間見たのがヴィクトリアがインガニウムを取り込んだ事。
つまり、自分が神器になるのと、神器の中に入り込むのでは意味が違うという事だろう。
「つまり、ヴィクトリアが死んだらテトラビアを……いや、エヴァースを守る結界すら、なくなるっていうこと?だから、死んだ時って……」
「はい。私が死ねば嘗てアポロンからの侵入を防いだエヴァースの結界も、この地底世界にあるテトラビアも、全て何もかも防衛機能が失われます。残るとするならば、魔法統括システムでしょう。」
エヴァースの結界すらなくなるのか……もし俺があの時アポロンを滅ぼしていなかったら、奴らも攻めに来たのかもしれないな。
「魔法統括システムは残るのか。」
「はい。あれは私が作った生命体みたいなものです。だから残ります。」
「姿は一緒でも、完全に独立してるんだ!」
会話する時も魔法統括システムは会話のデータがヴィクトリアになるようにとコマンドらしき物を必要でもあるし……完全に別物か。
「……ただ。私が死んだら、魔法統括システムも恐らくおかしなことになるかもしれません……」
「どういうことだ?」
「……アクセス許可。顕在・会話。データ、『アルマード』」
俺たちの空間でその声は聞こえてきた。
「……その通りですね。ヴィクトリア。」
「お前は!!アルマード!!」
声がしたかと思うと、俺たちの目の前にはもう一人の、デジタルデータのようになっているヴィクトリアが現れた。
そのヴィクトリアの姿は徐々にアルマードの姿に変化していく。それは俺たちが戦って、嘗てヴィクトリアが衝撃波だけで倒してしまった……奴だ。
「どうしてその姿に顕在するわけ……??趣味悪く無い〜?」
エマはその姿を見てその懐にあるナイフを構える。警戒していた。
「大丈夫です。僕はアルマードの姿をしていますが、アルマードでありアルマードではありません。」
「どういうことだ?意味がわからん。」
「……彼の言う通りです。魔法統括システムは、私がアルマードを元に作った存在です。」
「……アルマードを元に、だって!?どう言うこと!?」
エマはヴィクトリアと魔法統括システムを交互に見る。
「彼を反省させる為に、私は彼をこうして束縛して生かしている……だけです。」
……ヴィクトリア。君、流石に慈悲がありすぎない?と俺は思う。敵に対しても、その対応をするのか。
「5000年もの間、僕はヴィクトリアの下でこうしてこのテトラビアを統括して来ました。逆に言えば、僕はずっとヴィクトリアによって意識をこのさまざまなデータと共に、魔法によって統括され続けて来たわけです。」
「……魔法によって、統括……されたシステム……ってことか。」
「そう。魔法統括システムの由来はそこです。……私がアルマードの意識だけを取り出し、体は完全に魔法によって制御されている、複数の情報を元に構成されている例えるならばデータの精霊族……に入れ込んでいるような物です。」
データの、精霊族……
情報を集めてそれを擬似的な体にして、その中に意識だけ入れている……と言うことか。
「……よくわからないが、要するに魔法で制御してるから、ヴィクトリアが死ねばこのアルマードは解き放たれるってことか。」
俺はアルマードを指差しながらそう言う。
じゃあ、めちゃくちゃ危ない存在じゃんこいつ。
「……じゃあ、始末でいいね!覚悟してねアルマード!!」
「……大丈夫です。僕に敵意はありません。5000年もの間、じっくりと反省しました。もう、僕は宇宙を征服したりなど思いません。」
「……信用できんな。」
俺もエマと同じように警戒して刀を抜く。
「そうだね。」
「……銀河同盟も、僕が死んで無くなったと聞きます。だからヴィクトリアが死ねば僕は何も出来ず魂だけこの世に放り出されるような物です。無害です……」
俺は迷う。こいつを信じていいのだろうか。
「まあまあ……彼は変わりました。どうか、信じてあげてください。」
でも、よく考えたら魔法統括システムは、俺たちをアスラ……殲滅の槍の使用から救った……その点は、信じてもいいのかもしれない。
「……わかった。信じるよ。」
「……樹!?信じるの!?」
「ああ。殲滅の槍から救ってくれたのはこいつだし、俺は信じてみる。最悪何かあれば、この刀で滅ぼすだけだ……」
「……ありがとうございます。僕も、貴方達に力を貸しましょう。」
俺は彼の手を取り、握手した。
……その存在は敵か、味方か。未だ、分からない。




