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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第九章 来たる「執園」
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第083話 ヴィクトリアの誤

 俺はキーラの事を殴ろうとしていた。

 けど……その拳は彼女の目の前で止めた。そんな気持ちすら、間違っているから。


「……何もかも、全てが!!間違っている!!!!」

「……樹。」


 エマは俺の事を心配そうな目で見つめる。

 彼ら、彼女らの心がどうであろうと、全てが……間違っている。


 正解なんて、多分ない。でも……間違っていることだけはわかる。


 俺が反発したところで、何も変わらないことだって、わかる。


「……カーラを、返せ!!いや……今まで死んだ全ての、神子を開放してやれ!!!」

「……それは無理です……カーラ・ミラーはもう、戻りません。」


 キーラは俺の打撃を受けながらそう、答える。


「……いくらでも、貴方の攻撃を受けましょう……私だって、お母様だって、みんな罪です……だから、いくらでも貴方の好きにしていいです。」


 俺はその言葉を聞いて、逆に殴るのをやめる。


「……そんなの……」


 ずるい。みんな間違っている。自己犠牲をしてまで仲間を生かしたかったヴィクトリアも……そんなヴィクトリアに対して生きてほしいと願う仲間たちも……みんな合っていて、間違っている。


「そんなのずるすぎる……そんなこと言われたら……殴ることだってできない……」


 俺はもう……どうしたらいいかわからなかった。


「……樹……。」

「……エマ。ごめん……」

「……いいよ。分かるよ……私だって、キーラに記憶を奪われたわけだし……カーラちゃんのことは大好きだし……。」


 エマは悲しさを持っていても……弁えていた。

 それはこの場だからか、堪えているのかはわからない。


 ……俺の方が、かっこ悪い。



 俺は冷静になろうと……頑張る。

 その場の空気は最悪だった。




「……樹。過去を、変えよう。」


 そんな時に、メルトはそう言った。


「……え?」


 俺はもう、ずっと泣いていた。


「カーラを救うために……ヴィクトリアに……過去のヴィクトリアに、エネルギーを分け与えれば……いい。そうすれば、きっとこの時まで……カーラの犠牲なしで、生きてもらえる。」


 ……でも、それはたったカーラという犠牲のためだけ。

 俺には、全てを救うことは出来ない……


「カーラ以外にもこの世界には犠牲になってしまった人がいるのに、カーラだけしか……救えない。そんな事、嫌だ……。」


「……樹。」


 エマはただ、そう俺の名前を呼ぶ……


「ああ。……分かったよ。カーラ以外は……救えない。そんなことわかってる。」


 多分救えるのは、ヴィクトリアとカーラだけ……


「それに、過去に行くことは元から必要だ……ヴィクトリアが死ぬ瀬戸際なら、なおさら早く最後の守護神器を集めないといけない……しな。」


 それは、必要なんだ。分かっている。だからこそ、やり遂げはする……

 過去を変えれて、守護神器がここにある状態にできるのならば、ヴィクトリアが居るうちに集め切ることができ、カーラも生きている……そんな状態を作り出せる……

 ……けど。


「……カーラの為……か。」


 その時だった、エマは考える俺に抱きついて来た。


「……樹。樹のことだから……どうせ大多数を救おう……みんなの為に、正しい道を、ってしてるのもわかる……そう行動しようとしてるのも、わかる……けど、偶には私を導いた時のように自分に素直になってもいいんだよ……効率なんて、重みなんて考えなくて、カーラちゃんを救うことそれだけを考えればいいんだよ……」


 エマはそう俺に言った。


 俺はみんなを救う為に、なるべく争いを産まないためにグレートドーンでは魔石に情報を流し込み、アレス……火星ではなるべく多くの人の願いを汲む為にアポロンを滅ぼす選択肢をした……。


 確かに、俺の根底には真緒を失った時のように……人を失いたくない。そして家族から責められた時のように、なるべく煙が立たないような、そんな合理性を心の中では求めて、行動していたのかもしれない……。



「……そう、だな。」


 俺はエマに対して笑みを見せた……悲しみと、苦しみ、様々な感情が乗った……そんな笑みを。



 ーーー


 そうして、俺とエマとメルトの3人は、命界から脱出した。


 メルトは扉の仕事に戻り、俺たちは人気のないところまで一旦、来た。

 メルトは……強い。耐えているだけなのかも知れないし、俺たち以上に思い入れがないからかも知れないが……しっかりと弁えていた。仕事とそれ以外、そこの判断はしっかりしている。そんな事、俺には出来なかった。




「……神器って……あんなにも残酷だったんだ……」


 エマはその路地で泣き出した……


「……エマ。」


 俺はエマの背中を撫でる……少しでも、命界で発散しなかったその悲しみを……理解してあげたい。


「私ね……ただただ面白いと思って、夢みたいで、魔法みたいで、興味があったから神器のことが好きだったの……」


 エマは……そう、だよな。分かっていた。


「でも……あんなにも残酷で、犠牲が必要で……知らなかった……どうしよう……わたし……わたし……」


 エマからしたら、その真実はあまりにも残酷で、受け入れ難い事だろう。

 それは俺よりも神器のことを好きで、研究するほどに熱心で、夢の道具だと思っていたからこその、辛さなんだ。


 今まで、何となくはエマだって神器の謎について、その雰囲気は感じ取っていたはず。

 でも、その辛さはエマの心を大きく抉った……のだろう。


 俺はエマを手繰り寄せ、そのまま抱きしめた。


「……いっぱい、いくらでも泣いていい……」


「……うん。ありがとう、樹……」


 俺はずっと、気づいていなかった。

 きっとエマが真実を知れば、その時は、きっと神器のことを嫌いになるって。

 そう、もっと早く気が付いていればよかったのかも知れない。


 でも、神器の正体は俺たちには予想も出来ないほどの事だった……


 俺はもう、エマの泣く様子をただただ聞くしか、無かった。


「……樹は、裏切らないでね……。神器、みたいに。」


 エマは泣きながら安心したようにそう言った。



 俺はそれに応えられるか分からなかった。


「勿論。」


 俺は、そう嘘を吐く。




 考えたことがある。

 ……守護神器を集める理由って、何だろう。

 守護神器があれば、ロストリアからの侵略を阻止できる……らしい。


 それしか今はわからない。


 でも、具体的にそれってどういうことなのだろうか。


 守護神器を使えば、人は基本死んでしまう。


 俺が不死という属性……呪いをディアボロスに与えられたのは守護神器を使っても大丈夫だという、そういう部分なのではないか。


 だからこそ、無限に使える俺がいるからこそ、このテトラビアは救われるのではないか。

 そういう風に思えてしまう。


 だとしたら、ヴィクトリア達は未来を見て、過去を見て、それを初めから俺に託すつもりで、そういうことを考えていた……のかも知れない。


 もしくは、それよりも上の存在が……。


 そんな可能性すら、見えてしまう。




 もし、俺の不死に限度があったり、エマと別れるような事とかが必然、歴史だとしたら、俺はエマの願いに対して答えることは出来ない。


 そういう嘘なんだ。


 これは、神か……ヴィクトリアみたいな未来視できる存在のみが知る、結末なんだ。


 ーーー


 数日後。

 俺たちは皆覚悟を決めた。


「……これが最後の守護神器争奪になる……。最後の守護神器は寵愛の盾……5000年前、持ち出される前にテトラビアに残す。」

「決まりですね。」


 最後の旅行……かも知れないそれは、俺とエマ、そしてメルトで出発する。

 今日はその為の作戦会議……だった。


「……そう、だね。」

「それでだ。俺たちは今回、仮面を被って行こうと思う。」

「……正体を隠す為ですか。」


 メルトは俺の用意した仮面を手に持つ。


「……にしても、デザインがダサすぎませんか。」

「……いいんだよ。気にするな。顔を隠すだけだ。」


 エマもまた、その仮面をつける。


「そしてもう一つの目的、それが……アルマードの討伐、だ。」


「アルマード……ニケの先生にして……銀河同盟という宇宙支配を目論んだ……宝石の精霊族だね……」

「そう。精霊族ということは間違いなく証の力を使いこなす……それがどんなものかは分からない。気をつけよう。もしかしたら荒びの鐘のような、全世界に対して情報を知れる可能性とかも考えられる……」


 それが一番厄介だろう。


「銀河同盟ってくらい宇宙支配目論んでいるならヴィクトリアみたいに未来過去みたいに色々なところを見える力を持っていても、おかしくないかも知れないですね。」


 そうだ。メルトの言う、その通り。


「じゃあ……行こっか……最後の守護神器の所……へ。」



……こうして、俺たちは5000年前へと旅立った。

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