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【完結】神の器の追跡者  作者: Ryha
第二章 光が降り注ぐ日
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第007話 認識を変える神器

 ナイフを手にし、地図のあった大部屋に戻ると、そこには準備万端な反乱軍が揃っていた。


「ーー準備はいいか!!今夜那都へと向かう!まずは同志に合流し今後の活動から確認する。お前ら、死ぬなよ!生きてこの戦争を終えよう!!」


 オードはそう皆を奮い立たせた。それに呼応するように皆は掛け声を出した。

 その陰である1人の鳥人は密かに笑っていた。俺やエマ、その他反乱軍はそのことに気づくことは無かった。


「では今夜、15時に出発する。ダン族は夜行性では無い為、バレないように夜出発する。夜道故灯りはほぼない。それに今夜は雨だ。道に迷わない様にルートを確認しておけ。そして今のうちに目元を塗り、ダン族に紛れる準備も済ませておけ。」


 オードはそう続け、その場は一時解散となった。解散と言っても、殆どの反乱軍はその場に残る。外に出たら差別の可能性があるからだろう。


「そういえば、今オードさんは今夜15時って言ってたけど……15時は夜なのか?」

「あーー!そうそうこのダガランのある惑星の自転周期は17時間だから、15時はもう日没後だね!」


 24時間の概念はあくまでも地球の物。この世界じゃその常識も通用しないか。


「そうそう、テトラビアは24時間だけど、私の故郷のグレートグレンデなんかはそもそも夜明けは来ない惑星だし、ここは比較的普通だね!」

「夜明けが来ない……つまり太陽がないわけか?そんな国存在できるのか?」


 エマはその反応に対して違う、そうじゃないと言う感じに指を振る。


「いや、太陽がないわけではないよ!私の故郷のグレードグレンデのある星は公転周期と自転周期がほとんど同じ!だから、常に同じ面を太陽にむけ続けるんだよ!」


 ここでいう太陽は勿論グレートグレンデのある惑星系の恒星を指すことは間違いない。


 その話を聞くと地球と月の関係性が思い浮かぶ。月は地球に対して同じ面しか見せない。それは地球の周りを回る周期と月自身の自転周期、それが一致しているからで、そのような例は案外身近に存在する。つまりは太陽が常に出ている灼熱の大地と、永遠に夜明けが来ない極寒の大地が常に存在する、それがグレートグレンデなのだろう。そんな星でも生命体が存在できると言うのは俄かにも信じがたい話ではあるが、実在するか、したのであろう。グレートドーンという国もそうなのだろうか。



「グレートグレンデもこのダガランと同じように、違う面で大変な国なんだな。」

「まあね、そんなんだからここほど緑豊かじゃ無いしね……テトラビアに初めて来た時はその圧倒的な自然の豊かさで圧倒されたくらい!」


 どこか虚な目でそうエマは言った。


「それじゃあ、まずはお昼ご飯食べよっか!」


 俺とエマは反乱軍のアジトを背に、レストランへと戻って行った。



 その夜、反乱軍は動き出した。


「総員、絶対に逸れるな。また樹とエマを危険に晒さないように!今夜のうちに那都のアジトまで行くぞ!」


 彼らは腕に隠れた翼を広げ、飛んでジャングルのように聳え立つ紫色の高い木々を抜けてゆく。その姿はまさに巨大な鳥だ。



 もう、眼下には街はない場所まで来た。俺とエマは人力車のような要領で、複数人に吊られる箱の中に入り、過ごしている。

 雨だとオードは言っていたが、これはまるで嵐だな。この嵐の中飛び続けられるダガランの鳥人は本当に超人のように感じる。


「これが、鳥人の力……」


 高い場所から、壮大な雨天のジャングルの景色を見ながら俺は感動する。


「初めてこの乗り物に乗った時は困惑したけど、慣れればスリルあって面白いよ!」


 面白い、では済まないレベルな揺れな気が。4人程度で吊られているとはいえ、その羽ばたきと雨は確かに振動として伝わってくる。

 2019年……一年前に発売されたポケットモンスターソード・シールドで出てきたアーマーガアタクシー、それを彷彿とさせるか。あの主人公もきっと乗り物酔いしていたのだろうか。


「……エマ、前も乗ったことあったのか。」

「うん。この鳥力籠はダガランの公的な交通機関でもあるから、テトラビアの人には結構使われるんだよ〜!まあダガランの人は普段使わないけどね。」


 ダガランの人はそのまま高速で飛べるし、早い交通機関というものが要らなかったのだろうか。車や飛行機などの乗り物が存在しないというのも特徴的だ。


「ところで、彼らはこんな夜道・雨天の視界でも良く木に当たらないで進めるよな。」

「まあ、俺たちガラ族は夜行性からの進化だし、獲物を捕まえる為に目も進化してるんだぜ。」


 俺らを吊り下げていたガイがそう言う。ダン族はさっき夜行性じゃないと言っていた。そこもダン族とガラ族の違いなのだろう。


「だけどお前、夜間飛行苦手だったじゃないか。」


 もう1人の反乱軍のメンバーはそう言った。同時に吊り下げ役を担っていた残り2人もそれに対して笑っていた。


「うるせぇ!夜にちょっと弱いだけだ!」


 ガイは笑う3人に対して言い返す。

……ピカッ

 その刹那大きな爆音と共に正面奥の木に落雷が落ちた。火が瞬く間に燃え広がる。この世界の空気構成のせいか、ところどころで爆発のようなものも起こっている。目の前は火の壁のようになっていた。


「……おいおい、大丈夫なのかよ」


 俺は心配する。


「正面に火の壁あり、樹とエマは上空に迂回させて火を超えてくれ。」

「了解。」


 オードはそう指示し、鳥力籠を抱えるガイたちは4人は反応する。

 その瞬間、エレベーターが上昇するときのような感覚が体全体に広がる。

 これ、公的な交通機関なのに中々に乗り心地は悪い。

 鳥力籠に関係ない、そのほかの反乱軍のメンバーはそのまま火が燃え広がり、ところどころで木の幹や葉っぱが落ちてくるような密林を突き進んでいく。


「本当にあいつら超人だな。」


 俺とエマはその様子を見ながら、俺は独り言を言う。


「ね〜」


 その総勢50名ほどのガラ族の反乱軍は、そろそろ嵐のような森を抜けようとしていた。

その先は草原地帯だった。

 草原地帯にて、遅れて上空から俺たちは合流した。


「見えたぞ。那都だ。総員、事前に打ち合わせした通り小隊になり低空飛行態勢を取れ。草原地帯は奴らの縄張りだ。反乱軍とバレると攻撃されるため、500メートル付近までしか飛んでは近づけない。少人数に分かれて着陸し別々の場所、時間に那都の検問を突破する。特に、客の樹とエマは優先だ。いいな!」


 オードは俺たちに対して若干厳しい目を向けてはいたが、客人として扱ってくれているみたいだ。

 オードは遅れている俺たちのためか、紙電晶を通して、通信によって皆に命令する。彼らは腕に巻いた紙電晶で反応する。

 その様子はアップルウォッチを使うのと大差ない。紙電晶はスマートフォンと変わらないか。


 そして、50人は1日(17時間)かけて別々に侵入することに成功できた。……しかし成功したと思われたその那都への侵入は、将軍ギルの元へと密告されていた。



 反乱軍が全員侵入するまでの約1日の間、俺たちは那都を堪能した。反乱軍と政府率いる軍が戦争中とはいえ、それは那都の中心部、城前の広場が主な戦場だった。その戦場と遠い為と、北砂の件でそもそも一時休戦状態となっていた為、那都のテトラビア街は民間人で溢れていた。


「こんなに安全なら、カーラのやつ那都に飛ばしてくれてもよかったんじゃ」

「いやいや、テトラビア人の為の街は那都の中でも南側だから城まで距離があるし、扉が開くアクセスポイントの鏡は城前の広場だし、昨日はまだ戦争中だったわけだし!無理だよ!」


 そりゃあそうか。


「にしても、テトラビア人の為の街なんか、鏡のすぐそばに作ればいいのに……」

「そうなったら、ここにくる意味がなくなるでしょ〜!多分そう思ってるんだと思う。」


 海翔にはそもそもテトラビア街というものは存在してなかった。大都市にのみ存在する、異文化から自国の文化を守る為の配慮、移民の住むところといったところなのだろうか。

 その日の夜、受け取っていた紙電晶で全員が侵入できたことが連絡された為、俺たちは反乱軍のアジトへと足を運んだ。そんな那都の反乱軍アジトは、意外にも人気のない那都の南部の田舎の巨大な橋の下にあった。



「ーーよく来たな、エマと樹。話は聞いている。協力感謝する。反乱軍の長ダリだ、よろしく。」

「よろしくお願いします。」

「よろしく〜!」


 俺とエマは反乱軍の長のダリと握手を交わす。

 ダリはオードのような巨漢ではなく、戦場から引退し司令官として関わり続けているようなそう言った貫禄がある。服はダガランの人が着ているものと変わらない。

 人間で言うと70歳くらいだろうか。白い髭を生やし髪色も他の反乱軍のメンバーと比べると白っぽく変化している。

 海翔でも思ったが、やはり鳥人は身長が高いらしい。鳥人の女性であるルーは170cm以上ある俺より10cm以上高い。平均身長180cmから200cmといった所だろうか。威圧感がすごい。


「二人とも、この言葉に聞き覚えはないか?扉に導かれし者。」


 この国に来てその言葉を聞くとは思っていなかった。


「……どういうことですか!ダリさん。」


 ルーが問い詰める。

 そのダリの言葉に、他の反乱軍のメンバーも驚く。


「扉に導かれし者って、ダリさん。あなたはテトラビアの関係者だったのか?」


 俺は聞く。


「ああ、俺は元、扉に導かれし者だ。」


 あたりはざわつく。「……え?ダリさんが?」や「もしかして議員辞めた理由って……」などの反乱軍メンバーの声が聞こえる。


 少し間を置いて、座っていたダリは立ち上がり、空を見上げた。


「皆にも話さなければならない。あの槍の真実を。」


 ダリはそう言った。


「……何かあったのか?」


 何かあったように感じるその表情を見て、俺は質問した。



「ああ、そうだ。そうなんだよ……。あれは2年前、俺は突然光に包まれ、気づいた時にはテトラビアという国にいた。」

「2年前って、確かテトラビアとダガランが国交を結んだ年!」


 エマが言う。


「その時確か巫女、だったか。その人にダガランの情勢について相談したんだ。俺はダガランの議員をやっていたから情勢には詳しかった。そしたらその巫女は槍について教えてくれて、それこそがダガランの為になると言ったんだ。それを信じて俺は槍を持ってきたんだ。」

「まさか、ダリさん。あんたはダン族のスパイだったのか?」


 オードも疑心暗鬼に聞く。その時の手は腰にかけられた剣にあった。いつでも殺せる準備をしているのか。

 だがそうなるのは当然だろう。急に味方が敵の持つ物を持ってきた。と言ったのだ。



「まあ待て、続きがある。帰ってきたときのダガランはもっと悪化していたんだ。俺もわからないが、数ヶ月経っていたんだ。向こうには7日もいなかったはずなのに。妻子は俺の帰りを待ってくれていたから普通に生活に戻ることができたが、1年もの間、俺はこれがどうダガランを救うのかと家で考え続けた。」


 親切なのか、不親切なのかわからない巫女だ。だが、あのカーラがそんなことをするとも思えない。そもそも、カーラだったらエマが一昨日していた、槍の話に対して反応しないわけがない。槍を持ち出させた本人があの反応だったら矛盾している。


「もういい。ダリさん。あんたが裏切り者だったなんて思いもしなかったぞ。」


 オードはダリを斬りかかろうとする。


「待って。ダリさんは違う。話を最後まで聞いてあげよう。」


 俺はその剣の前に入って止める。


「……まあ樹がそう言うのならば。」


 俺は今不死だ。ダリが目の前で死ぬのを見たくないし、俺なら剣を受けても死なないはず。そう思ってその行動をした。


 というか、帰ったら数年経っていた、というのもとても気になる。もしかして、あの扉は時間もおかしくなるのか?それとも、ダガランとテトラビアの自転や公転の差だろうか。


「薄々気がついていたんだ。巫女は俺を騙してたんじゃないかって。俺は槍の使い方のメモを貰ったがこっちに戻ってきたら読めない字に変わっていて、そもそもどうすることもできなかった。だから1年間解読しようとして、巫女の本当の真意を知ろうとした。そんな事をしながら妻子との普通な日々を過ごしていた。だが1ヶ月ほど前、自宅はダン族に襲われ、家族は姿を消し、槍とそのメモは盗まれた。その結果、今の様にその槍は悪用されてしまった。あの時、巫女の言葉を信じなければ、こんな悲しい結果にはならなかったんだ。……ごめん。みんな!!!!」


 ダリはその場に土下座する。


「今回の戦いがおそらく最後になる。俺はそう考えている。だからこそここで言わなければ、言う機会がなくなると思い暴露させてもらった!!この真実を墓まで持ち込むことは俺にはできない。本当にすまない!!!!!」


 最後の最後とはいえ、隠し通せる事を隠し通さなかった事。それは長としての決意とも取れる。

 勿論、そのダリの言葉に賛同しない人はいなかった。


「そんな事を知っても、ダリさんは俺たちのダリさんだ。今までの貢献もあるし失望なんてしないさ。」


 ある反乱軍の人が言う。


「斬りかかろうとしてしまい、本当に申し訳ない。俺はダリさんに一生ついていく。」

オードもその話を聞き、納得したようだ。他の反乱軍も同じように、ダリのことを信用しているようだ。


 その暴露は、結果としてより結束を強める物となった。



 辺りのダリへの同情が一段落した時に、独り言のように思い出して、ダリは言った。


「しかし、俺が解読できなかった使い方をどうやって奴らは解読したのだろうか。」

「ペンダント……。」


 エマはボソッとそう言った。


「どういう意味だ。」


 ダリは聞き返す。


「テトラビア内部では言語が通じる!でも、ここにきたらペンダントがないと言語は通じないし、読めなくなる……」

「つまり、国交が正式にあるダン族が俺の持ってたメモ書きをそれと同じペンダントで解読して、悪用したということか……」

「いやでも、カーラがそんなメモとか槍を渡すだなんて思えない……」


 俺は答える。あのカーラはそんな性格じゃないことは数回喋っただけでもわかる。


「……誰の事を言っている、お前達?巫女の名前は、ジェーン・ホールだろ?」


 俺たちとの認識の差に、ダリは困惑する。勿論、その回答に俺たちも困惑した。


「少なくとも私が来た2年前からカーラは巫女だった!私を最初に導いてくれたのもカーラ。だからそんな人は、知らない……」


……その認識の差は、巫女と神器をより謎へと導く。

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