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呪われた屋敷に、住み込みで働きます!  作者: 工藤 でん


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【24】神の声

クライマックス入ります!

マーメリズは聖水の湧き出る池の近くで花を植えていた。殺風景な庭に少しでも彩りを加えたいと思ったのだ。



花壇作りは学校が休みの時にラクトが手伝ってくれた。花壇を一から作るとなると主に力仕事になるので、マーメリズはラクトの申し出をありがたく受けていた。

ラクトは大抵剣の鍛錬の合間にやって来るので、コーキにズタボロにされた後である。その割に、マーメリズと一緒に何かできることがうれしくて堪らない、という顔をしていた。マーメリズを見る目は甘い。極甘仕様だ。

そこへキュービがちょっかいかけてきたりすると、途端にすんっとクールな目に変わる。マーメリズは時々、ラクトの中に別人格が同居してるのでは、と思うことがあった。



屋敷は呪いが消えて、呪術からの防御が一旦無くなってしまった。コーキが作っていた呪いの力を転用した呪詛返しのシステムの、大元の力がなくなったからだ。

コーキはマーメリズからシーサイ国で使われていた破邪の仕掛けを教わった。それをアレンジして、庭の聖水の力を転用し、さらに強力な呪詛返しを作り上げた。屋敷は以前より強力な結界に守られていた。

マーメリズはコーキの持つ呪術センスに、舌を巻くしか無かった。どうりでタインが呪術研究所に引き込んだわけである。

現在のコーキは霊力を感じ取る能力を身につけようと、宝玉相手に訓練中だ。コーキの集中力はすごい。放っておくといつまでもやっているので、マーメリズは時々声をかけに行く。十歳男児の見かけで、寝食を忘れるタイプの研究者がそこにいた。



マーメリズは用意した花の苗をあらかた植え終え、色のバランスを見て満足した。定着して花が増えたらさらに綺麗に見えるに違いない。学校から帰ったら、ラクトに見てもらうことにしよう。



脇の池からバケツで水をすくい、花に水をまいていく。寒くもなく暑くもなく、とても過ごしやすい日だ。時々柔らかい風が吹いて、マーメリズのダークブラウンの髪を揺らして行った。


マーメリズは空を見上げた。

綺麗に晴れている日だ。青い空が一面に広がっていた。とても気分がいい。

こんな日に集中するとすごく深く集中できた気がして、マーメリズは昔の聖女教育を思い出していた。

時々周りの声が聞こえなくなるくらい、集中できることがあった。肩を揺さぶられるまで祈り続けていたことが、何度か。あの独特の感覚は他では味わったことがない。



やってみようかな、と思ったのは、ほんの悪戯心だった。今日は呪術研究所へ行く予定もなく、時間に余裕があったから、というのもある。

手を胸の前で組み、祈りを捧げる。祈りの対象は何でもいい。マーメリズは漠然と天に祈っていた。



自分の中で色々なことが思い起こされて、それが落ち着いてくると、何も考えなくても過ごせる時間がやってきた。集中が深まると無に近い状態になってくる。

以前にも体験したことのある感覚だった。

マーメリズが久方ぶりの無の状態を感じていると、徐々に情景が見え始めた。



椅子にだらしなく座った男と、その足元に座ってそれを見ている女。女は体こそ人であったが、顔は動物だった。ネコ科の動物である。あれは、なんだろう。

マーメリズは意識を少し近づけてみた。

女の顔はヒョウのように見える。体は女性で顔はヒョウ。

椅子に座った男もよく見えてきた。薄茶色と透き通った炎色の髪。整った顔立ち。目は閉じられているが……。


――コーキだった。大人のコーキの姿だった。意識を失ったコーキが、椅子に座らされている。

女がふとこちらを見た。ヒョウの金色の目がこちらを捉えたと感じた。

さっと、情景が掻き消えた。



マーメリズは我に返った。

今見た情景を、しっかりと思い出していた。

喉がカラカラになっている。

頭の芯が疼くような痛みを発していて、マーメリズはこめかみを押さえた。


キュービが走り寄ってきた。屋敷から全力疾走してきている。仔犬のような白い聖獣は、マーメリズを焦ったように見上げていた。


「マーミィ、今の、マーミィの神託か?」

「……キュービ」

「なんかさ、すごいクリアな映像が急にきてさ。わし、映像で神のお告げ来たことないし!」

「キュービも、見たんですか?」

「見たよ。見た見た。

あれ、コーキじゃん」


マーメリズは確信した。本当に、キュービと映像を共有している。

物凄く久しぶりに、自分は神の声を映像で捉えたのだと思った。



「……そうですよね。あれ、コーキですよね!」

「一緒にいたのも、見た?」

「……はい」

「……これさあ、ややこしいことになってない?」

「なってます。でもあらかた説明がつきそうな気がします」

「んー、分かるっ。

だからあいつらへの説明はマーミィに任せたっ」

「ちょっと、キュービっ?!」

「わし、ちょっと調査してくるわ。夕飯いらなーい」



キュービはその場で本性を現した。体長五メートルほどのドラゴンとなる。翼を広げ、空に飛び立った。見えにくくなったのは、姿をくらます魔法を使ったのだろう。羽ばたきによる風だけを残して、キュービはいなくなっていた。


マーメリズはその場で立ち尽くしていた。

キュービの消えた空を見上げる。

コーキとラクトに、うまく説明できるか、心元なかった。




夕食後、マーメリズはコーキとラクトに声をかけた。

幼い姿のコーキはキョトンとし、ラクトは首を傾げている。マーメリズが妙に改まっていたからだ。

二人は不思議そうに顔を見合わせて、お互いに「おい、なんだ?」「セクハラで訴えられるのか?」「セクハラしてる自覚あんだな?」「最近やってないよ?」「マーミィにセクハラしたら俺がお前を殺すからな」「ラクトくん、独占欲強すぎ」などと言い合っている。


マーメリズは熱いお茶を入れて、ダイニングテーブルについた。コーキとラクトは、その前に座った。

マーメリズは淡々と、二人に話し出した。



「……今日、ものすごーく久しぶりに、神の声が聞こえました」

「は?」

「え?」


コーキとラクトが仲良くハモってマーメリズを見た。この瞬間は本当に良く似た親子だった。


「もちろん私の能力なので、映像ですね。

ある映像が見えたんです」

「……」

「大人の姿のコーキと、コーキを見つめている女性の姿です」

「……それって」

「女性の顔はヒョウのように見えました」

「……あの、悪魔か」


コーキが呟いた。

コーキは七年前に魂を分けられ、半身を悪魔に持っていかれている。大人の姿を悪魔に持ち去られ、子供の姿が今ここにいる。

その時に、悪魔の姿も見ていた。

マーメリズはコーキに向き直った。



「その悪魔、悪魔じゃないです」

「……どういうことだ?」

「この国の宗教は一神教です。だから分かりにくくなっているんです。

――カカルス教の神の絵姿は、人に寄せて描かれてますよね」

「……そうだな」

「そういうものではないのか?」


マーメリズが何を言い出すか見当がつかないらしく、二人は微妙に居心地の悪い顔をしている。

マーメリズは続けた。


「私は多神教の国からきました。多神教ですから、色々な神様がいるわけです。

神様のお姿も色々なんです。もちろん人型が多いです。ですが、象もいますし、牛もいますし、鳥だって犬だっているんです」

「「!!!」」

「ヒョウの顔をした神様もいらっしゃいます。

女性の体にヒョウの顔を持つ神様は、嫉妬と羨望の神、エンバイ神と呼ばれています」


コーキは右手で心臓の当たりを掴み、マーメリズを見据えた。強い視線にマーメリズは少したじろいたが、気持ちを強めた。コーキをまっすぐ見返した。


「一神教の方には悪魔のように見えるのかもしれませんが、悪魔ではく、神様です。

だから、呪いではないのです」

「じゃあ、これはなんなんだ。なんで神がおれを分けて持ち去った」

「おそらく、贄です」

「にえ?」

「コーキはエンバイ神に捧げられたんです。捧げられたものだから、神は当然持ち帰ります。エンバイ神にとって魅力的だったのがコーキの見かけだったのでしょう。大人のコーキを持ち帰った」

「……残ったのが、今のおれか」

「契約内容までわからないので、おそらくとしか言えませんが、限りなく真実に近いと思います」



コーキがトントンとテーブルを指で叩いている。

イライラしながら考えている時の癖らしい。

軽く睨むように、マーメリズに視線を投げた。


「贄を捧げるということは、捧げた奴に見返りがあるはずだな」

「そうですね。契約になりますから」

「俺がチビになったのが、七年前。

七年前にあったこと」

「六年前なら、あったぞ」


ラクトがコーキに嫌そうな顔を向けている。

それを見て、コーキがげんなりした顔をした。


「……あれか」

「ヘレン司祭が司教に抜擢されたんだ。史上最年少で」

「……ヘレン司教って、コーキに玉砕した、女性司教ですよね?」

「それ。

当時も黒い噂は流れたんだ。司教候補が次々にリタイアしていって」

「怪我、病気、スキャンダル、突然死。すべて証拠不十分で黒い噂はうやむやになった。

そして、ヘレン司祭だけが残って司教になった」

「殺したいくらい憎んでるコーキを贄に、見返りまで手に入るなんて、一石二鳥もいいとこだし」

「その噂の真相が、別の神の御業だったりしたら……」



三人の目が合わさった。

自然と三つの頭が近付いた。

周りに誰もいないというのに、小声になっている。


「カカルス教は多神教を認めない教義だ」

「そこは徹底している。排他的と言ってもいい」

「カカルス教の司教が、他の神を崇めているなんて知られたら」

「間違いなく降格、いや、追放かな」

「贄を捧げるような儀式を行うには、簡易的であっても教会、もしくは神殿が必要でしょう」

「未だにコーキがチビのままってことは、まだその神殿か何かに、エンバイ神がいるってことじゃねえ?」

「おれの体と共にな」



カツカツと、唐突に窓が鳴った。

三人が一斉に戦闘態勢に入った。

コーキは短剣を抜き、ラクトはカトラリー入れに入っていたナイフに炎を纏わせ、身構えた。マーメリズはいくつかの氷の刃を空中に浮かせ、窓に向ける。


その様子を窓の外から覗いていた仔犬サイズのキュービが、恐ろしさのあまり窓から転げ落ち、腰を打った。



□ □ □



「酷いよう、酷いよう。

わし、急いで帰ってきたんだよ? ちゃんと成果を持って帰ってきたんだよ?」

「悪かったって。かなり深刻な話の最中だったからさ」

「美形が三人、揃って殺気向けてくる迫力と恐怖、味わったことある? ねえ、ある?」

「キュービ、おこがましいので美形に私を入れるのはやめてください」

「マーミィは最近綺麗度上がったから、充分美形だよう。殺気を放つと目で殺せそうなんで自覚したほうがいいよ。

……ああそれにしても、マーミィっていい匂い」

「てめえ、キュービ。殺されたくなかったら今すぐマーミィの膝から降りろ」

「わかった。それじゃあ、胸に移動するね。マーミィの大きなおっぱ……」


マーメリズの膝で、打ち付けた腰を撫でてもらっていたキュービは、もそもそと胸に移動しようとした所を目の据わったラクトに捕まえられた。

片手でキュービの首を絞め、片手で尻尾を引き抜こうとしている。


「痛い痛い痛い、ちょっと待った! ホントに待って!

わしを解体しようとしないで! 今の冗談だから!」

「冗談とかいいながら、やるやつだよなお前」

「キュービ、最近のラクトは容赦ないよ? 自制心というストッパーを粉々にぶっ壊してから、ラクトの制裁はかなり過激になってるよ? 空気は読んだほうがいいぞー」

「どゆこと? 何それ、どゆこと?」


コーキがラクトからキュービをもぎ取って、テーブルの上に置いた。

その間にマーメリズがラクトの両手を握って、めっと言っている。それだけでデレている息子は見ないことにした。



「んで、その成果っての、聞かせてもらおうか」

「マーミィからエンバイ神の話は聞いてるんだよね、キミ達」

「ああ」

「この国でエンバイ神の気配を探ってきたのよ。コーキの体も、そこにありそうじゃん?」

「そうだな」

「意外と近くにあって、びっくりよ。まあ、近くだからこの時間に帰って来れたんだけどさ」

「どこだ?」


三人の目が白い聖獣に集まった。

キュービは黒い瞳で周りを見渡した。

髭がさわさわと動いていた。



「王都の隣にある、教会の荘園の中だ。洞窟の中に気配がある。

コーキの体は、多分その中だな」

連続、投稿!


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