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呪われた屋敷に、住み込みで働きます!  作者: 工藤 でん


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【16】信仰心

シリアス&ちょいキュンで

コーキはマーメリズに椅子を近づけて座った。向かい合う形になる。


「まず、さっきの襲撃な。あれはハーヴィ教のやつらで間違いないとは思うんだけど。

刺客では無いと思う」


マーメリズは目を見張った。

自分を殺しに来たとしか、考えていなかったからだ。


「ハーヴィ教は戦いに敗れた。聖女が神の声を聞けなくなったことが大きな要因だ。離れていく信者を引き止める、もしくは引き戻すには、神の声を、もしくは類することを伝えられる存在が必要になった。

過去の記録を当たると、声ではなく、映像で啓示を受けた聖女見習いがいた」

「あ、さっきのマーミィの話……」


ラクトがマーメリズを見た。

マーメリズは目を見張り、さらに口をぽかんと開けていた。

映像での啓示とは、あれのことだろうかと、かなり昔の記憶を掘り下げていた。



「先代の大聖女の娘、というのもある。ハーヴィ教は教会の存続をかけて血眼になってカミュを探したんだろう。

目的は殺害ではなく、拉致だ」


マーメリズは、拉致、とつぶやいた。

コーキはマーメリズに目を向けた。


「マーミィは、ハーヴィ教会に戻る気はある?」

「……絶対に戻りません」

「オーケー、一応確認したかった。

もう一つ聞きたい。ハーヴィ神に対する信仰は、いまだに深い?」



信仰、とマーメリズが小さく呟いた。

マーメリズは静かにコーキに対峙した。

まっすぐな視線は、誰も映していなかった。


「私に信仰心はありません。そもそも私は信仰というものが、しっくりこないのです。

神はいます。でも神は何かしてくれるわけじゃありません。神は神の理の中で、存在しているだけです。救いをくださるわけではありません。

――私を救ってくれたのは、神ではなく、今までずっと、人でしたから」



コーキはマーメリズをじっと見つめて、黙って頷いた。

ラクトは複雑な思いでコーキを見ていた。

特に宗教色の強い人間では無いが、教会に所属していた期間もある男だ。何も思わないわけではないだろう。


気を取り直したように、コーキはマーメリズに身を寄せた。



「じゃあさ、思い切って改宗しちゃうのは、あり?」

「改宗……ですか」

「信じる神を変える。対外的にね。

この国の、国教の信者になる」

「……この国の宗教。それって」

「うん」


コーキは腰に差していた短剣をテーブルに置いた。

鞘には教会の紋様が入っていた。

この男は、元聖騎士だ。教会の抱える騎士であった。


「カカルス教だ」

「……」

「よりによって、ハーヴィ教を潰しにかかったカカルス教だ」

「……はい」

「マーミィが、正式にカカルス教の祝福を受けて信者になれば、ハーヴィ教はハーヴィ教の聖女として、マーミィを迎えることは出来なくなる。今日のような襲撃もなくなるだろう」



マーメリズはコーキの短剣の紋様に、恐る恐る触れた。この国のあちこちでこの紋様を見てきた。自分には縁のないものだと思っていたのだが。

ハーヴィ教の教会の姿が脳裏に宿る。それを打ち消すようにカカルス教の紋様を目に刻んだ。

マーメリズは覚悟を持って瞳を上げた。


「改宗します」

「うん……勇気あるな」

「わたし一人のちっぽけな信仰は、どうとでもなります。それよりも、ちゃんと人として生きることの方が大事です」

「……わかった」



コーキは眩しそうにマーメリズを見つめた。大人のコーキの甘さが漂っているようで、マーメリズはどきりとした。外見は子供のコーキなのに、胸が締め付けられるような感覚がよぎる。

最近時々、このようなことがある気がした。



「もう一つ、ギミックを付けておきたい」

「ギミック、ですか」

「この国でマーメリズの戸籍を作る。ハーヴィ教が手出しをしにくくするために」

「戸籍なんて、作れるんですか?」

「裏技を、重ねがけした。どうやったかは、ナイショ。

だけど、ごめん。本名は危険で無理だった」

「そんなの全然……」

「さらに念を入れた」



コーキがタインを顎でしゃくった。

タインの銀色の髪が揺れて、マーメリズに顔が向けられた。ごく自然体でタインは重要な言葉を口にした。


「マーメリズは、俺の養女になる」

「え? ……ええっ?!」

「タインはこう見えて貴族だ。

タインの正式名称は、タイン・オクロード・エルフィス男爵」

「えええっ?!」

「爵位のある貴族の娘を拉致なんてしてみろよ。国を挙げてハーヴィ教を叩いてやるさ」


コーキが不敵に笑った。

十歳男児にはおよそ不穏当な表情となった。



マーメリズは慌ててタインに向き合った。


「そこまでしていただく理由が、私にはありません!」

「別に。俺には跡継ぎがいない。

俺は俺の代で廃爵してもいいと思ってたし」

「タイン、独身主義だもんな」

「国からどうしても続けろって言われたら、養子を取るつもりではいたんだ。それが養女で何が悪い」

「それが、私みたいなポンコツでは駄目ではないですか!」

「俺は君を気に入ってるし、評価してるよ」


タインは実にさりげなくマーメリズに言った。

気負うことなくマーメリズを見つめている。


「呪いに強い体質、今考えれば聖女教育受けてんだから増強されてんだな。こんな得難い人材はいない。

さらに、こいつらみたいな生活落伍者抱えて、笑って生活している胆力は相当のものだ。

手元に置けるなら、確実に置いておきたいね」

「……そんな」


首を振り続けるマーメリズに、コーキは優しい笑みを向けた。

普段のいたずら小僧のような顔を引っ込めて、ただ優しく笑ってくれる。


「いいんだよ、マーミィ。

大丈夫」

「でも……」

「いいんだ」


コーキが笑って頷いた。



マーメリズはタインを見た。肩頬を上げて頷いてくれた。

マーメリズは再びコーキを見て、ラクトを見て、キュービにも目をやった。コーキは笑顔で、ラクトは当たり前だと言う顔で、キュービは黒い目をくるりと輝かせた。


皆、いいよと言っていた。

マーメリズを受け入れてくれた人々が、さらに甘えていいよと言っていた。

断る理由が、どこにも見当たらなかった。


マーメリズは立ち上がり、深深と頭を下げた。

胸がいっぱいになって、何も言葉が出てこなかった。



□ □ □



コーキとタインが手続きを詰めると言って出掛け、キュービはもう一度寝ると言って寝床に戻った。



マーメリズはぼんやりとソファに座っていた。色々なことがすごい勢いでなだれ込み、綺麗に回収されて過ぎ去って行った。そんな感じだ。



ラクトがおずおずといった感じで、マーメリズの座るソファの、反対側に座った。

マーメリズをちらりと見て、床に目を落とした。

金色の髪がラクトの顔に影をかけていた。



「……すごいな、あの人たち」

「すごいですねえ……」

「コーキ、ずっと何か調べてたけど、これだったんだ」

「シーサイ国は情報が出ていかない国なので、驚きました。あんなに詳しくご存知とは」

「タインさん、貿易業にも手を出してたはずだから、外国の情報を集めたのかも」

「呪いの研究だけではないのですね」

「うん……。

……俺だけだな、今回何もできてないの」


ラクトは床の一点を見つめている。

いつも大人びて見えるラクトが、年より幼く見えた。

悔しそうで苦しそうで、マーメリズは声が出なかった。


「俺はガキで、なんの力もなくて、何の役にも立たない」

「……」

「君を守るって、コーキは言える。その力があるから。

俺は言っても口だけだ。君を守ってやることができない」

「…………」

「すごい、悔しい」



マーメリズは項垂れたラクトを見て、それは違うと思った。役に立つとか立たないとか、そういうことではない。

だから、ラクトに近づいて、ピッタリと横に座った。ラクトの体温を感じる。

ラクトが顔を上げてきた。綺麗な青い目がマーメリズを見つめている。



「ラクトは一番大事なものを、守ってくれてます」

「……?」

「傍にいてくれるじゃないですか。今ここにいてくれてるじゃないですか」

「……」

「一人はいやです。

たくさん辛いことや痛いことを思い出したし、悲しいこともあったし」

「うん」

「一人なら、とっくにどうにかなってます。

……でも、そうですね。まだ辛いな……」


マーメリズは自分に向けられた、ラクトの青い目を見上げた。

いつもクールな雰囲気のラクトだが、最近マーメリズを見る目は優しい。だから、言える。

でも少し、勇気が必要だった。



「……あの、ギュってしてもらっても、いいですか?」

「……」

「一人じゃないって、思いたくて」

「…………」

「甘えちゃってごめんなさい。私の方が年上なのに、おかしいですよね。

でもラクトは優しいから、甘えても大丈夫な気がして……」



ラクトは無言でマーメリズを抱き締めた。

一瞬息が止まるくらい、強い力だった。


マーメリズはおずおずとラクトの背中に手を伸ばした。

温かい。



「……まだ、辛い?」

「辛くない。温かい、です」

「こんな事でいいなら、いつでも言って。必ず、言って」

「……はい」

「君の心をほんの少し支えるくらいなら、俺にだってできるから」

「はい。

……ラクト、ありがと」



ぐっと、ラクトの腕に力が入った。

マーメリズから体を離す。

ラクトは、マーメリズと目を合わせず、こぼした。


「マーミィ、……腹減った」

「……あ、そうですね。もうお昼になりそうですね」

「学校サボったな。もういいや」

「すぐに何か作りますね! 何があったかな……」



マーメリズがパタパタと台所に走り去った。

それを見送って、じっと見送ってから。

おもむろにラクトはソファに倒れ込んだ。顔がソファに埋まった。

……尋常じゃなく心臓がバクバクいっていた。



―――グッッッジョブ、俺の理性!

吹っ飛ぶかと思ったけど、ちゃんと持ったな。

だけどかなり、本格的にヤバかったな!



倒れたラクトのそばに、キュービがとことこやって来た。しばらくつぶらな瞳で、首を傾げてラクトを見ていた。

おもむろに、白い前脚をラクトの頭に乗せた。


「……巨乳属性、堪能したか?」



ラクトは渾身の力でキュービを押し潰した。

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