表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: 暁明音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/42

9:聖女様に思い出を(後編)



    9



 ユリエルとアリスが、互いに並んで歩いて、屋台を回った。


 すっかり手で食べることに馴れたアリスが、串焼きを食べながら歩いている。

 不意に、遠間から声援が飛んできた。


「何やってるの?」

「ああ、串刺しってゲームっスね」

「物騒な遊び……?」

「いやいや。せっかくだから見てみるといいっスよ」


 ユリエルがアリスの手をつかんで、人混みの中へと入っていく。

 怖々と串刺し遊びを見やると、サーベルを持った男性が諸手(もろて)をあげて喜んでいた。

 そのサーベルの切っ先には、果物がくっついている。


「ああやって、投げられた野菜や果物を()き刺して、刺した分を持って帰る遊びっス」

「そういう串刺し……」


 ホッとしたアリスが言った。


「元々、農家の人たちが腐ってしまったモンを使って遊んでたのが由来らしいっスよ。ここでは形が悪くて捨てられるか、廃棄直前の野菜や果物を使うのが恒例っスね」


「そこのお二人さん!」


 壇上(だんじょう)にいる男性が呼び掛けた。


「参加してみないか?」

「おっ、いいね!」


 ユリエルがアリスを見やって、


「ちょっと行ってきていいっスか?」

「あんまり調子に乗らないようにね」


 頭をかいたユリエルが、演壇へと登っていく。


「次の挑戦者だぞ~!」


 アリスが驚くほど、周りの人たちが叫んで(はや)し立てた。


坊主(ぼうず)、いくぞ!」

「おっしゃ! 来いッ!」


 サーベルを持ったユリエルが構える。


「ほれ!」


 三個の果物が宙を舞う。

 ユリエルがパッと三回()いて、見事に果物を(つらぬ)いた。


「オォ~!!」


 観衆が拍手を送って、指笛を鳴らした。


「――どうっスか?」

「うん、物(すご)く上手になったね」

「お嬢ちゃんもやってみるかい?」


 壇上(だんじょう)の男性が言った。


「い、いえ私は……!」

「大丈夫、大丈夫。子供の用のヤツを使えばいいさ!」


 アリスがユリエルを見る。

 彼はニヤリとして、


「大丈夫っスよ。試合でもなんでもないし、久々に思いっきりやってるところ見てみたいっス」


 アリスがうつむき加減になった。


「どうする~?」

「やります、やりま~す!」


 ユリエルが言って、アリスの手を握ると、一緒に演壇へ登った。


「今度は可愛らしいお嬢ちゃんが挑戦だぞ~!」

「メチャクチャすげーから、よーく見てろよ~!」


 ユリエルがそう言うと、アリスが彼の肘の袖を引っ張って、


「へ、変なこと言わないで……!」

「カッコいいところ、期待してるっスよ!」


 調子付くユリエル。

 アリスはムッとしながら、子供用のサーベルを手にした。


「それじゃあ、行くぞ~?」

「――そっちの方でお願いします!」


 アリスが指差して言った。

 そこには苺サイズの小さな果物があった。


「え? これ?」

「私、それが食べたいんです」

「いいけど…… 小さいから難しいぞ?」

()()()()()よりは、腕に自信があります」


 ユリエルが頭をかいた。

 男性が小さな果物を三つ手にして、


「一気に投げるのがルールだからね? 行くよ~?」

「いつでも」

「ほれ!」


 宙に舞った三つの果物をジッと見るアリス。

 刹那、果物がサーベルの先に三つ並ぶように、(つらぬ)かれていた。


「――え?」


 何が起こったのか分かっていない男性が、ポカンとアリスを見つめる。


「ほら、(すご)いだろ~?」と、ユリエル。「ほらほら! 孤児院の新入りだぜ! スゲェだろ?!」


 まばらに起こった拍手が、どんどん大きくなって、指笛も鳴った。


「ほ、ほら、もう行こうよ……!」


 アリスがいつの間にか、ユリエルの足下に来ていた。


「じゃ、俺たちはこれで。おっちゃん、ありがとうな!」

「お、おう! スゲェもん見せてもらったぜ! 可愛いし、将来有望だな!」


 ユリエルが手を振りつつ、アリスを連れてその場を離れた。

 アリスが戦利品を食べていると、


「そういや」と、ユリエルが言った。「それ、好きな果物だっけ?」

「うん。大聖堂にいると、あんまり食べられないから……」

「いや~…… やっぱり(ねえ)さんはこっちの方がいいなぁ~」

「どういう意味……?」と、ユリエルをあおぎ見るアリス。

「大聖堂で()ましてるより、こっちの方が()()()()素敵ってことっスよ」


 今度は、目をそらしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ