64:悪魔は二度死ぬ
64
サーベルを落としたアリスは、二人から距離を取りつつ、爆弾を拾いに走った。
導火線の火は、すでに半分まで来ている。
アリスはパラペットの方まで走って行く。
だが、それよりも導火線の火の勢いが速い。
一か八か、ユリエルから遠い方向へ爆弾を投げた。
――とてもじゃないが、屋上の外側まで届かない。
もう為す術がないアリスは、その爆弾の行方を見ていることしかできなかった。
すると、空から何かが急降下してくる。
――隼だ。
爆弾を鷲づかみにした隼が、勢いそのままに要塞の外側まで飛んで、爆弾を湖の方へ落とした。
しばらくして、また水柱が立つ。
雨のように水滴が飛んできて、またみんなが濡れる。
ほっとすることも無く、アリスはハロルドとレックの姿を捜した。
二人はいつしか、屋上の端のパラペット側まで来ていた。
「は、離せハロルドッ……!!」
「聖女とユリエルは、お互いに生まれ変わっても会おうって言ってたぞ……」
「離せッ……!!」
「お互い、二度と転生しないよう祈ろうじゃないか……! こんな地獄みたいな世界、二度とゴメンだろ……?」
「やめろッ! 離せぇッ!!」
「二度と人間なんかに産まれませんように……」
そう言ったハロルドが、高笑いし始めた。
レックは彼の顔を殴ったりする。
ハロルドは意に介さず、最後の一押しをした。
笑っているハロルドとは対照的に、レックは絶叫をあげながら、ハロルドをつかんで湖へ落ちていく。
そうして、小さな水柱が立った。
駆け寄ったアリスが、パラペットに手を付いて下を覗き込む。
すでに波紋しか残っていなかった。そして、湖がどんどん茶色に変色していく。
アリスが手を付いているパラペットも、輝きだした。
「呪いが……!?」
要塞全体が、元の、ボロボロな状態に戻ろうとしている。
元に戻れば、屋上は原型を留めていないだろう。
どうすればいいのか分からなくて、狼狽するアリス。
そこへ、
「アリスさんッ!! こっち!!」
と、聞き覚えのある声が飛んできた。
――ユリエルのところに、エリカがいる。
「早く来てッ!!」
アリスは言われるがまま、エリカの元へと走った。
「ここから逃げるわよ……!!」
「で、でも! どうやってここから?」
「鳥になって飛ぶの! ジッとしててッ!!」
「えっ……?」
エリカが、半ば無理矢理にアリスの手を握りにいき、ついでユリエルの体に触った。
すると、三人が要塞と同じように光に包まれて、一匹の鷹と二匹の小鳥になった。
鷹が大きな羽を広げて空へ飛び立ち、クルッと回りながら下降して、二匹の小鳥をつかんだ。
つかんだらまた空へと上昇していく。
爪が食い込まないよう注意しながら飛んでいる鷹が、どんどん元の要塞跡に変貌していくのを、上空から見ていた。
そうして、沼地の側の平地に降下していき、地面と二十センチほどの高さになったところで、枯れ葉の上へ小鳥をポトリと落とす。
その後、鷹は少し先の方へ飛んで行き、地面に着陸すると、エリカの姿に戻っていく。
小鳥も、アリスとユリエルの姿に戻っていった。
「大丈夫……?!」
エリカが二人の元へ駆け寄る。
「私は無事です! でも、ユリエル君が……!!」
「落ち着いて、じきにライールたちが来る。――ライールッ!! こっちッ!!」
と、エリカが両手を頭上へあげ、大きく振りながら言った。
「重傷者一名よッ!! 今すぐ応急手当をッ!!」
間もなく、ライールや他の捜索隊が、森の中から駆けつけてくる。
「――急所は外れているな」
ライールが冷静に言って、医療に心得のある隊員へ、止血の指示を出した。
アリスは両手を握り、彼が無事に助かることだけを祈っていた。




