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聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: 暁明音


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27/42

43~44:冤罪(えんざい)か? 有罪か?



    43



「妙ではありませんか?」


 ライールが言った。


「ユリエルが木箱に薬物を仕込んで使用したとするなら、物証となる木箱をそのままにして放置するなんて……

 どんな人間でも、犯罪に使用した物なら処分しようとするのが、一般的な考え方というものです」


 シェーンが飲み物を飲んでから、


「太陽によって産まれる影に、悪は蔓延(はびこ)る……

 後ろめたいから隠すのですから、当然の行動ですね」


「もっと言うなら、誰かが無知なる人間を利用して、(おとし)めようとしているのではと」

「しかし、単純に王冠だけを持ち出すことに集中していて、木箱を忘れていたという可能性もあるのでは? 何せ、聖女と王冠を隠さなければならないのだし……」


「その可能性もあります。が、やはり引っ掛かりますよ……

 報告書には、ユリエルが誘拐の実行犯で、計画や準備をしたのは、仲間であるレックとジャナスだろうと書かれてあるのです。それなら、尚更(なおさら)おかしいのですよ」


「――今もなお雲隠れしているほどの連中なのに、足が付きそうな箱を、そのまま残すわけがない?」


 ライールが口角をあげた。


「確かにおかしいですな。それほどの用意周到さなのに、箱の処分を忘れてしまうなんて」

「それで私が考えてた結論が、誰かがユリエルを罠に()めたのではないか、というものです」


「…………」

「シェーン大司教は、ユリエルと一緒にいたという女の子のことをご存じですか?」

「女の子……?」


 明らかに知らないような顔をしていたから、ライールが話を続けた。


「これは、私の相方の勘――もとい洞察ですが、聖女は小さな女の子になっている可能性が高いのです」

「それは…… なんとも面妖ですな?」

「そうでもありません。原因はハッキリしています」

「ほう?」


「王冠です。アレが魔導具で、バルバランターレンの血を引く彼女が、魔導具の……

 いえ、『王冠の呪い』を使えたとしたら、どうでしょう? 確かおとぎ話か何かに、子供になった話がありましたよね?」


「あるにはあるが…… しかし、本当に?」


「可能性はあります。あの王冠が正真正銘、バルバランターレンとつながりのある遺物だとしたら、勇者伝説に出てくる魔導具の可能性も高いでしょう。

 伝説がただの伝説ではないことが、近年の遺物発見や魔導具の研究で証明されています。

 そして何かが原因で、子孫である彼女が子供になってしまった…… 現に、身元不明の女の子を保護していると、報告書には書いてあるのです」


「ふむ…… 女の子か……」

「シェーン大司教は、アリス様の子供時代のお姿をご覧になったことはありますか? 昔、見たことがあるとか」


「グレイ君に紹介してもらったことはあるが……」

「では一度、その女の子に会って確認して貰えませんか? 面会の理由がパッと思いつかないので恐縮ですが……」


「女の子を保護しているという事実について、全く覚えがないですね。私も確認をしに行きたいと思っています」


「ありがとうございます」

「それはそうと」

「はい?」

「朝食、食べないのですか?」


 ライールが自分の皿とシェーンの皿を見比べる。

 シェーンの皿は真っ白だが、ライールの方は彩りを保ったままだった。


「失敬、話しに夢中になってしまって……」

「ほっほっほっ、ゆっくり食べてください。そのあいだ、私はグレイさんを連れ出す口実でも考えておきますよ」


「えっ? グレイさんを?」

「彼にとって、アリスさんは実の娘も同然ですからな。保護下の子供がアリスさんかどうか、判断可能な適任者は彼しかおりますまい」


「それは助かります。ぜひ、お願いします」


 ライールはそう言ってから、やっと朝食を口に運んだ。



    44



 ユリエルが目を覚ました。

 鉄格子の小さな窓から明かりが漏れてきたから、それで目を覚ませた。

 光の加減から言って、もう朝食の時間は過ぎているようである。無論、朝食なんてここには無い。

 彼は上体を起こしてから、伸びをした。


「寝床、かってぇなぁ~……」


 背中を動かすように、上体を左右へ動かしながらつぶやいた。


 ――まさか、自分が犯人になるとは思ってもみなかった。


「日頃のおこないが悪かったのかなぁ~……」


 しかし、起きたところで何もすることが無い。

 昨日は、指名手配犯をどこに(かくま)っているのか、とか、王冠をどこへ運び出すつもりなんだとか、聖女アリスをどこへ監禁しているんだとか、有ること無いことを根掘り葉掘り()かれた。


 知るわけないから、最終的には黙っていたけれど、そのせいか少々疲れが残っている。

 ユリエルは、せっかくだからと寝転がり、二度寝する準備を整えた。


「ハァ~……」


 ――アリスは無事なのだろうか。


 彼女のことは考えないでおこう…… そんな風に思うと、余計に安否が気になって仕方なかった。


「大丈夫、大丈夫。俺が気にしても仕方ないって……」


 そう言って、ユリエルが目を閉じた。

 しばらくすると、カツカツ足音がしてきた。

 妙に間隔が狭いから、走ってきているように聞こえる。

 足音が最大音量となって、ピタリと()んだ。


「ユリエル君……!」


 彼の目が見開く。

 パッと起き上がって、鉄格子の向こう側の廊下を見やる。

 そこには小さな女の子――アリスがいた。格子をつかんで、こちらを見ている。


「大丈夫……?!」

「え……? あれ? えぇっ……?!」

「話はあと……!」


 そう言って、アリスが持っていた鍵を、扉の錠前に合わせていく。


「合った……!」


 次の瞬間、パチンと鍵が解かれて、甲高く耳障りな音を鳴らしながら格子扉が開いた。


「ほら、早く来て!」

「い、いやいやいや! 脱獄は不味(まず)いって!」

「いいから来るのッ!」


 アリスが牢屋へ入って、ユリエルを引っ張った。

 子供にねだられる父親みたく、引っ張り起こされたユリエルが、アリスにそのまま引っ張られて牢屋の外に出た。


「ど、どういうこと? 鍵とか、どうやって手に入れたの? 看守は……?」

「分からないけど、とにかく脱出! ここから安全に出る方法とか無いの?!」

「えっと…… それもそうか……」


 ユリエルが少し考えてから、


「看守、ひょっとして気絶させたとか?」


 アリスが首を横に振って、「なんか、もう寝てた」と言った。


「寝てた……? まさか、誰かに?」

「そんなことは後回し! どうするか考えてよ、ユリエル君!」

「どうするって……」


 ユリエルが周囲を見渡す。

 特に使えそうな物が無いから、看守のところへ行こうと言って、アリスと共に看守がいるであろう管理室へと向かった。


 誰もいない牢屋が両脇に並ぶ中を走って、つき当たりにある道を曲がって、階段を登っていく。

 やはり鉄格子の扉があいていて、看守が二人、机の上に上体を預けるようにして眠っていた。


「――本当に眠ってる」

「誰がやったのか気になるし、これも罠かもしれないけど…… 身動きが取れないんじゃ、無実を証明することもできないでしょ?」


「まぁ…… 確かにそうだけどさ……」

「お願い、ユリエル君」


 アリスがユリエルの手を力一杯に握った。


「諦めず、一緒に来て……!」


 しばらく彼女を見下ろしていたユリエルが、根負けして溜息をついた。


「――分かった。ひとまず脱獄を優先しよう」


 やっと、アリスの顔が焦燥から解放された。

 ユリエルは周囲を一瞥(いちべつ)し、


「もう、これしかなさそうだ。――無茶するけど、いいか?」


 アリスが力強くうなずいた。

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