33~34:侍女からの助言
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霊廟から離れたユリエルは、どうしようか迷いながら家路に着いていた。
彼は、今すぐにでも自分が見聞きしたことを、ハロルドに伝えたかった。
しかし、自分が夜の大聖堂の敷地内へ入り、あまつさえ墓地の霊廟にまで向かったことも知られたら、大変なことである。
「どこか別の場所で……」
――飲み屋街? 駄目だ、人が多すぎる。
悪魔の沼地? 駄目だ、あそこは立ち入り禁止区域だ。もっとヤバい。
そもそも、飲酒して彷徨いていたことがバレると、色々面倒である。
「あぁ~もう~……! どうすりゃいいんだ……!」
「何か悪いことでもしたの?」
突然、聞き覚えのある女性の声がした。
前方にある木の陰から、エリカが出てくる。
「あ、あんたは確か……」
「悪いけど、あなたが大聖堂の墓地に入っていったのを見たの。あそこで何をしていたのか、教えてもらえるかしら?」
「え、えっと……」
「言えないことでもしてた?」
「ち、違うっス! ちょっと、思い出に浸ってたって言うか……!」
「服を裏返して?」
ユリエルがハッとして、自分の服装を見やった。
「――ひょっとして、飲んでる?」
今度は口を両手で押さえる。
「その分だと結構、飲んでるみたいね…… 宴会でもしてた?」
「そ、そんなのだったら、ここへ寄ったりしないっスよ!」
「ということは、やっぱり自棄酒?」
ユリエルが横目になった。
エリカが溜息をつきながら、
「まっ、そういうときもあるかな……」
と言ってから、ユリエルの傍へ寄った。
「アレコレと悩んでたみたいだけど、何かあった?」
「…………」
「あったんでしょ?」
「なんでもお見通しっスね、姐さんは……」
「これでもベリンガール近衛騎士の、お手伝いさんだから。――で? 何があったの?」
「言えないっス……」
「言えない?」
ユリエルがうなずいた。
「じゃあ、あたしから話してあげようか?」
「えっ……」
「あなた、アリスさんを探してるんじゃないの?」
「…………」
「なんでかって? 理由は簡単。
あなたがグレイさんと決闘寸前までいったって、ライールから聞いてるのと、今日の午後、大聖堂の定時礼拝にはシェーン大司教が現れたって、町の噂になってたから。
――午前の礼拝は聖女様だったそうじゃない。どうして午後だけ交代を?」
「…………」
「考えられることは、聖女様が大聖堂からいなくなったか、急に怪我か病気になったから。
でも、怪我とかだったら、あなたが大聖堂から離れるなんて考えにくい。そうじゃない?」
「どうっスかね……」
「そんなわけで、聖女様は今、大聖堂にいないんじゃないかなって。違ってる?」
ユリエルはそっぽを向いたまま、大きく息を吐いた。
吐き終わったら、エリカを見やって、
「誰かに話します? そのこと」
と言うと、エリカは首を横に振った。
「じゃあ…… その通りっスよ」
「原因は?」
「それは…… 分からないっス」
「フ~ン、分からないね……」
「含みのある言い方っスね?」
「そりゃあね。だって、子供になってた聖女様を見てるんだもん。何かあるんじゃないかって勘繰るのが普通でしょ?」
「えっ……!」
「あの子から自白してたようなものだけどね。心配になるくらい悩んでいたから、大丈夫かなって気掛かりだったけど」
「そ、そう…… なんスか……?」
「どうなの? 回りくどいこと言わないで、単刀直入に言って」
沈黙が流れて、ユリエルが咳払いをした。
「あんた、ベリンガールの出身だっけ?」
「違う。アル・ファーム王家の関係者」
「えっ……?!」
「その辺りは気にしないで。そもそも口外するつもりは無いし、あたしとライールは事後処理の目的でここにいるだけだから」
「――じゃあ、話します」
そう言って、彼は手短に王冠の効能とアリスの状態を説明した。
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エリカは腰に手をやって、
「それは不味いわね」と言った。
「俺、姐さんが元に戻ったら責任を取るつもりっス! でも、とにかく奉納祭までに見つけて、元に戻さないと……!」
「落ち着いて、声が大きいから」
ユリエルがまた、口を両手で覆った。
「きっと、その王冠は魔導具で間違いないと思う。問題は、ずっと効果が続くって点だけど…… まぁ、やるだけやってみましょうか」
「えっ! ひょっとしてどうにか出来ちゃったりするんスか……?!」
「分からない。もしかすると、どうにもならないかもしれないから、そこは覚悟しておくようにね」
「うっ…… 分かったっス……」
「アリスさんが見つかったら、王冠と一緒にあたしのところへ連れて来て。ライールと詰め所の近くにある宿を借りてるから」
「あの人も、王冠のこと知ってたんスか?」
「えっ? 知らないと思うけど?」
ユリエルが目を細めた。
「じゃあ、アレは本当にそう思って言っただけ……」
「どうかした?」
「い、いや、なんでも無いっスよ。こっちのことっス」
と言ってから、「あっ!」と思い出したように言った。
「何?」
「じ、実はその、霊廟の方に不審な二人組がいたんスよ」
エリカの視線が鋭くなる。
ユリエルは少し気圧されて、固まった。
「二人組って、姿とか見た?」
「いや…… なんか、取引してたっぽくて…… あと、聖女がどうとか言ってて、ちょっと引っ掛かってるんス」
「取引……」
「やっぱり、ヤバい感じの仕事してるんスか? エリカさんたちって……」
「――さっきも言ったでしょ? あくまでも事後処理よ。それに、取引してたって情報をくれるってことは、あたしたちに詰め所の人へ報告しておいてほしいってことでしょ?」
ユリエルはバツが悪そうに頭をかいた。
「じゃ、明日には連れてきてね。あたしはまだやることがあるから」
「あ、明日って……! まだどこにいるかも分からないんスよ……?!」
「昨日のこと、忘れたの?」
エリカがまた腰に手をやった。
「昨日って…… なんスか?」
「危ない目にあった後、一緒に帰る相手にあなたを指名したのよ?」
「あれは、俺が事情を知ってたってだけで……」
「それもあるけど、そうじゃない部分だってあると思うけど?」
「そうじゃない部分??」
エリカがジッと見つめる。
それで、ユリエルが焦った。
「とにかく、このまま真っ直ぐに家へ帰ること。後、姐さんっていう呼び方はやめなさい」
「わ、分かってるんスよ! 俺も聖女様とかアリス様って――」
「ち・が・うッ!」
妙な間があいた。
エリカは両腕を組んで、
「姐さん呼びって、昔からそうだったの?」
「まぁ、そうっスね…… 司教になった後、ちょくちょく遊びに行ったとき、一つ年上だって分かったんで」
「じゃあ、最初は呼び捨てだったんだ?」
「そう、っスね…… 恥ずかしながら」
「じゃあ、最初の頃みたいに呼んであげてね」
「え? なんで?」
エリカがジッとユリエルを見やった。
「あ、はい…… 呼ぶっス」
「じゃあ、また明日。一応、夜道には気を付けてね」
「エリカさんも気を付けてくださいよ? 本当に妙なのが彷徨いてるんスから」
「うん、ありがとう」
ユリエルが一礼し、エリカと正反対の方へと歩いていく。
振り返ると、そこにはもう彼女の姿は無く、代わりにフクロウみたいな鳥が空を飛んでいた。
「いない……」
ユリエルは不可思議そうな顔をしつつ、妙な女性だと思いながら帰路に着いた。




