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聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: 暁明音


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21/42

33~34:侍女からの助言



    33



 霊廟(れいびょう)から離れたユリエルは、どうしようか迷いながら家路に着いていた。

 彼は、今すぐにでも自分が見聞きしたことを、ハロルドに伝えたかった。


 しかし、自分が夜の大聖堂の敷地内へ入り、あまつさえ墓地の霊廟(れいびょう)にまで向かったことも知られたら、大変なことである。


「どこか別の場所で……」


 ――飲み屋街? 駄目だ、人が多すぎる。


 悪魔の沼地? 駄目だ、あそこは立ち入り禁止区域だ。もっとヤバい。

 そもそも、飲酒して彷徨(うろつ)いていたことがバレると、色々面倒である。


「あぁ~もう~……! どうすりゃいいんだ……!」

「何か悪いことでもしたの?」


 突然、聞き覚えのある女性の声がした。

 前方にある木の陰から、エリカが出てくる。


「あ、あんたは確か……」

「悪いけど、あなたが大聖堂の墓地に入っていったのを見たの。あそこで何をしていたのか、教えてもらえるかしら?」


「え、えっと……」

「言えないことでもしてた?」

「ち、違うっス! ちょっと、思い出に浸ってたって言うか……!」

「服を裏返して?」


 ユリエルがハッとして、自分の服装を見やった。


「――ひょっとして、飲んでる?」


 今度は口を両手で押さえる。


「その分だと結構、飲んでるみたいね…… 宴会(えんかい)でもしてた?」

「そ、そんなのだったら、ここへ寄ったりしないっスよ!」

「ということは、やっぱり自棄(やけ)酒?」


 ユリエルが横目になった。

 エリカが溜息をつきながら、


「まっ、そういうときもあるかな……」


 と言ってから、ユリエルの(そば)へ寄った。


「アレコレと悩んでたみたいだけど、何かあった?」

「…………」

「あったんでしょ?」

「なんでもお見通しっスね、(ねえ)さんは……」

「これでもベリンガール近衛(このえ)騎士の、お手伝いさんだから。――で? 何があったの?」


「言えないっス……」

「言えない?」


 ユリエルがうなずいた。


「じゃあ、あたしから話してあげようか?」

「えっ……」

「あなた、アリスさんを探してるんじゃないの?」

「…………」


「なんでかって? 理由は簡単。

 あなたがグレイさんと決闘寸前までいったって、ライールから聞いてるのと、今日の午後、大聖堂の定時礼拝にはシェーン大司教が現れたって、町の噂になってたから。

――午前の礼拝は聖女様だったそうじゃない。どうして午後だけ交代を?」


「…………」

「考えられることは、聖女様が大聖堂からいなくなったか、急に怪我か病気になったから。

でも、怪我とかだったら、あなたが大聖堂から離れるなんて考えにくい。そうじゃない?」


「どうっスかね……」

「そんなわけで、聖女様は今、大聖堂にいないんじゃないかなって。違ってる?」


 ユリエルはそっぽを向いたまま、大きく息を吐いた。

 吐き終わったら、エリカを見やって、


「誰かに話します? そのこと」


 と言うと、エリカは首を横に振った。


「じゃあ…… その通りっスよ」

「原因は?」

「それは…… 分からないっス」

「フ~ン、分からないね……」

「含みのある言い方っスね?」


「そりゃあね。だって、子供になってた聖女様を見てるんだもん。何かあるんじゃないかって勘繰るのが普通でしょ?」


「えっ……!」

「あの子から自白してたようなものだけどね。心配になるくらい悩んでいたから、大丈夫かなって気掛かりだったけど」


「そ、そう…… なんスか……?」

「どうなの? 回りくどいこと言わないで、単刀直入に言って」


 沈黙が流れて、ユリエルが(せき)払いをした。


「あんた、ベリンガールの出身だっけ?」

「違う。アル・ファーム王家の関係者」

「えっ……?!」


「その辺りは気にしないで。そもそも口外するつもりは無いし、あたしとライールは事後処理の目的でここにいるだけだから」

「――じゃあ、話します」


 そう言って、彼は手短に王冠の効能とアリスの状態を説明した。



    34



 エリカは腰に手をやって、


「それは不味(まず)いわね」と言った。

「俺、(ねえ)さんが元に戻ったら責任を取るつもりっス! でも、とにかく奉納祭までに見つけて、元に戻さないと……!」


「落ち着いて、声が大きいから」


 ユリエルがまた、口を両手で覆った。


「きっと、その王冠は魔導具で間違いないと思う。問題は、ずっと効果が続くって点だけど…… まぁ、やるだけやってみましょうか」


「えっ! ひょっとしてどうにか出来ちゃったりするんスか……?!」

「分からない。もしかすると、どうにもならないかもしれないから、そこは覚悟しておくようにね」


「うっ…… 分かったっス……」

「アリスさんが見つかったら、王冠と一緒にあたしのところへ連れて来て。ライールと詰め所の近くにある宿を借りてるから」


「あの人も、王冠のこと知ってたんスか?」

「えっ? 知らないと思うけど?」


 ユリエルが目を細めた。


「じゃあ、アレは本当にそう思って言っただけ……」

「どうかした?」

「い、いや、なんでも無いっスよ。こっちのことっス」


 と言ってから、「あっ!」と思い出したように言った。


「何?」

「じ、実はその、霊廟(れいびょう)の方に不審な二人組がいたんスよ」


 エリカの視線が鋭くなる。

 ユリエルは少し気圧(けお)されて、固まった。


「二人組って、姿とか見た?」

「いや…… なんか、取引してたっぽくて…… あと、聖女がどうとか言ってて、ちょっと引っ掛かってるんス」


「取引……」

「やっぱり、ヤバい感じの仕事してるんスか? エリカさんたちって……」

「――さっきも言ったでしょ? あくまでも事後処理よ。それに、取引してたって情報をくれるってことは、あたしたちに詰め所の人へ報告しておいてほしいってことでしょ?」


 ユリエルはバツが悪そうに頭をかいた。


「じゃ、明日には連れてきてね。あたしはまだやることがあるから」

「あ、明日って……! まだどこにいるかも分からないんスよ……?!」

「昨日のこと、忘れたの?」


 エリカがまた腰に手をやった。


「昨日って…… なんスか?」

「危ない目にあった後、一緒に帰る相手にあなたを指名したのよ?」

「あれは、俺が事情を知ってたってだけで……」

「それもあるけど、そうじゃない部分だってあると思うけど?」

「そうじゃない部分??」


 エリカがジッと見つめる。

 それで、ユリエルが(あせ)った。


「とにかく、このまま真っ()ぐに家へ帰ること。後、(ねえ)さんっていう呼び方はやめなさい」


「わ、分かってるんスよ! 俺も聖女様とかアリス様って――」

「ち・が・うッ!」


 妙な間があいた。

 エリカは両腕を組んで、


(ねえ)さん呼びって、昔からそうだったの?」

「まぁ、そうっスね…… 司教になった後、ちょくちょく遊びに行ったとき、一つ年上だって分かったんで」


「じゃあ、最初は呼び捨てだったんだ?」

「そう、っスね…… 恥ずかしながら」

「じゃあ、最初の頃みたいに呼んであげてね」

「え? なんで?」


 エリカがジッとユリエルを見やった。


「あ、はい…… 呼ぶっス」

「じゃあ、また明日。一応、夜道には気を付けてね」

「エリカさんも気を付けてくださいよ? 本当に妙なのが彷徨(うろつ)いてるんスから」

「うん、ありがとう」


 ユリエルが一礼し、エリカと正反対の方へと歩いていく。

 振り返ると、そこにはもう彼女の姿は無く、代わりにフクロウみたいな鳥が空を飛んでいた。


「いない……」


 ユリエルは不可思議そうな顔をしつつ、妙な女性だと思いながら帰路に着いた。


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