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聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: 暁明音


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30:自暴自棄の護衛兵(前編)



    30



 アリスが逃げ出してから、幾分かたった。

 そのあいだ、ユリエルはずっと彼女を探していた。


 ――あのとき、なぜ子供になるのをやめさせなかったのか。


 ユリエルの頭にはずっと、後悔の念が(うず)巻いていた。

 アリスはユリエルにバレる前から呪いを使っていたけれど、ユリエル本人はそんなことを知る(よし)もない。


 彼は今、様々な最悪の事態を想定していた。

 とにかく、自棄(やけ)になったりする前に見つけ出さないといけない。

 ユリエルは彼女を探した。

 いそうな場所を回っては、大聖堂に戻っているかハロルドへ聞きに行ったりもした。


 ハロルドは戻っていないと答えつつ、そう頻繁に戻ってくると怪しまれるから、今日は大聖堂には来ない方がいいと言われる。そして、


「もし、明日中に見つからなかったら…… 奉納祭が中止になるかもしれん。

 そうなったら、あとは分かるな? お互い、色々と覚悟はしておこう」


 なんてことを言われたから、途方に暮れながら、また彼女がいそうな場所を探した。

 孤児院へ行った。

 賑わっている市場へも行った。

 時計塔の近くや公園にも行った。

 図書館に美術館、議事堂や花火の打ち上げ場所でさえ回った。


 それでもいないから、ついに詰め所へ向かった。


「おう、ユリエル」


 詰め所に入るなり、責任者の男性が声を掛けてきた。

 彼はかつて司教の護衛兵であった人で、今は警備兵の隊長をやっている。


「先輩、ちょっと()きたいんスけど……」

「なんだ?」

「これくらいの、金髪の女の子…… 見なかったっスか?」

「なんだ? 迷子か?」

「まぁ、そんな感じっスね」


「見てないし、報告にもあがってきてないな」

「そう、っスか……」

「何かあったのか?」

「い、いや…… このあいだ迷子になりかけてた子がいて、また迷子になってたらなぁって」

「そうなのか。とりあえず、そういう子は預かっていないぞ?」

「ありがとうございました」


 そう言って、ユリエルが目礼する。


「おや、君は」


 振り返ると、グレイがいた。


「そんな格好で、ここに何をしにきたんだ?」

「あんた、確か……」


 そこまで言って、ハッとしたユリエルが、


「ひ、一つ聞いてもいいっスか?」と尋ねる。

「なんだ?」

「家に、アリス様って帰ってきてたりしてるっスか?」


 眉根をひそめるグレイ。


「何か用事があって帰ってきたとか」

「今は大聖堂で礼拝中ではないのか?」

「ちょっと思い悩んでるみたいだったんで、どこかの機会で家に帰ったりしてるのかなと」

「――そうか」

「で、帰ってきてるんスか?」


「娘が帰ってきていようがいまいが、君には関係ないことではないか?」

「帰ってきてるんなら、大聖堂までお送りしようかと思ってたっス」

「不要だ。ウチの連中を護衛に付けて送らせる」

「俺、一応は護衛兵なんスけど」

「飾りみたいなものだ」


「司教も似たようなモンでしょ」

「なんだと……?」

「お、おいユリエル……!」

(そば)から見てれば、ただの見世物じゃん。あれのどこが司教なの?」

「それを守っているお前は見世物以下か?」


「俺は初めからアリスを守るつもりであって、司教とか大聖堂とか、マジどうでもいいっスね」

「あの子はお前に守れるほど弱い女じゃない」

「いっつも父親に苦労させられて、泣いてるけどね。(なぐさ)めるのも俺の仕事だから」


 重苦しい沈黙が流れた。

 (そば)にいる警備隊長はたまったものでは無さそうだった。


「口だけは達者だが、そう言うからには覚悟ができているんだな?」

「俺は、アンタがあの子の父親だなんて思っちゃいない。思い悩んでるのを放置してるんだから。ただ、それだけの話だっつうーの」


 グレイが、腰に付けている刀剣に手を掛けた。

 ユリエルも抜刀の構えに入る。


「お、おい二人とも! ここで何をするつもりだ?!」

「君は黙っていたまえ。――小童(こわっぱ)め、覚悟しろ」

「ご(たく)はいいから、さっさと来いよ」

「たかが聖女が家にいるかいなかくらいで……! やめろッ!」


 その刹那(せつな)、互いの右小手に、丸い木の棒の先っぽが当てられていた。


「き、君は」


 三人が見ていたのは、ライールだった。

 彼は両手に長柄箒(ながえほうき)を持っていて、その(つか)先を、ユリエルとグレイの小手に付けていたのだ。


「アル・ファームでは決闘は禁じられている。

 グレイさん、あなたは知っておられるはずでしょう?」

「…………」


「ユリエル、聖女アリスはグレイさんの家にはいないぞ。俺が今日、グレイさんのご自宅にうかがっていたから間違いない」


 ライールが二人の方へ目配せしながら言った。

 二人はしばらく(にら)み合っていたが、グレイが背中を向けて、詰め所の奥の方へと歩いていった。


 だから、ユリエルも柄から手を離し、構えを解いた。


「――危なかったぞ、ユリエル」


 ライールが二本の(ほうき)の穂先を落としつつ言った。


「グレイさんは世界的にも名の通った剣士だ。君だとまず勝てないぞ……」

「別にいいんスよ、そんなの」


 ライールが首をかしげる。


「あのまま引き下がる方がムカつくし……」

「そんなことで死んでも、良かったと言うのか?」

「いいっスよ。俺が死んだところで、悲しむ親も友達もいないんスから」


 そう言って、彼は詰め所を出て行く。


 ライールは彼の背中を見やりながら、

「やれやれ……」

 と、溜息混じりに言った。


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