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聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: 暁明音


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27:消えた聖女様(中編)



    27



 ハロルドと別れたユリエルは、シェーン大司教がいる客人用の部屋へと向かった。


 警備兵たちに、聖女アリスから言付けがあるからと伝えて、うまく部屋の中へ入ることができた。

 シェーンは椅子(いす)に座って本を読んでいた。

 ユリエルの姿を認めると、その本を閉じて机に置き、


「ユリエル君じゃないか、珍しい。どうかしましたか?」


 と、温和に言った。


 孤児院にいた頃と何も変わっていない姿に、ユリエルは改めて嬉しさが込み上がったが、すぐに気持ちを切り替えて、


「じ、実は、爺ちゃんにお願いがあるんス」

「ほう、私にお願い?」

「えっと…… 実はっスね……」

「何か悪いことでも企んでいるな?」

「と、とんでも無いっスよ!」


「君は子供の頃から見てきている。

 何かあると、そういう表情をするからねぇ。

 窓ガラスを割ったとか、屋根にのぼって遊んでいたとか……」


「そ、そういう悪さはもう卒業してるっスよ!」

「しかし、何か企んでいるのは確かじゃないかな?」


 ユリエルは黙り込んでしまった。

 それで、シェーンが「ほっほっほっ」と笑った。


「ひとまず、(たくら)みを聞こうかな」

「企みって言うか、今日の午後の…… いや、奉納祭までの定時礼拝についてなんスけど」

「ふむ?」

「アリス様の具合が悪くって…… 医者にみせるほどじゃあ無いんスけどね」

「ふむふむ」

「――本当のこと言うと、今、司教を辞めるか辞めないかの瀬戸際って感じなんス。だから、代わりに定時礼拝をやっておいてほしいっス」


 シェーンがニッコリと笑った。


「なるほど。確かに今朝の定時礼拝と言い、最近はずっと思い悩んでいる様子だったね」

「そ、そうなんスよ。色々と難しい年頃じゃないっスか、十代の女の子って」

「男の子も難しぃ~い、年頃なんじゃがな」

「そ、そうっスかね?」

「――どうして辞めようと思っておるんだ?」

「なんか、こう…… あくまでも俺が勝手に感じてることっスよ?」

「ふむ」


(ねえ)さん、聖女って呼ばれたり司教でいることが苦痛で仕方ないんだと思うんスよ

 。今までは我慢してきたけど、それがもう限界に達してるって言うか……

 俺も、じきに司教の役目が終わるんだし、もうちょっとだけ我慢したらって言ったんスけど、どうもそれが難しいっぽい感じで」


「あと少しの我慢…… それが人間には、とてつもなく永遠に長く感じるものなんじゃよ」

「はぁ。そういうもんスかね」

「君だって、仕事が終わる時間を指折り数えては、あと少しなのに長く感じているんじゃないかな?」

「あ~、なるほど、確か…… に……」


 と言ってから、(せき)払いを何度かして、


「お、俺は職務を(まっと)うするだけっスよ!」


 と、言い直した。

 シェーンは笑みを浮かべ、


「定時礼拝のことは承知しましたよ。任せておきなさい」

「ほ、本当っスか?!」


「ただし」と、シェーンがピシャリと言った。「奉納祭だけは、どうにもできない。それまでにアリスさんのことを、君がなんとかしてあげなさい」


「えっ……」

「彼女の気心が知れている人は、君だけだ。昔にも言ったが、覚えているかな?」

「覚えてるっスけど……」

「彼女が急に司教を辞めたがったのには、それ相応の理由と原因があるのだろう。

 聖女の護衛兵である君の仕事は、それをつき止めて、彼女を守ってあげることだ。

 ――いいね?」


「分かってるっスよ。俺、とりあえずは(ねえ)さんとじっくり、ゆっくり、色々と話してみるっス。何か分かるだろうし」


「うん。よろしく頼むよ、ユリエル君」


 ユリエルは一礼し、「じゃあ、礼拝の件はお願いするっス!」と言って、部屋から出ていった。


 残されたシェーンは一つ溜息をつき、

「大事にならなければいいが……」

 と、つぶやいた。




 シェーンの部屋から出たユリエルは、さっそく、ハロルドがどこにいるのか探し回った。

 すると、袖廊(しゅうろう)で彼の姿を認めたから、名前を呼びながら近付いた。


「どうだった?」


 振り返ったハロルドが言った。


「バッチリっス。とりあえず、奉納祭まではなんとかなりそうっスね」

「まぁ、奉納祭まではあと二日ある。それまでには、なんとかなると思うが……」

「そっちはどうだったっスか?」

「困惑していたが、大司教様が相手だ。了承していた」


 ユリエルが安堵する。が、ハロルドは表情を崩していなかった。

 彼は真剣な顔のまま、


「ただ、一度アリス様と話がしたいとは言っていた」

「えっ……!」

「まぁ、当然の反応だ。急に礼拝を交代したいなんて言えば、何があったのか聞き出したくなるだろう」


「で、でも、今来られたらどうしようも無いッスよ……?」

「その辺りはなんとか言いくるめるてある。だが、明日にはここへ戻ってもらって、一度、父さんと話をしてもらう必要がありそうだ」


「こど……!」と言って、ユリエルがハロルドの耳元へ近付いた。


(子供なのに、どうするんスか? シェーン大司教にも話してないのに、マグニー大司祭に素直に話したら、余計にややこしくなりそうっスよ?)


「まぁな…… そこもなんとかするよう、考えよう。

 あと近い」


「あっ」と言って、顔を離すユリエル。「ごめんっス……」


「お前は彼女を探してくれ。俺は大司教が礼拝をするための準備をしたり、通達をしておく。あと、大聖堂に戻ってくるかもしれないしな」


「じゃあ、任せるっス。今日はこのまま戻らないかもしれないんで、そのつもりでいてほしいっス」

「ああ。とにかく頼むぞ、ユリエル。外部に漏れたりしたら、俺たちだけの責任じゃ済まなくなるからな……」

「もちろんっス。早く見つけないと……!」


 ユリエルは(きびす)を返して、大聖堂の正門へと向かった。


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