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聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~  作者: あかつき セキ


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20:本音



    20



「もう大丈夫?」


 エリカの問い掛けに、アリスがうなずいた。

 二人は向かい合うように座っていて、アリスは三角座り、エリカは正座をしていた。


「そう…… 落ち着いたようで良かった」


「あの」とアリス。「お名前は……?」


「ああ…… エリカって言います。隣にいた男性が、先輩のライールさん」

「先、輩……?」

「やっぱりそういう反応になるわよね」


 と、エリカがクスクス笑って言った。


「す、すみません、てっきり……!」

「いいの、いいの。今は本人もいないし。――あれで二十六らしいから」


 アリスはさらに驚いた。

 どう見ても十代後半か二十代前半である。


「まぁ、物腰からして大人びてるし、声も大人っぽいでしょ?」

「は、はい。それは思います」

「だから、やっぱり私たちよりも年上なのよね。彼は」

「――あの」


 エリカが首をかしげた。


「お二人は、どういったお仕事をされているのですか……?」

「え? 仕事?」

「あの方、ベリンガールの騎士様ですよね?」

「ええ…… よく分かったわね?」

「む、昔、あの服装を見たことがありまして……」


「彼は仕事でここへ来てるの。私はまぁ…… その付添人(つきそいにん)って感じ?」

「なるほど……」


「人手が足りないって警備兵の人が言ってたから、お手伝いしてたの。大事にならなくて、本当に良かった」


「重ね重ね、ありがとうございます」


 アリスがぺこりとお辞儀する。

 エリカは少し心配そうな顔で、


「大丈夫なの?」

「エッ……?」

「何か、こう…… 誰かに礼儀作法を叩き込まれましたって感じがするんだけど」


 アリスが呆然としながら、「そう、見えます?」と言った。


エリカは頬をかきつつ、


「なんとなく分かっちゃうのよね」と苦笑った。


 彼女のその言動が、アリスの気持ちを動揺させた。


「私は」と、アリスが今までと違う表情で言った。


「今までに誰かと花火を見に行ったことはおろか、外で祭りを体験したことさえありませんでした」


 エリカはアリスを見つめて黙っている。だから、アリスはさらに話した。


「私は、その…… 孤児でして…… 遠縁ということで、子供のいない名家に、養女として迎え入れられたのですが……

 色々と仕来(しきた)りがあって、それが終わらないと本当の子供になれないのです……」


「何かこう、かなりややこしい感じみたいね?」


 アリスがうなずいた。


「私、迷っているのかもしれません…… 父が本当は、家柄を相続させるためだけに、私を養子にしたのではと……

 そうではないと信じているのに、同じくらい、疑いが強く出て…… こういうのは始めてで……」


「――仕来(しきた)りの中身は、厳しいものなの?」

「…………」

「どうかした?」

「とても、厳しいものでした……」


 うつむいていたアリスが、吐き出すように言った。


「大聖堂の立派な司教様たちを見習うようにと、色々なことをさせられました。

 筋が良いからって、剣術を無理やりやらされて……

 私、戦ったりするのは嫌いなのに、誰も聞き入れてくれなくて……」


「興味が無いことをするのは辛いものね」

「はい…… 礼儀作法も、大聖堂や宗教の歴史も、説法や人心掌握の方法論も、全部、嫌いです……」


「それでも、我慢してやっている…… とても(すご)いことだと思う。ひょっとすると、誰にもマネできないことかもしれない」


「いえ、そんなことはありません。歴代の司教たちはみんな、やっていたのですから……」

「でも、(この)んでやっていたかどうかは分からないでしょ?

 みんな、説法みたいに表ではイイ風に装って話すものなんだし。

 周りに気をつかって、好き(この)んでやってました~って、言ってたんじゃないかしら?」


「そうだとしても、私はもう、耐えられそうにありません……」

「――今は子供だから分からないかもしれないけど、そういうのは後々、役に立ったりするものよ?」


 不満そうにアリスがエリカを見るから、エリカが苦笑いながら、


「まだちょっと、分からないかな?」

「そう、ですね…… そうだと思います……」

「役に立つかもじゃなくて、役に立つように使ってみたらどうかしら?

 たとえば、あなたが…… あっ、これは()()()の話ね?」


 アリスが小首をかしげる。


「もし、大聖堂や詰め所に勤めたいって考えてる人がいたとするじゃない?」

「――はい」

「その人が剣の筋も何も、あったものじゃない人だったとするじゃない?」


 アリスが少し顔をうつむけ、横目になりつつ鼻頭をこすっていた。


「そういう人に、司教でもなんでも無い、自由なあなたが指導してあげる…… こういうことだって、できるでしょ?」


「できるかも、しれません」

「筋だけ良くても、練習してなきゃ絶対に、指導するとか伝えるって、できるようにならない。自分だけしか分かってないんだから。――でしょ?」


「多分…… そうかも」

「ライール――さっきの男の人だけどね、あの人だって毎日、剣や銃の練習をしてるから、ベリンガールの近衛騎士になれたのよ?

 だから、あなたが今やっていることは全部、無駄になったりしない。

 むしろ、無駄にするも有効にするも、あなたがどう役立てようとするかに掛かってるんじゃないかしら?」


 アリスがジッと、エリカを見つめていた。


「このあと、あなたがどういう道のりをたどっていくかは分からないけど、それだけの教養と剣技を積んでいるのなら、きっと大人になったとき、たくさんの人の役に立てる。

 そういう力を、身に付けているはず。

 ――剣技が下手くそな男の子を、一丁前に鍛えあげるために教えてあげるとかね」


 ついに、アリスの口元が緩んだ。


 ――この人は見てきたのだろうか、あのときのユリエルを。


「そういう『想い』みたいなものを感じ取ったら、教えられた男の子も、あなたのことが気になってくるかもね」


「えっ……」

「お~い!」


 遠方から声がしてきたから、エリカが立ち上がる。

 ランタンの明かりが二つあって、一つは、高く掲げられて、左右に振られていた。


「来たわね。――あの人がユリエルさんじゃないの?」

「そうです」


 アリスが立ち上がりながら言った。


「あの」


 膝の土(ほこり)を払っていたエリカが、アリスへ視線を向ける。


「お名前は?」

「エリカ。――あなたは?」

「えっと……」

「恥ずかしいなら、別にいい。頑張ってほしいけど、我慢して頑張らなくてもいいからね?」


 そう言ったエリカは、微笑むアリスに笑顔で(こた)えた。

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