エピローグ:『キッドの助言』
昨日はPV数が凄い事になっておりました……連休最後に私の作品を見て頂きありがとうございます。
キリが良いので一旦エピローグですが、まだ更新は続きます。
「勝った……!」
大剣使いは逃げて、最後の魔法使い?を倒せば……終わった。
途轍もなく長い様で、短い死闘。
この、歓喜の感情を――上手く、言い表す事は出来ないけれど。
ただ一つ、嬉しい。
商人として――奴らに、勝てた事が。
「……はっ、はあ……」
深呼吸。
昂っていた精神を抑えながら、俺は立ち尽くす。
何も考えられない。それ程に――先程までの集中の負荷が来ていた。
……いくらゲームでも、きついものはきつい。
現実の方で何か――座禅でも組めばもう少し持つかな。ログアウトしたら、少し考えてみよう。
「案外、戻って来て良かったな」
サクリファイスドールも使ってしまったが、その分報酬が沢山貰えた。
麻痺毒瓶が五万G、攻勢の毒薬は十万G……決して安くはない代物だが、その分効果は絶大だ。
ちなみに、攻勢の毒薬より高い『攻勢の劇薬』というのもあった。
価格は五十万G……流石に手が出ない。
また、色々と買い戻さないと。
もしかしたらお釣りも出るかもしれない。
「はは、そうだな、ちょっと取引掲示板でも見て――」
疲れて独り言を呟きながら、俺は踵を返そうとした――そんな時。
背後。
その影がすぐそこに居たのに、『今』気が付いた。
《キッド LEVEL???》
「――!?」
「――お、気付いたな!お疲れヒーロー、カッコ良かったぜ~」
なぜか名前が出ているものの、赤いその名前表示は見違えない。
俺の背後、すぐそこに立っていたのは――紛れもないPK職だった。
見た目はボサボサの茶髪に鋭い目。軽い雰囲気とは裏腹に、何とも言えぬ威圧感があった。
革の鎧に身を包み、腰のポケットに両手を突っ込んだ彼。そして特徴的な――似合わない黒のシルクハット。
……こんな人物に――今まで、全く存在を感じ取れなかった。あの『十六夜』ですら、違和感は感じ取れたのに。
「――ん?ハハ、別に俺は、お前さんを取って食おうとしてる訳じゃないって」
PK職といえど、その言葉は信用出来た。
そりゃあ、このキッド?が俺を殺そうと思えば、気が付く前にそうされているだろうから。
十六夜以上の『隠密』の技を持っている時点で――彼は『格上』だ。
目的は不明だが、俺を殺すというモノではないのは分かる。
「……いつから居たんだ?」
「え?あ~、確か――『アイツら』が出てくるちょっと前」
「そうか。大分前からだな」
「いやぁ、スマンって。加勢しようとも思ったんだが、あのまま『経過』を見たくなったのさ」
「別に良いよ。結果的に奴らを倒せたから」
「ハハッそうだな。いやあアイツら良い気味だぜ。今頃ペナルティで顔面蒼白だわ」
彼が居るにしろ居ないにしろ、別に結果は変わらなかった訳で。
……そりゃ、誰かが見ているなんて思わなかったが――別に不愉快な訳じゃない。
「――で、キッドは……どうしてここに?」
「ん?多人数の初心者狩りがココをうろついてるってたまたま聞いたから、探してたのさ~」
軽い口調のまま、平然と告げるキッド。
……PK職の中にも、色々な種類?があるんだろうか。
「……んで、アンタの背後に俺が居るのは――」
軽く笑って彼は俺の目から目を外す。
向けるのは、後ろ。
その瞬間――キッドの目が、光った気がした。
「――『盗賊の秘術』っと。バレバレだぜテメー!」
「――え!?は、『ハイド』が……」
「……そりゃそうだろ、『盗った』からな。そのまま死にたくなけりゃ失せろ」
「くッ、クソ――」
俺の背後、かなり遠く――三十メートル程先に居た……恐らく『暗殺者』。
突如として姿が暴かれ、逃げていく。
「――がぁッ!?」「うわぁ――!!」
「……後そこのお前とお前!ハッ、さっさと逃げろよ~殺っちまうぞ~?」
「ひぃ――」
そしてまた遠く離れた場所にもう二人。
気付けば何時投げたかもわからないナイフが、そのPK職達に到達している。
笑いながらそう言うキッドに、脱兎のごとく逃げ出す影。
……全く見えなかった。一瞬の素振りも、殺意すら感じなかったのに。
何よりも――その弾丸の様なスピードと機械の様な精密さは、『異常』だった。
「ったく、うじゃうじゃ群がりやがって。アンタ随分とモテモテだな!」
彼は笑って、そんな皮肉を口にする。
さっきの仲間では無いだろうが、おそらくは被弾した俺を狙っていたのだろう。ハイエナみたいだな。
そして……キッドはそんなPK職から、自分を守ってくれたんだ。
「あ、ありがとう。キッド」
「ハハ、これを機に覚えておいてくれ。街に帰るまでが『PKK』だぜ、ハッハッハッ!」
「!ああ。肝に銘じておくよ――でも、何で俺にここまでしてくれるんだ?」
「ん?まあ……俺は一応『プロゲーマー』だし『義賊』とか何とか言われてるからな、その呼び名に恥じぬ様やってんのさ」
「えっ――」
「かといって別に特別でも何でもねぇよ。ただの一般RLプレイヤーと変わらないさ、元々こういうスタイルだし」
だからテキトーに接してくれ、と笑って加えるキッド。
『義賊』。『プロゲーマー』。
色々と聞きなれない言葉の数々。
ただ、プロゲーマーというと……『蛆の王』が思い出される。
やっぱり只者じゃなかったんだな。
「まあ、後は~なんつーかな。俺の『ライバル』に似てんたんだよ、その顔とか特に。だから思わず声を掛けた」
「!」
俺の額に人差し指を当てるキッド。
でも俺の顔に似てるなんて、それこそ偶然か――
……いや、まさか。
「ハハ、『アラタ』って知ってるか?『舞月』っつーあの、サブマス?だったかな」
「……」
「あ、知らない?まあ有名と言えど、こんだけプレイヤーが多けりゃ――」
「――キッドは……」
「ん?」
「キッドは、『ライバル』って事は――そのプレイヤーに勝ったのか?」
思わず。
俺は、拳を強く握り締めていた。
《――「一昨日。僕は、あるPK職プレイヤーに殺された」――》
《――「更に一週間前、決闘で負けた……もっと言えば、始めてから何度も僕は殺された」――》
《――「僕より強い人ってさ、この世界にも大勢居るんだ」――》
昨日の事のように思い出せる、あの時の兄さんの言葉。
「ああ、そりゃあ勝ったぜ。それがどうしたか?……ん!?おいおい、お前まさか――」
変わらず、軽い口調。
兄さんと闘って――勝った人物。
……どこかで、俺はあの言葉を認めたくなかった。
けれどまさか。こんなところで現れるなんて思わなかった。
当然、キッドは嘘なんて付いていない。その実力はこの一瞬で良く分かった。
目の前の彼は――あの兄さんを、倒したかもしれないんだ。
「……あ、あー、でもな、同時に俺は『負け』てんだ。ハハハ、安心しろって!」
「――え?」
「『アラタ』はつえーよ、この俺が証明してやるからさ。おらおら~!」
いつの間にか、自分は顔に出していたのだろうか。
俺の頭を乱暴に撫でながら、彼はそう言い笑う。
……でも、キッドのその言葉で少し冷静になれた。
兄さんと『同じぐらい』強い人物という認識になったからだろう。
最初からライバルって言ってたから、そりゃそうなんだけどさ――どうしても、動揺してしまった。
「……そっか。ごめん、手、手どけてくれ……あのさ、キッド」
「ん?」
「どうしたら――そんなに強く、なれるんだ?」
『格上』。それも、兄と勝負を引き分ける程の人物。
聞いてみたかった。
その答えを。
そして、あわよくば俺を――
「――別に無いな。このゲームを目一杯、楽しんで遊んでるだけだぜ」
「……そっか。ありがとう、無理を承知で鍛えてくれ――なんて言おうと思ったけど、それじゃ悪いな」
「ハッ!ゲームでも弟子とか無理無理、スマンが他を当たってくれ!」
「はは、分かった」
笑って断るキッド。
……まあ、見るからに弟子とかは嫌そうな感じだったしな。
ダメ元だったが――仕方がない。
近道はそう簡単には現れてはくれないだろう。
「――まあ、一つだけアドバイスをしてやるよ」
「え?」
「ここ辺りを真っ直ぐ行って、『ゴブリン』を狩れ。狩り続ければ後は、ハハ、その時のお楽しみだ」
「わ、分かった」
「ハッ、アイツら自体はクソ雑魚だが……ま、分かる。初めは多分絶望するだろうがな」
分からない。
ゴブリンは、正直余裕だったから。
でも……きっと、何かがあるのだろう。
彼がそうまで言うのなら。
「っし、まあそんなとこか――じゃあ頑張れよ!アニキも頑張ってるからさ」
「え?」
「あ、後もう一つ。『怪しいヤツ』がお前さんの身体の近くに手をやれば……それは『スリ』のサインだぜ!じゃあな!」
「……え、あ、ちょ――」
その後ニヤっと笑い、颯爽と走り去っていくキッド。
……色々と考えが纏まらない。
なんで、『アニキ』なんて知って――
《スリに遭いました》
《1Gを失いました》
「!?」
そして、追撃のように聞こえるアナウンス。
どうみても彼の仕業だった。
「……はは、やられた」
思わず、俺は笑ってしまう。
何というか色々と軽いが、魅力的なプレイヤーだった。
最後の最後に『スリ』の事も教えてくれた……僅かなGで。
闘えばきっと、今は勝ち目は無いだろうけど――いつか、闘ってみたい。
あれだけの格上なら兄とライバルにもなれるのだろう……なんで兄弟と知っているかは分からないが。
「……さて、帰るまでがPKKだったっけ」
あそこまで言ってもらい、死んでしまっては申し訳ない。
俺は、キッドの教えを守るべく……辺りを警戒しながら街へと帰路を進めていく。
☆
歩きながら、俺はこれまでを思い出していた。
「……PK職にも、色々あるもんだ」
十六夜にキッド。
その者達は――俺の知っている様なPK職ではなかった。
自身の職を強くしたり、はたまたPK職から助けてくれるPK職であったり。
まあ……徒党を組んで嬲るような者達も居るんだが。
「……」
周囲の警戒をしたまま、俺は空を見上げる。
《――「僕より強い人ってさ、この世界にも大勢居るんだ」――》
思い出す、彼の言葉。
RLは沢山の人がいる。
それこそ――最強の兄が、ああやって言うぐらいには。
「――楽しみで仕方ないな」
ダスト。ベアー。十六夜。キッド。……そして、『アラタ』。
俺が強くなればこの先、もっと強い奴らが待ってるんだ。
「……『皆』、頑張ってる」
フレンドリスト。
商人であるフレンドの同職達は――めきめきと俺に追いつくようにレベルが上がっている。
もう自分の事なんて、とっくに忘れてしまっているだろうが。
「負けてはいられない、か」
中にはもうレベルが35までいっている者もいる。
はは……追いつかれるのは、時間の問題かもしれない。
《――「商人って職業――楽しいか?」「!はい!サイコーです!!」――》
未だに、俺の記憶に強く残っている彼女の笑顔。
それはもはや俺の支えだ。
……同職の為にも。自身の為にも。
『商人』として。
この職業と一緒に俺は――もっともっと強くなる。
……ただまずは、今日はゆっくり寝るとしよう。
《王都ヴィクトリア・非戦闘エリアに移動しました!》
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