『偶然』の出会い②
ラロシアアイス、非戦闘エリア。
そこへ戻ってきた所で、俺はネフ太に例の素材――インベントリから『亡霊の魂の欠片』を見せていた。
「……欠片二十個……おいおい、マジかよ……見た事もねえぞこんなの……」
「え、どうしたんだ?」
「い、いやいや!はは、何でもねえ。これはちょっと手間が掛かりそうだ」
「そうなのか、まあボスの素材だしな……」
少し引き気味に材料を見るネフ太。申し訳無さが凄いぞこれ。
あの亡霊の素材だ、確かに手間が掛かりそうではある。
本当に良いんだろうか、タダでお願いして……いやいや、ここは厚意に甘えよう。
「もうこんな時間だし、また出来たら渡す事にするよ。良いか?」
「ああ。んじゃ――あ、数は何個必要なんだ?」
「えーっと、そうだな――んじゃ、十個で」
上の空を見ながら、彼はそう言った。
《ネフ太様にトレード申請を行います》
《トレード申請が受諾されました》
俺は、現れた取引画面上にインベントリの亡霊の魂の欠片を選択する。
『トレード』。
素材アイテム等を一気に渡す時には、直接渡すよりもこれで行った方が早い……ちなみに初めてやった。
「そっか。じゃ、これで――」
「おう!」
《亡霊の魂の欠片×10をネフ太へ譲渡しました》
《ネフ太様からフレンド申請が届きました》
《ネフ太様のフレンド申請を受諾しました》
「宜しくお願いします、楽しみにしてるよ」
「はは、おう。んじゃ――明日の夜に出来てると思うから、また連絡する」
「ああ。それじゃ」
彼と別れ、メニューを開きログアウトを押す。
欠片の加工なんて頼む宛ても無いし、今の手持ちもそこまで無かった。
依頼するにしてもあの彼の反応じゃ結構高くついたのだろう。
「……ついに、新武器か」
亡霊からドロップしたアイテムを加工し、得られる武器。
年甲斐も無く期待してしまう。
明日の夜が楽しみだな。
☆
……とあるラロシアアイス非戦闘エリア、深夜二時。
その場所に――二人のプレイヤーが落ち合っていた。
「――おいおいマジかよ!最高じゃねえか」
「だろ?俺の名演技のお陰だっての。アイツも馬鹿で助かったぜ」
「難関ボスのドロップアイテムとかレアなんてレベルじゃねえな!しかも十個だろ!?」
「アイツがどう手に入れたか知らねえが……偶然トレードか何かで手に入れたのかもな、商人があのボスを倒せるとは到底思えねえし」
「ははっ、違いねえな」
PK職である『暗黒騎士』。そして――『鍛冶師』。
そんな二人が、笑いながら話していた。
「初めてでこんな上物とか、俺達運が良すぎねえか!?」
「ついてるぜマジ!ちなみにソレ――お前加工出来んの?」
「出来る訳ねえって!レシピも見たことねえよこんなもん、する気もねえし。トレードにも出てないから大分高く売れるぜこれは」
「ははっ、だろうな――じゃ、分け前でそれ五個な」
暗黒騎士がそう言うと、鍛冶師は渋った顔をする。
「……いや、お前何もしてないじゃん、一対九でも多すぎるぐらいだぜ」
「ああ?俺が居なきゃそもそもあの商人に遭遇してないだろうが!」
「チッ……まあいい、ほら三個で我慢しろ」
「仕方ねえなあ……ったく」
少々言い争った後、トレードにてそれを渡す鍛冶師。
『物足りない』――そんな表情で。
「と、忘れずにその商人のフレンド登録は解消しとけよ。言及される前に」
「……ああ。勿論」
「それじゃあな」
二人は別れ、深夜のラロシアアイスに消える。
そんな中、鍛冶師の彼は――密かに邪悪な笑みを浮かべていた。
(……明日、残りの十個も奪えれば……それは全部、俺のもんだ)
その黒い欠片を手に、計画を企てる彼。
頭の中はもう――そのアイテムの事で、一杯になっていた。
「あの馬鹿な商人から、搾り取ってやらないとな」
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