『1%』
《決闘を開始します》
「ま、楽しくやろうぜ」
「……『瞑想』」
《瞑想状態となりました》
HPは風前の灯火。
そんな状態で、キッドは笑って立っていた。
警戒もせず。
「『パワースロー』!」
「ッ――『様子見』が効くと思ってんのか?」
「……そりゃ効かないよな」
最初の一手。
投擲したスチールアックスは、当然の様に彼のナイフで弾かれる。
「返すぜ――『チャージスロー』」
「!?」
大きく、振りかぶられたそのキッドの腕。
そこから放たれたのは――まるで弾丸の様な一投。
反射的に後ろへ跳ぶ!
「ぐっ……」
「来いよ」
間一髪。
ナイフは足先へ掠っただけで終わったが……見ればHPは10%削れていた。
様子見も、牽制も彼には意味が無い。
『1%』のHPを、油断の意味で捉えるな。
全力で――削り切る1%と思うんだ。
「っ」
投擲は意味が無い。
俺は走って接近――キッドは何もせず立ち尽くす。
「――『スラッシュ』!」
「ッ――」
その一撃を後ろに跳ぶ事で、難なく避ける彼。間合い外……立て直そう。
攻撃の気配も無いのでやりにくい。
一度、距離を取ろう。
このままじゃ何も解決しない。
「……」
「お、考える? 待ってあげよう」
動かない敵は意外とやりにくい。
でも、よく考えれば手を出さずにずっと膠着状態なら、タイムアップ時HPが多いのは俺だ。
なのに何故動かないんだ?
「な、ニシキ」
「……何だ?」
「手加減、要る?」
「!」
まるで子供を相手する様に。
彼は、優しくそう言った。
「必要ないよ」
「そっか、了解――じゃ」
笑うキッド。
腰に刺したナイフを一本手に取り、刃をこっちに向けて。
「『盗賊の秘術』」
《状態異常:盗賊の秘術となりました》
《『投擲術』スキルが使用不可となりました》
「……スキルを奪うスキルか」
「そ!」
「何で『片手斧』スキルを奪わないんだ?」
「普通に無理だから」
「……バラして良いのか?」
「別に。困るもんじゃないし?」
飄々とした態度のまま話す彼。
……しかし、パワースローもアックスブーメランも使えなくなったのは痛い。
近接戦に持ち込むしか無くなった。
牽制が意味ないのは分かっているが、それでも選択肢が減ったのは痛い――
「――『スピードスロー』」
「っ!?」
油断している訳では無かった。
なのに、見えなかった。
素振りのモーションも、殺意すらも。
「良いから来い。終わっちまうぜ」
気付けば俺のHPは、胸に刺さったナイフで七割まで減少していた。
☆
「……? 来ねーの?」
「……」
その投擲は、初めて会った時も思ったが……異常だった。
腕を振っている様子が無いのに、ブラウン以上の威力の投擲。
――思い出せ。
《――「『チャージスロー』」――》
あの時、俺の斧を弾いた後の投擲は……確かにオーバースローで腕を振っていた。
そして次――ノーモーションの投擲の時は確実に腕を振っていない。
これはゲーム。
常識に囚われるな。
たとえ腕を振らずとも――ナイフを発射する方法を考えろ。
自ずと答えは出てくるはずだ。
「……来ないなら行くぜ」
……来る。
「『高速戦闘』!」
「『スピードスロー』」
――集中。
見るのは『銀の煌めき』のみ。
刃だけ。
襲い掛かる前の刃を捉えるんだ。
「――」
二分の一で進む世界。
それでいて、なお彼の動きは早い。
でも――見えた。
キッドの『腰』。右手。
まるでガンマンさながらの。
――『指』に掛けたナイフが。
「っ――!」
「お、避けたか。やっぱスゲーなお前」
弾かれたソレ。
大袈裟に横に跳んで、『射線』から逃げる。
ギリギリセーフ。
高速戦闘を使った価値はあったか。
「『指』でそこまでの投擲が出来るんだな。教えてくれないか?」
「ハハッ、企業秘密です。教えたらマジで出来そうだしお前」
「流石に買い被り過ぎだ」
笑って体勢を立て直す。
キッドは追撃をしてこない。手加減はしないと言っておきながらコレだ。
……行こう。
「――っ」
「よッ」
銀の煌めき、キッドの腰。
放たれる前に――その刃が向く先から逃げる。
ジャンプ!
「ぐっ――」
狙いは足だった。
上に跳ぶものの足先に掠る――だが。
そのまま走る!
「――絶好の的だぜ」
キッドは逃げようともせず、迫る俺へと立ち尽くす。
僅かだが滲み出る『殺意』。
腰。
刃の光を目に捉えていて。
俺は――それを待っていた。
「『スラッシュ』」
「――『スピードスロー』――えっ」
これは『賭け』だ。
彼のスピードに追い付くには、発動を聞いてからじゃ遅い。同時かその前じゃないと。
だから『胸に迫るであろう』そのナイフに、俺は武技を振る。
それが、例え無謀であろうと試したいのだから仕方が無い。
俺は、『挑戦者』なんだから。
「――は?」
遅れて聞こえるキッドの声。
そして、瞬時にもう一つのナイフを手に持つ彼が見えた。
《Reflect!》
「――あぶねッ、化け物かよお前は」
『反射』まで出来るとは思わなかった。
これで決まる――と思いきや、彼はその反射のナイフを、己が持つナイフで叩き落とす。
化け物はそっちだと思うんだが。
「『ラウンドカット』!」
「うお!?」
「くっ――『スラッシュ』!」
「あぶね~」
初めての接近。
ラウンドカットは屈んで避けられ。
次の武技は身体をくねらせ避けられた。
――まだまだ。
今距離が空けば、次は無いかもしれないから。
「――『魂刀化』」
「おっ使ったか――っぶない!」
手に持つ魂斧を刀に変える。
この45秒。
一太刀でも、彼に浴びせてみせる!





