『鎮魂歌』
「それじゃ始めよう――『鎮魂歌』」
気迫に満ちた彼の声。
静かに唱えたそのスキルの発動と共に――地面に倒れているガベージとトラッシュの身体からオーラのようなモノが現れ、同時にレッドの身体にそれが移動していく。
まるで、魂を吸い取っていくかのように。
それは、彼女達の力を奪い去るかのように。
「――『パワーブレイク』」
「っ――がはっ！？」
俺も続こうとするが、その光景に思わず足を止める。
先程まで片手剣と盾を装備していたレッドは、ガベージと同じ大剣を振るっていて。
「……はっ、ココまでは筋書き通りです、『流儀選択』――ニシキさんは伏せてください！！」
「フフ、わざと回復せずに『復讐』を発動させたのか。愚かだね」
「――っ食らいやがれ、『弱者の苦痛』――『復讐開始』！！」
俺は、衝撃に備え身体を屈ませ腕で顔を覆った。
これから始まるのはマコトの復讐劇。
格上といえども、対人戦闘の場合ステータスは自動調整される為重要なのはスキルとPSだ。
彼女のPKKとしての力が猛威を振るうはず。
……そうだ。
この腕を上げた瞬間、形勢は逆転する。
「『シールドガード』――で？ ここからどうする、PKK君」
「っ、かはっ、『痛みわ――」
「『魂吸収』……御疲れ様。 良い『かませ』キャラだったよ、フハハハハ！！」
「ぁ……」
そう、そのはずだった。
なのに今の状況は真逆。
衝撃波はたしかに来た――なのに、レッドはマコトの首元を掴んでいて。
一秒後には、その大剣でHPを刈り取っていたのだ。
「全く。『復讐者』なんて対策済みに決まってるだろう？ フッ、そう意味では商人とかいう希少種の方が大変そうだが」
「っ……」
「ハハハ、格上だろうが文句は無しで良いね？ なんせ『二対一』だったんだから」
……落ち着け。
敵は一人。冷静に、彼の動きを観察して――
「――『パワーショット』」
「！？」
次の瞬間、彼は弓を構えていた。
飛来する矢。
「っ――！！」
「フフッ、そら次だ！ 『ダブルショット』」
次は二本の矢が連続で発射。
気持ち悪いほど正確に俺の首を狙っていた。
タイミングが異なるため、武器で無効化した場合次の矢にやられる！
「くっ――！」
「うんうん、お得意の『反射』はやらないのか？」
「――っ、『アックスブーメラン』！」
少し体勢は崩れたが問題ない。
煽りには反応せず、俺は魂斧をサイドスローで放った。
「っ――らあ！」
「……ほう、良いね――『ソニックショット』」
魂斧による、円形の軌跡を描く投擲武技。
そして今、インベントリから取り出したスチールアックスによる投擲。
一つは横から、一つは上から。
二つの角度の違う同時攻撃だ。
だが、俺の狙いはそれじゃない。
「っ――『高速戦闘』！！」
二分の一の世界。
迫る高速の矢をギリギリで避けて、思いっきり走る。
レッドへと飛来する魂斧の元へ。
やがて、接敵！
「ほう、武技の威力を増させる訳か――足りないステータスで考えたもんだ」
「っと――『ラウンドカット』！！」
弓武技の隙はまだある。
彼へと到着する前の魂斧を掴み取り、その勢いのまま円周上の範囲武技を放った。
アックスブーメランの勢いを追加、更に高速戦闘によって武技の威力とスピードは桁違いだ。
更に間もなく、スチールアックスの追撃も来る。
この一撃で、先手を――
「『高速戦闘』――弱者なりにはよくやってる。ニシキ……ッ！」
瞬間。
俺とレッドは、スピードが同じ……いや、彼の方がわずかに上になる。
そのまま彼は後ろへステップ、武技を避けながら弓を放り捨てた。
そして――飛来したスチールアックスを掴んで受け止める。刃ではなく、持ち手の部分を完璧に。
「そらお返しだ――『スラッシュ』」
「っ！！」
「フハハハハ！ そういえば、君は『あの時』わざと右腕を無くしていたね――』
ラウンドカット後の隙を彼は逃さなかった。
レッドの斧武技により、俺の身体は地面に倒れ――
「じゃあ、『左腕』を無くしたらどうなるのかな？」
……その言葉が降り掛かった時。
俺は、思考がフリーズした。
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