表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/258

変わっていく日常

リアルパートです。

 

金曜の朝。

身支度を澄ましながら、俺は欠伸をする。



「……流石に眠いな……」



流石に睡眠時間三時間は辛い。

ゲームやってて遅刻しました……なんて事が無いようアラームをセットしておいたが、結局アラームより先に起きてしまった。


どうせならアラームの時間まで寝たかった……なんて願いも、してもしょうがないか。




「……俺、顔色良くなったか?」




仕方なく起きて、洗顔。鏡の自分の顔を見て驚く。


昨日は、色々な事があった。

路上で絡まれに行ったり、深夜からRLを起動、PKK。

スライムに苦戦して、またPKK。


PKKは、健康に良いかもしれないな。



「なわけないか」



自分で思っておきながら苦笑する。

ただ――楽しい。

モンスターを倒して経験値を得るのも楽しい。

違う世界に、商人として活動するのが楽しい。

PK職と戦う時間が楽しい。


……それだけは確かだ。







「……まあ、こんなもんか」



昨日会ったPK達の特徴を、適当に使っていなかったメモに残す。

運良く全勝で終わったが――下手をすれば負けていただろうし。


次に繋げる為、情報は纏めておきたかった。


特に危険なのは……あの『消える』スキル。

たまたま真正面から来られたから助かったが……背後からアレで迫られたら気付けるかは分からない。

できることは、感知スキルが反応した時点であのスキルの存在を留めておく事だ。


常に背後、もしくは死角から何者かが迫っている――そう警戒すれば、気付ける可能性はグンと高くなる。

対処法と言えるかどうかは微妙だが。


……何にせよPK職の武器を出来る限り知っておく事が、PKKの成功率を高めるだろう。

もっと色んな奴と戦わないとな。



「そうすれば、あの人達も戻ってこれるかもしれない」



商人の天敵はPK職だ。

だから、俺がそれに対抗出来るようになれば――


また――あの時みたいに。

商人の皆で、行商クエストを。



「……出来たら、良いよな――」



珈琲を飲みながらPKKのメモを眺め、俺は呟く。



「――って、時間ヤバい!」



もう出発の時間が迫っている。

俺は慌ただしく準備を整えた。






「おはよう、花月君」



出社。


いつものオフィス……のはずだったのだが。

ストレス源が居ない。


代わりに千葉チーフが居た。俺より五ぐらい年上の眼鏡美人。

千葉遥(ちば はるか)……係長とは正反対の人。

社内としての位置は係長の一つ下だが、仕事が出来、部下の信頼はトップの上司だ。

普段はここのオフィス内におらず、外や社内で動き回っている様な人なんだが――



「……おはようございます。あれ、係長は……」


「久しぶりの有給よ。今日は平和だわ」



ろくに仕事をしない癖に、誰よりも有給はきっちり使うのがあの人だ。

忙しい金曜日にとって三連休。贅沢なもんだ。

しかも俺達が使おうとすれば怒り出す。


ちなみに自分は、一度も有給を使った事がない。

取ろうとすれば……分かるだろう。

まあ取る用事もないし、良いんだけどさ。



「……昨日は大変だったわね。今日期限と言っておきながら今日休むって本当……」



どうやら、昨日の無理難題を押し付けていた事を言っているらしい。

確かにそんな事言ってたな……


まあ、何時もの事か。



「はは、慣れてますから」


「……花月君、雰囲気変わった?」



笑ってそう返すと、不思議そうに言うチーフ。

……正直、良く分からない。



「そ、そうですか?」


「ええ。……取り合えず今日はこの書類の処理と、例の打ち込みお願いしていい?」


「分かりました」



仕事内容の確認を終えて、俺は席に着く。

……平和だ。


さて、頑張りますか。








「……あれ……」



時間は、あれから二時間が経過。

頼まれた仕事が、終わってしまった。


もしかしてチーフ、俺に気を使ってくれたのか?

今日ぐらいはゆっくりしてね、みたいな。

正直……それはそれで申し訳なくて居づらい。



「チーフ、終わりました。……もっと仕事渡して貰ってもいいですよ」


「え!?もう終わったの?どうしよ……じゃ、コレやって貰える?」


「はい」


「……無理、しなくていいのよ?」


「ありがとうございます。大丈夫ですよ」



何か、久しぶりに人に優しくして貰っている気がする。

……係長、一生有給使っててくれないかな。






平和な時間は過ぎ去るのが早い。

アレからチーフに仕事を貰いに行く事五回程度。


丁度定時間際、最後の仕事が完了した。



「すいません、頂きます」


「いえいえ、良いのよ。珈琲ぐらい。あれだけ働いてくれたらね」



そして今は休憩室。

若干引いていたチーフに、珈琲を奢ってもらっている。



「……花月君、今日凄くない?」


「いやいや、ただ……今日は少し体調が良かったかもしれませんね」


気のせいだと言うのも悪いので、そう返しておく。


正直、実感は無い。

係長が居ないおかげで、仕事の効率が上がったのかもな。

それこそ、十倍ぐらいに。……これは決して、言い過ぎではない。



「……そ、そう。お陰で、いつもの五倍ぐらい早く仕事が進んだわ」


「はは、それは良かったです」


「……もしかして、コレ?」



小指を立てて、俺に見せるチーフ。

……そんな、ひと昔前のジェスチャーされても。



「はは、違いますよ」


「……ふーん、そっかあ」



残念ながら、俺は年齢イコール彼女いない歴だ。

これからも出来る気もしないし、作る気力も無い。



「あ。それじゃ趣味とか?」


「……趣味、ですか」



温かい珈琲を持ちながら、改めて考える。


趣味、か。

貯金が唯一と言っていい趣味――『だった』。


そうか。

あの時――彼女と行商クエストを達成したあの時から。

ただの()()()()から……唯一無二の趣味になってたんだな。



「……実は最近、ゲームを始めたんですよ」


「え、ゲーム?意外ね。何て名前の?」


「ははは。『RL』っていうゲームなんですけど……」


社会人こそ趣味を持て――なんてよく聞いていたが、やっと意味が分かった気がした。

何となく突っかかりが取れて、俺は笑ってその名前を言う。



――瞬間。



「――!?」


「え」


「……」


「ち、チーフ?」


「!ご、ごめんなさい!え、えーっと、CMとかで最近よく聞く名前よね」


「そうですね」



今……確かに、『RL』という単語でチーフはフリーズしていた。


もしかして――



「はは。あ、チーフもプレイしてたり――」


「――へ!?いやいや無いわ!ゲームしないし興味もあんまりないかな~」


「そ、そうですか」


「ええ!あ、もう五時!花月君上がっていいわよ!」


「は、はあ……」


「じゃあね!」



逃げるように休憩室から出て行ってしまうチーフ。

今、明らかに動揺してたような。


というか、癖で言ってしまったが――略称のRLってだけで『Real Life Online』って分かるか?


……まあ、あんまり人の趣味に突っ込むもんじゃない。



「帰るか……」



身支度を済ませ、俺は会社を後にする。


慣れない定時の帰宅。

何時振りだろうか……一か月ぐらいか?



……と、いうことは。

今日は、たっぷりRL出来るな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


コミカライズ単行本1.2巻が発売中! よろしくお願いいたします

↓新作のVRMMOモノです。↓
罠士の大罪人~不人気職、『落とし穴』で最前線を駆け巡る~



小説家になろう 勝手にランキング

作者ツイッター 322106000445.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] RLって聞いたらラジオライフしか浮かばない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ