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深夜のPKK①

戦闘多めです。

「……いないな」



その警告音がした直後、辺りを慌てて見渡すが――それっぽい者は居なかった。

スライムに熱中し過ぎて後ろからズバッと……なんて洒落にならない。


……もし、前戦ったPK職が扱っていた『消える』スキルを使っていたらとも考えたが、それならもうやられているはずだしな。全く殺気も感じないし……



「どうするかな」



呟く。

時間はもう二時を超えた。

どうやら俺に対して来ている訳でも無さそうだし。


わざわざ飛び込むリスクは?

もし負けたら?



「まあ、いいか――」



素直になれよ、俺。

闘いたいんだろ――『PK職』と。プレイヤーと。



《HPポーションを使用しました》

《MPポーションを使用しました》



減ったHPとMPを回復。

準備を整える。


湧く衝動を胸に、俺は抑えていた手を放した。


……俺も、中々におかしくなってしまったらしい。






可能性は、二つあった。


PK職が、獲物を探している途中か。

そして、獲物を既に『狩っている』最中か。


それは、遠目に確認出来た。



「――『ストーン――きゃあ!!」


「ううっ――」



答えは後者のようだった。

襲われているのは……『元』三人のパーティ。大きな杖を持った魔法士の様なプレイヤーが一人と、俺と同じく『片手斧』を持ったプレイヤー。生産職だろうか。そして――最後の一人は、既に霧状の光となっている。



……RLにて魔法は武技と異なり発動が瞬時に行われず、『待機時間』が必要となる。『詠唱』と呼ばれるが――その『詠唱』中に攻撃を食らうと、魔法の発動は無効になるのだ。


目の前の状況は、まさしくそれ。



「ははっ、魔法なんて発動させるかよ!」


「おらあ!!」



PK職の方は、小刀を持った二人組の男。

その両方が、獲物をまさしく『翻弄』している。


スピードを活かした詠唱の妨害と、回避。

片手斧使いのプレイヤーの攻撃も全く通っていない。

PKながら、とても見事な連携だ。


そして――それに耐えきれず片手斧の彼女が、今霧状になった。

すでに死亡した一人に加え、もう一人も死亡。

残りは、魔法使いの彼女のみ。



「ぎ、ぎんちゃん!!……や、やだ――」



怯えた様な声を出す彼女。

正直、どう見てももう勝ち目は無い。


……全滅までに、間に合って良かったよ。



「ははっ、観念してくれよ」


「……死ね――がっ!?」


「……!?」



魔法使いに向かうPK職二人。

その内一人に俺は、片手斧を投げた。


目標は首元。

距離と重量――そして『過去』の経験から、投擲。

……あの時、投擲の有用性はよく分かった。

だから、インベントリへそれ用に何本か斧を入れておいたんだ。



そして――初発は成功した様で。



「――どこだ!?」


「クソッ――」


「え?え?」




狙い通り混乱するPK職達。

魔法使いの彼女も同様に混乱しているが――別に良い。


もしこれに乗じて彼女が反撃なんてしようものなら、また注目が彼女に向かってしまう。


俺の狙いは――投擲した『何者か』へと、狙いを向けさせる為。

距離は大体十メートル。

幸い遮蔽物が多いフィールドだから、身を潜めるのには困らなかった。



「……チッ、どうする?」


「ああウゼー……どうせヒーロー気取りのプレイヤーだろ。俺が見てくるから、その魔法使いヤッとけ」


「りょ」



どうやら、二人は二手に別れるらしい……感知スキルは持ってない様子。

俺も二人相手に勝機があるとは思っていないから、都合が良い。



「――ぐっ!!クソッ、早くソイツ止めろ!」


「――あ、ああ!……って、商人かよ!?」



魔法使いの元へ移動すると同時に、彼女へついた小刀使いへ投擲――命中したものの、直前で気付かれたせいか急所は外してしまう。


……そして、もう一人のPK職に位置がバレた。

バラした――という方が正しいが。


『商人』。その情報だけで、相手に油断を誘う事が出来るからな。

舐められて結構。

そういう意味では――この職業はPKKにピッタリだ。



「俺が行く!相手は雑魚だ!!」


「ああ――な!?」


「ストーンボール!」



魔法使いの杖が発光している。

俺に気を取られている隙に、詠唱を行っていた魔法使い。

それは無事に成功した様で――



「ぐっ!!」


「クソッ、要らねえ事しやがって――がっ!!」



彼女が生み出した巨石の球体が俺に向かっていた小刀使いに衝突、堪らず彼は吹っ飛ぶ。


もう一人が彼女を襲おうとするが――自分から目を背けた瞬間、俺はインベントリを開いていた。

彼女の目の前へ、タイミングを予測して用意していた三本目の片手斧を投擲。


……なんとか命中。これで少しは時間が稼げたか。


かなりHPも削れた。

魔法使いが反撃するとは正直思っていなかったが……良い方向に進んだ様だ。



「――」



吹っ飛んだ彼に走って近付く。

まだ起き上がってはいないのなら――絶好のチャンス。

彼女のおかげで、楽に殺せそうだ。



「くっそ――うわ!?」


「『スラッシュ』」



驚愕する小刀使い。

起き上がらせる間もなく、俺は武技を振るう。

スピードは活かさせない。


その刃を、勢いのまま首元へ。

確実に殺す。




「うっ――!!」


「『スラッシュ』」


「クソ――『エネミーバック』!!」



HP、残り一割となった所で――目の前から小刀使いが『消える』。


否――




「死ねや!!」



背後だ。



「――っ」


「『スティング』!」



一瞬反応が遅れたせいで、背中に小刀による武技を食らう。

厄介なスキルだ――だが軽い。

そして武技は、隙が大きいんだ。



ここが勝機。



背後の影を予測しろ。

敵の急所を。身体の向きを。




「――らあ!」




振り向き様、声を上げて回転の勢いのままに後ろに斧を振り上げる。

斧という武器は、重い刃を棒の先端にくっ付けたモノ。


つまり、強い『遠心力』が働くんだ。

前から後ろへ百八十度をぐるっと回って、その刃は襲い掛かる。

武技を使わなくとも、一割程度なら削り切れる。



「ぐっ――……」


狙い通り、首に刺さる刃。

鈍い感触と共に塵状になる小刀使い。


次は――



「――きゃあ!!」


「チッ、あと一発――はあ!?何で死んで――」



抵抗空しく、やられている魔法使い。

アレから小刀使いが向かってこないと思っていたが――彼女をなぶっていた様だ。


俺が一人キルした事で、こちらに向く彼。




「……来い、怖いのか?」



挑発。

これで釣れたら良いが……



「チッ……クソが、舐めんじゃねえぞ!!」



走って来る小刀使い。

雑魚である商人の俺に、そう言われたのが気に障ったらしい。


……良い機会だ。

試しに、『アレ』を使ってみよう。

乗ってくれた礼として。



「『スプリント』!!」



小刀使いが叫ぶと共に、身体に緑のオーラの様なものが浮かんだ。


そして――その走るスピードが、二倍以上に早くなる。

恐らくAGI関連を上昇させるスキル。



スピードじゃ元々勝てないが、更に勝てなくなったか。

だが――



「――『ダブルエッジ』!!」



俺の腹に向けて緑の線が二つ――それに小刀の刃が乗る。

同時に俺は――斧を振りかぶる。



避けるのは、不可能。

なら――逃げない。


『小刀』の威力は――よく知っている。

正々堂々、受けてやるよ。



「――!?何を――」



俺の腹に、刃が二度刺さる。

完全に食らったせいか、HPは元々の七割から三割まで減ってしまった。

しかし、生きている。それだけで十分。


そして――俺は、もうコイツの首を掴んでいる。

がっしりと、逃げない様に。

この一撃を成功させる為に。


さて。

お前は――何処まで減ってくれるかな?



「『黄金の一撃』」



俺は――その黄金に光る斧の刃を、小刀使いに打ち込んだ。


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