昇進クエスト・エリアの願い②
そのまま進んでいくこと数十分か。
ゴブリンに出くわすものの……本当に俺達を避けていく。
ただ、出てくるのはゴブリンだけじゃない――
《ブラックウルフ LEVEL40》
《ミニガーゴイル LEVEL40》
現れた二体のモンスター。
ブラックウルフはお馴染み、アイスウルフの黒?バージョンだ。
正直あまり前と変わらない。スピードが上がったぐらいか。
ただこのミニガーゴイルってのは……硬いアイスバードと言えば分かるだろうか。
石造の様な身体に、蝙蝠の様な見た目。
飛行しながらその手で石コロの様なモノを投げてくる。
……つまり、かなり面倒なのだ。
アイスウル……ブラックウルフを真っ先に処理しておいて、残りはコイツだけの状況にしておかないとまともにやりあえない。
「――パワースロー!……らあ!」
『――!』
スチールアックスを投擲武技で投げて。
その後はミニガーゴイルの石の投擲に合わせて地面の斧を拾い、タイミングを合わせて振る。
《Reflect!》
「よし!」
『――……』
《経験値を取得しました》
飛行スピードは控えめなのは良いが、その代わりコイツは『落ちない』のだ。
だから、常に投擲でダメージを与えなければならない。
投擲武技、反射、通常の投擲……それを駆使して、ようやく倒す事が出来た。
「やっと終わったか。疲れた……」
「ニシキさまニシキさま!流石でしたぁ!」
「はは、ありがとう」
すぐ傍で隠れていたエリアが出てくる。
エリアには麻痺毒瓶と餓鬼王の印を持たせているから、そこまで警戒しなくていいのは助かるな。
「ごめんなさい。エリア何も出来なくて……もう直ぐだと思います」
「良いって、エリアは――」
『子供』。そう言いかけて止める。
師匠の試練に挑む彼女には、それは失礼な言葉だからな。
というかさっき怒ってたし。
「……ニシキさま?」
「何でもない、気を引き締めていくぞ」
「はい!」
☆
《これよりボスとの戦闘に入ります》
《準備はよろしいですか?》
「!また唐突な……」
「ニシキさま?」
「ん、あー……多分この先、強いモンスターが居る。エリアはバレないように隠れておいてくれ」
「?わ、分かりました……」
そりゃ、アナウンスがそう言ってるからなんて言えないからな。
……さて。
今回は――絶対に、エリアを守り切ってこのクエストをクリアする。
前の悲痛な彼女の顔は見たくないんだ。
「行こうか」
魂斧を強く握り込み、俺は足を進めた。
《クエストボスとの戦闘を開始します》
《制限時間は30分です》
《BATTLE START》
アナウンス、そして。
暗い森の中――そこに居たのは。
《ミニ・ファントムドラゴン LEVEL40》
……ドラゴン。
空想上の存在で、当たり前だが見るのは初めてだった。
ただ、竜というよりは蛇に近い見た目だ。蛇に小さな翼が付いているぐらいだろうか。
黒と紫が混じり合ったような色の肌色で、体には薄い煙の様なモノを纏っている。
『ミニ』と言えど体長は5メートル程、太い胴体を地面に這わせながら――その、輝く赤い瞳で俺を睨みつけている。
「これが蛇睨みって奴か」
迫力満点のその大蛇に、俺はゆっくりと近付いていく。
長い舌をチロチロとさせながら、目の前のモンスターは全く動かない。
ただ――俺を睨むのみ。
しかしながら、しっかりと殺意は感じる。
「……」
『……』
距離にして、もう一メートルも無い。
大蛇はその顔は全く動かさないが――胴体はゆっくりと俺の回りを囲むよう動かしていく。
ただでさえ暗いってのに、コイツの身体のせいで余計に光が入ってこなくなった。
『……』
それに、殺意を出来るだけ乗せない様に。
俺は――目を瞑った。
そして、魂斧を腰に付ける。
「……」
集中、集中。
それを活かせる瞬間を、ひたすらに待つ。
――来る!
「『ラウンドカット』!」
待っていた、ゆっくりと迫りくる全方位からの殺意。
俺は――その片手斧の、新たな『武技』を発動した。
『SYAAAAA……!』
目を開ければ、後ろに距離を取って怯んでいる大蛇。
そのワケは……俺を包む様に動かしていた胴体を、ほぼ全方位切ったから。
『ラウンドカット』は、片手斧スキルが上がった事で取得した武技。
周囲を円を描くように切る攻撃だ。
攻撃時間が長くパワースウィング同様隙は大きい為、ある程度動きを先読みしてから発動しないと手痛い反撃を食らうだろう。
が、上手く使えばかなり有用な武技だな。
周囲を手軽に斬れるのは大きい。
「――『パワースロー』……らあ!」
怯んでいる今がチャンス。
魂斧を蛇の眉間に投擲し――そのまま走って回収、斧を振るう。
『――!SYAAA……』
手応えあり、見ればHPゲージは二割程減っている。
さて――このまま行けると良いんだけどな。
☆
コイツの攻撃パターンは、噛み付きに尻尾による叩きつけ。
単純ではあるものの――デカい図体にこの雰囲気、当たれば相当ダメージを食らってしまうだろう。
『――――』
割合にして五割、ファントムドラゴンの体力を削った所で、様子が変化した。
煙の様なモノを纏っていた姿が――その煙『そのもの』へと変わっていく。
つまり、身体全てが煙になったのだ。
「……み、見辛いな」
姿形が消えたわけじゃないんだ。
でも――まるでそれは、地面に煙が浮いているだけにしか見えない。
『SYAAAA!!』
煙が動き、近付いて来る。
……やるしかない。
「『スラッシュ』――!?」
思わず二度見する。
振るったその武技は、確かに煙と化した大蛇に当たったはずだった。
うねうねと動くそれに。
でも――それは、まるで透けたように通り抜けたのだ。
『――SYA!!』
「ぐっ――!?」
直後、煙が動いて――鞭の様にその胴体が俺の身体に叩きつけられる。
減るHP。
先程俺の武技を通り抜けたその煙は、今度はしっかりと実体があった。
「――随分、都合が良い身体なんだな」
嘆く。
さて……どうしたものか。
☆
「――『スラッシュ』、ダメか……っ!」
『SYAAAAAA!』
分かった事……少なくとも、この煙の形態じゃ物理攻撃は効かない。
魔法攻撃なら可能かもしれないが……俺にはそれを試す術なんて無い訳で。
そしてもう一つ。
コイツの攻撃は煙形態でも普通に食らうという事。
《黒の変質が発動します》
「……もう三割以下か、流石にマズいな」
受けられるのは後二回。
最悪黄金の蘇生術もあるが――どうする。
『SYAAA……』
煙のまま佇むファントムドラゴン。
じりじりと、俺に近付いて来る。
……一応考えた手はあるんだ。
とりあえずそれを試してから――
「――に、ニシキさまに近付かないで!!」
「え、エリア!?何で――」
思考していて、気付けなかった。
背後に隠れていたエリアが、走って大蛇へと向かっていっている。
「く、くらえーー!!」
不意の事だった。
止める事も出来ず、あっと言う間に俺の前に出る彼女。
そして、そのまま手に持つ『麻痺毒瓶』を――
「――うっ、ひぎゃぁ!!」
『SYAAAAAAAA!!』
「あ、や、やぁ――」
――浴びせようとした所で、地面へと転んでしまう。
『煙』が酷く動揺しているように見えたのも束の間、ぬらりぬらりと彼女に向かっていく。
――まずい!
『SYAAAAAAAA――』
「っ、――『高速戦闘』!!」
恐らく頭部。煙の先端が、猛スピードで彼女に向かう中。
俺はエリアの元へ走った。
取って置いておいたその切り札も、今はそれに費やした。
間に合うかは分からない。
思考よりも先に身体が動いていた。
俺は死んでも復活出来る。でもエリアは――『それで終わり』かもしれないから。
『SYAAAAAAA!!!』
「っ、間に合ってくれ――ぐっ!?」
《状態異常:部位欠損となりました》
《逆境スキルが発動しました》
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