RE:START②
「な、何だよお前」
不良の一人が俺に声を掛ける。
当たり前だろう。後ろに人がそっと立っていたら驚く。
気付けば俺はここに居たんだから、何かといえば何も答えられない。
それで俺も分からないですなんて言えば、余計に混乱させるだけだ。
「……何か言えや!」
「気味ワリィんだよ!!」
黙ったままの俺に吠える不良二人。
分からない。
いつもなら、こんな面倒事はスルーして他のコンビニを探すはず。
どうして俺は、足を前に進めている?
気付けば俺は――コイツらの近くに接近していた。
「……おいオッサン、俺ら邪魔する気?」
脅しにドスを聞かせる声で言う不良。
そしてそれをトリガーに、今の状況が――あの時と同じだと分かる。
俺は、何を期待しているんだ?
どうして逃げないんだ?
どうして――これから起こる事に、期待をしているんだ?
「……なあ無視しようぜこんな奴」
「チッ、何だよ――っと、逃げんなよ」
「――痛っ!」
腕を掴まれたままの少女は、強引に腕を引き剥がそうとするが非力な様だった。
乱暴な力で手を握られ、痛みで口が歪むのが見える。
……俺に注目がいっている間にやるべきだったかな。
タイミングで言えば、一番最初。
「――あ?」
気付けば、少女の腕を引く不良の肩に手を置いていた。
別に俺は――彼女を助けたかったからではない。
この行動の意味。
それは、俺の期待するシナリオへと戻す為。
そして――その未来は、やって来た様だった。
「なあオッサン。――いい加減にしてくんね?」
雰囲気が変わった。
俺が肩を掴んだ不良が、こちらに向き脅すように言う。
そして同時に――もう一人の不良が消えていた。
まあ、どこにいるかは分かっているんだが。
俺の視界外。つまり――
「……堕ち――」
『後ろ』。
ぬるりと、俺の首に他者の腕が絡まる。
このまま絞めるつもりだったのだろう――だが。
「――痛ッてえ!!」
革靴の踵で、背後の不良の足の小指を踏みつける。
情けない悲鳴と共に、ロックが緩む不良。
そのまま肘でアバラを打てば――
「――が――ッ……」
声と共に、空気が肺から抜けていく音。
完全に腕が解け、崩れ落ちていく。
遠い記憶、どこかで見た護身術のテレビ番組の一部分。
それを俺の身体で再生したが、うまくハマったようだった。
「っ!?――らあ!!」
突然の反撃に驚いたか、ワンテンポ遅れて襲ってくるもう一人。
乱暴で、汚い構えだ。そして遅い。
避ける――いや。
その必要は無いな。
「――っ」
殴りかかるモーションを予測し――ビジネスバッグを振り上げる。
不良の目は追い付いたが、身体は止まれない様だ。
これから起こる事に、理解はしているのかは分からないが。
そのまま彼は、導かれるように――
「ごっ!?――」
顎に直撃したバッグと共に、舌を噛んでしまったようだ。
痛みから気絶し、そのまま倒れる不良。
終わった……そう思ったが。
「はあ、はあ……テメエ……終わりだ」
最初に倒したソイツは、どうやら復活したらしい。
その、尖った金属を手に。
「……ここで、そんなモノ出していいのか?」
「――お、お前、お、おわ、終わりだぜ――!」
俺の言葉は届かない。
痛みと羞恥から何かが欠落したのか、笑いながら震えて、ナイフを動かす不良。
折り畳み式ナイフ――バタフライナイフというモノだろう。
まるでそれを見せつける様、刃を向けた。
「はあ、はあ……し、しし、死ね――!!」
彼はもう、正気ではない。
息切れを起こし口は震え、目は血走っている。
そしてその狂気のまま――俺に向かって突っ込んで来た。
「――来い」
……どうやら俺は、どうかしてしまった様だ。
この状況を、待ち望んでいた自分がいる。
今の感情が、恐怖では無い自分がいる。
「――らあああああ!!!」
叫ぶ不良。
電灯によって鈍く光る刃。
自身への濃密な敵意。
――そうだ、これを待っていた。
ドクンと鼓動が早くなり、グルグルと脳が思考を回すこの感覚を。
ソレに当たれば終わりの、ひりつくような闘いを。
『死闘』。
フラッシュバックするあの時の映像。
俺が望んだ理想のシナリオ。
身体を逃がさず、歩みを前へ。
思考を回し、最適解を。
「……うっ――!!」
その不良には、僅かに迷いが見えていた。
狙いは首でも胸でもなく、俺の腹だと分かった。
もしかしたら、当てる気も無かったのかもしれない。
凶器に頼った醜い攻撃。
あの時と違う、遅く、弱く――物足りないソレ。
隙だらけで、臆病な。
避けるのは容易だった。
そしてその後鳩尾を殴れば――本当に、あっけなく終わってしまった。
「……お――ま……ころ……」
何か小さく呟くソイツが、何を言っているのか分からない。
興味もない。
いつの間にか、フードの少女も消えていた。
☆
「……はあ」
家に帰って一息つく。
「……」
食欲は消え、コンビニにも寄らずそのまま帰った。
家に帰り、ふと冷静になってみれば……俺はとんでもない事をしていた。
不良に喧嘩を売ったり、武器を前に逃げなかったり。
そして一番の異常事態は――それを、俺が『楽しんで』いたことだ。
一つ間違えれば、俺は死んでいたかもしれないというのに――
「どうしちまったんだよ、俺は……」
ベッドに寝転がって、嘆く。
その答えを知ったところでどうにかなるわけでもないが。
「……何だってんだよ」
食欲もない。
睡眠欲もない。
あの不良との戦闘から、足りないと身体が訴える。
中途半端に体験したアレから。
より一層に……俺の身体は欲しているんだ。
――『消化不良』。
RLが、嫌でも頭に浮かぶ。
辞めたはずのそのゲームに、手が勝手に伸びていく。
「……もう、辞めたはずだったんだけどな」
それを購入してから、ずっと惰性でプレイしていたはずなのに。
今日、久しぶりに――俺は、意欲的になっている。
「……少しだけだ」
それは――『戦闘』を求めて。
また俺は――RLの世界を求める。
『「GAME START」』





