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七話目 獣人の少女

 しばらくは、舟に乗りながらも後ろを気にしていたが、どうやらもうドゥマーニ様は追ってこないようだった。小一時間は川を下っているので、さすがにもう大丈夫だろう。バッカス兄ちゃん、大丈夫だったかな……。というか、村のみんな、僕なんかのために無理しすぎだよね。ドゥマーニ様にみつかってしまっている以上、神官様には何て誤魔化すつもりなんだろう。


 景色は村周辺にあった木々から草原へと変わり、川幅も徐々に広がっている。流れも緩やかになっており、僕の気持ちにも少しだけ余裕が出てきた。


行き着く先に獣人の国があるとして、僕は獣人の国に入ることが出来るのだろうか。人との間に交流は進められていると聞いたことはある。まだ貿易などの物の交流が多いのだろうけど、大きい街に行くと獣人が普通に人と暮らしていることもあるそうだ。それならば、逆のパターンもあり得るのかもしれない。というか、それが無理だとしたら、僕は初日からピンチをむかえることになるんだけどね。


「村を離れれば離れるほど、別の意味で危険が多くなるよね……」


 いくら街や村の周辺だったとしてもモンスターはいる。今現在だって、僕の見える範囲には草原を駆け回るオオカミ、ラウンドウルフの群れが見えている。そういうことなので、小舟は川の中央をキープしながら、決して川辺には近づかないように注意しているのだ。あんなのに襲われたら、僕なんか一瞬で骨になってしまう。たまにゴブリンが川辺で威嚇してくることもあるけど、お手製の弓は、僕のところまでは届かないらしく、ギャーギャーと叫びわめいているだけで済んでいる。


「そろそろ、食事をとっておこうかな。いつもお昼に食べていたエリオ特製のサンドイッチを手にとる。このサンドイッチを食べるのもこれが最後か……」


 コンッ、コツン


「まだ少しパンが温かい。作り立てに食べるのはまた格別に美味しいな……」


 コツン、ゴツン


「あ、あれっ、何か、船底から音がするような」


 ガツン! ドゴーン!


 小舟の船底にはひびが入っており、水が染み込んでくる。いや、何が起こってるの!? まずいまずい! あわてて水の侵入を防ごうと荷物から適当な服を取って押さえつけてみるけど、水の勢いが止まらない。僕が船底ばかりに気をとられていたからだろう。川の中から小舟に手を掛けてこようとするモンスターを見逃してしまった。


「なっ!? ゴブリン!」


 そう、小舟に乗り込んできたのは小さな緑色の小鬼、ゴブリン二匹が両脇から乗り込んできていた。小舟の上を小さく飛び上がるようにしながら僕を威嚇してくる。目当ては食料か? いや、僕かな……。


 この二匹が相手なら僕もまだ戦おうという気もあったのだけど、水面に浮かぶゴブリンの頭は数十匹ですでに囲まれていた。ゴブリン、泳げるらしい……これはまさに万事休すってやつだ。僕の手には小舟を操る少し長めの棒のみ。少しでも数を減らさなければ本当にヤバい。


 目の前にいるゴブリンに見せるようにエリオのサンドイッチを川の方へ向かって投げると、ゴブリンも釣られて空中でキャッチ。もちろん、そのまま川へ落ちていく。頭の弱いゴブリンで助かった。一匹ぐらいなら押し出してやる!


「えいっ!」


 残った一匹のゴブリンを、持っていた棒で何とか押し出すことに成功するけど、小舟の周囲は完全に包囲されてしまっている。


「背に腹は代えられない! 持っていけ、これが僕の持っている食料全部だ」


 僕はゴブリンが離れてくれることを願って、持っていた食料を全て川に投げ込んだ。


 匂いで気づいているのか、小舟にとりついていたゴブリンも次々に離れていく。も、もう大丈夫……。


 そう僕が油断した時に後ろから、木の棒を振りかぶっているゴブリンを見たのが覚えている最後の記憶だ。


どうやら、僕の命もここまでらしい。せっかく逃がしてくれた村のみんなにも申し訳ない。






 それからしばらくして目を覚ますと、何故か知らないんだけど、僕は絶賛ペロペロと舐められていた。


 あれから、どうやって生き残ったのかはよくわからない。記憶がないのだから。棒で殴られた後、奇跡的に小舟から落ちずに流れ着いたのか死んだと思って見逃されたのかはわからない。とりあえず、まだ僕は生きているということはわかった。


「あ、あのー、僕は食べ物ではないので、そろそろペロペロしないでもらえると助かるのですが……」


「気がついたかにゃ? アイミーは、主様が目を覚ますまで看病していたのにゃ」


 改めてその姿を見ると、獣人の女の子で間違いないようだ。はじめて獣人の子を見たのだけど、ピクピクと動くもっふりとした猫耳、ふんわりとした毛並みの尾は、彼女が猫人族の獣人であることを示していた。


「アイミーっていったかな? 僕はレックス。ここまでどうやって来たのか全然覚えていないんたけど、助けてくれてありがとう」


「主様を助けることが出来て光栄だにゃ。私はアイミー、猫人族のアイミーにゃ」

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