五十四話目 北の砦
大量に集められた香草の束。シュナちゃんの指示のもと、僕たちはこの臭い香草をひたすら集めまくっていた。この草は燃やすことで大量の煙と臭いを発生させる。
これをロープで大きなボール状に丸めた物が数十個。砦手前のオークに気づかれないギリギリのラインまで投げ入れることで作戦はスタートする。
「準備はいいかな?」
「大丈夫にゃ」
「じゃあ、アイミー、作戦通りに投げていくよ!」
身体強化魔法を使って、僕とアイミーで香草ボールを砦手前に照準を定めて投げ込んでいく。
もちろん、投げたのは草なのでたいした音もしないし、オークたちに気づかれることもない。
「シュナちゃん、レムちゃん頼むね」
「よし、行けっ! ファムファタル」
「ふんっ、任せろ。ファイア!」
シュナちゃんのファムファタルが香草ボールの数だけ出現すると、レムちゃんの火炎魔法が剣先に火を灯す。そして、火の着いたレイピアが香草ボール目掛けて飛んでいく。そこまで大きな火は着かないが、闇夜に紛れて強烈な香りの煙が立ち上る。
「風よ、巻上がれ。エアブラスト!」
続けざまに、レムちゃんの風魔法が砦に向けて煙を誘導していく。おそらく、鼻の利くオークたちにとってはかなりキツいはずだ。突然の大量の煙と想像を絶する臭いに砦の中は混乱の坩堝と化しているに違いない。
しばらく時間を置いてから、砦内にこっそり忍び込む。あとは、少しずつオークの数を減らしながら、勇者パーティの到着を待てばいい。
「ありがとうレムちゃん。じゃあ、あとはよろしく」
「任せておけ。火の始末もやっておくから安心して行くといい」
「うん、じゃあ、また明日ね。あと、ウサ吉達のことよろしくね」
ちなみに今回、ウサ吉軍団はレムちゃんの指示のもと、冒険者になりすまして砦攻略と勇者パーティの支援にまわってもらう。どうかウサギだとバレないように頑張ってもらいたい。
砦の目の前まで来ると、まだオーク達の叫び声やドタバタ暴れ回る音が響いている。香草ボールの効果は抜群のようだ。見張りをしていたオーク達も、既に火も消えているし、敵のいる気配もないので、何事が起きているのか絶賛混乱中といったとこだろう。そして、煙を吸いすぎて倒れる者が大量に出てくる。
「主様、あそこから侵入するにゃ!」
見張りの気配が感じられない場所をアイミーが発見したようだ。音もしないし、煙を吸い込んで昏倒している可能性が高い。
「アイミー、僕たちは登れるかもしれないけど、シュナちゃんにあの高さは厳しくないかな?」
砦なので、かなり高い位置に物見用のスペースがあいているわけだけど、身体強化魔法のないシュナちゃんには到底登りきれるとは思えなかった。
「レックス殿、何も問題ない。ついて行くから早く進むのだ」
シュナちゃんを抱えながら登るしかないかと思っていたのだけど、全く意に返していない態度から鑑みるに、シュナちゃんにも何か考えがあるようだ。
「了解、じゃあ行くよ!」
壁を蹴りあげながら一気に駆け上がっていくと、同じルートをアイミーもついてくる。
シュナちゃんはというと、複数のレイピアを壁面に階段状に突き刺していくと、つま先立ちで器用に登ってきていた。
「たいしたものだね」
「主様はもうちょっとアイミーたちを頼りにしてもいいと思うにゃ」
「そ、そうだね。僕的には頼っていたつもりだったんだけど……」
「心配しなくても、アイミーたちは十分に強いにゃ。主様のお陰でステータスも爆上げしてるし、余程のことがない限り平気にゃ」
「うん、わかったよ。じゃあ、明日の作戦では頼りにしてるからね」
こうして、砦にはあっさりと侵入に成功してみせた。後は明日まで隠れる場所を探すぐらいか。
「う、うにゃ、ま、まだ結構臭うにゃ!?」
侵入した見張り部屋には、予想通りオークが二体、気を失って倒れていた。香草を燻した煙はオークにはかなり効果があるのはわかったけど、鼻の利く猫人族のアイミーにも危険な代物のようだ。僕には全然平気みたいなんだけど……。
「レックス殿、早く移動するか換気をした方がいいだろう。アイミーが辛そうだ」
あっさりと到着してみせたシュナちゃんが、アイミーの様子を心配している。どうやらシュナちゃんも平気ということは、オークとアイミーには危険なものということか。
レムちゃんがいないので、換気するような風魔法は使えないし、自然に回復するまで煙の届いていない場所に移動した方が早そうか。
「うーん、下に降りた方が煙の影響はないかな」
「うむ、そうだな。どこへ向かうのだレックス殿」
スリーザーの情報だと、北側の一階に食料を運び入れていたとの話だった。隠れるなら、そこが無難な気がする。
「北側一階、食料庫へ急ごう」
「りょ、了解にゃ」
「わかった。アイミーはこの布で口と鼻を塞ぐのだ」
「シュナちゃん、好き」
「オークの気配を避けるように行くよ。どうしようもない場合だけ、あとかたもなくドレインで消す」
「ああ、わかった!」
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