五十三話目 作戦
「主様、砦をぶっ潰しに行くのにゃ?」
昨日の夜、諜報部隊のスリーザーより北の砦の情報が伝えられたのだが、どうやらオーク軍はこちらに攻め込んでくる構えは一切なく、なんなら食糧の搬入をしていることからも守りを固めているように見えるとのこと。
「い、いや、ぶっ潰さないよ。砦の攻略はあくまでも勇者パーティにやってもらうつもりだからね。でも気になるのは、みんなから聞いていたオークのイメージと違うことかな。もっと本能に忠実というか、目の前に敵がいたら猪突猛進するようなモンスターだと思っていたんだよね」
「オークが大人しく砦を守っているとか、らしくないにゃ」
「確かに、そういうイメージで間違いない。本能の赴くまま、まさしくモンスターというのがオークだろう」
眉間にしわを寄せながらそう語るシュナちゃん。オークと何か嫌なことがあったのだろうか……。
「北の砦を魔王軍に押さえられているのは、あまり好ましい状況とは言えないからね。エリオ達が攻める前に内部の弱体化を図っておこうとは思うんだ」
この北の砦だけど、三代目のドゥマーニ様が魔王討伐を成し遂げた際には人族で管理していたそうだ。砦が魔王軍に奪われてしまったのは最近のことで、大量のオーク軍による侵攻で失ってしまったとのこと。その数はおよそ十万、オークキングのオズワルドピグマンが四天王になってしばらくの頃なのだろう。
というわけで、人族側の防衛ラインはプリメラになっているそうだ。どうりで一般の人が少ないわけだよね。
「レックス殿、今日には勇者パーティもプリメラに到着するのだろう。どのように砦を攻略するつもりなのだ?」
「あくまでエリオたちに砦の攻略をしてもらうつもりだから、僕たちは砦内部に侵入して内部からオークの数を減らしていこうと思っている。もちろん、オークキングも相応に弱らせておくつもりだよ」
「砦には十万ものオークがいるんだろ。一体、俺たちはどれだけのオークを減らせばいいんだ? 勇者パーティってどれぐらい倒せるんだよ」
うーん、エリオのレベルは二十そこそこといったところに思えた。他のパーティメンバーも似たりよったりだろう。エリオたちに魔王討伐をしてもらう為には、ちょっと心許ない強さだ。
というわけで、今回の砦奪還作戦ではそれなりにレベルも上げてもらいたいので、多少は無理をしてもらうつもりでいる。もちろん、最大限のフォローはするつもりだけどね。
前回はタイミング的にゴブリンキングの経験値をエリオに渡せなかったので、今回は、可能であれば勇者パーティにオークキング討伐を果たしてもらいたいと思っている。
「半分も減らせば大丈夫かなとは思うんだけど。様子を見て厳しそうなら更に減らしていけばいいでしょ。あと、レムちゃんには別行動でお願いしたいことがあるんだ」
「お、おう、任せろ。俺はできる四天王だからな」
魔法が得意なレムちゃんには勇者パーティの攻略を補助してもらいたいと思っている。少なくとも勇者パーティだけで砦の攻略をするということはないはず。勇者と共に派遣された多くの王国兵、冒険者たちも参加しての奪還作戦になるだろう。レムちゃんには冒険者に混ざってもらって力を発揮してもらおうと思っている。
「レムちゃん、一応言っておくけど目立つ行動は控えてよ。あと、顔を隠すようにフードをちゃんとかぶっておくんだよ」
「俺はアイミーとは違う、安心してもらっていい。いや、期待してもらっても構わない」
腕を組んで、無い胸を張りながら偉そうにしている姿には、もう既に不安しか感じない。
まあいい、結果的にエリオの手柄に出来ればいいんだ。レムちゃんが無茶をしたとしても、やりようはいくらでもあるはず。きっと……。
「みんなからも意見を聞きたいんだけど、なるべく目立たないように砦に侵入したいんだけど、何かいい方法ってあるかな?」
「正面突破が結果的に一番早いと思うにゃ」
「うん、却下」
勇者攻略前に目立ってどうする。
「レックス殿、オークは鼻がとても利くのだ。隠れて行くにも見つかりやすいのは確かであろう」
「やっぱり、難しいんだね……」
「そこで、私に良い作戦があるのだ。聞いてもらえるだろうか?」
やはり、頼りになるのはシュナちゃんだ。オークの長所を逆に利用して砦に潜り込む作戦らしい。なかなかに考えられている。あくまでも、目立たないように砦に潜入しなければならないので、この作戦なら何とかなりそうだ。
「うん、シュナちゃん、その作戦でいこう! 夜までは作戦の準備にあてる。決行は、今夜だよ」
「では材料から集めるにゃ! レムちゃんも、夜まではこっちの作業を手伝うにゃ」
「わ、わかってるよ。お昼寝出来るとか思ってねぇから。や、やればいいんだろ、やればよー」
北の街プリメラでは、その日の夕方に勇者パーティと多くの王国兵、冒険者らが到着し、翌朝からの砦奪還作戦に街が盛り上がりを見せていた。ゴブリンキングを倒した女性の勇者ということで、人気は上々のようだ。
そして、深夜、僕たちの砦への侵入作戦が開始された。
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