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五十二話目 北の街プリメラ

北の街プリメラ、ここは人族の住む最北端の地であり、ここより北へ進むと大きな砦があり魔王城のある北の大地が広がる。


「なんだか、微妙に活気がないにゃ」


「王都と比べるからだアイミー。しかも、ここは北の街なのだ。好んで住んでる奴なんて、そういないであろう」


ブンボッパ村が栄えていたとは言えないけど、明るくて元気な村ではあったと思う。だけど、このプリメラの街はどうも寂しさを感じさせる街だった。


通り過ぎる人の多くが、武装した兵や冒険者なので、ここで暮らしている人は少ないのかもしれない。


「……宿屋が決まってないなら、砂漠の鷹亭に泊まるかい? 一泊千イシスだよ」


「た、高いですね。ちょっと、先にギルドに用があるので、あとで考えてから決めます」


気のせいか、声をかけてくる宿屋の主人の顔も暗い。いや、宿屋だけでない。道具屋や武器屋も、値段も高く人が入っていない。


「お、王都よりも物価が高いにゃ。聖水が八百イシスだったにゃ」

「ふっ、お金には困ってないから二千でも三千でも構わないぞ」

「シュナイダー、そういう問題じゃない。宿屋は美味しいごはんと上質なベッドで決めるものだ」


この街に貴族はいないので、レムちゃんの希望する宿屋は、なかなか厳しいのではないかと思われる。何というか街全体が寂れていて活気がない。期待するのは難しそうだ。


「とりあえずは、ギルドで情報収集しようか。この街に来たって、ご挨拶をしなければならないらしいんだ」


僕たちのように拠点を置かずに活動する冒険者は、移動する際に冒険者ギルドに出発の挨拶と、到着の挨拶をしなければならないそうだ。ギルド的にも戦力の把握をしたいからなのだと思う。


「おっ、レックスじゃねぇか?」


「ライナスさん!?」


ギルドの前には、王都で宿屋を紹介してくれたライナスさんが声を掛けてきた。


「レックスもプリメラに来てたのか。この街にはランクC以上ないと入れない。レックスもそれなりにやるようだな」


どうやらBランク冒険者のライナスさんからしたら、僕たちは駆け出しの冒険者に見えていたようだ。冒険者としての活動はほぼ皆無なのであながち間違ってはいないのだけど。


それにしても、Cランクに成れたのはラッキーだった。まさか、街に入るのにランク制限があるとは知らなかった。ギルドのお姉さんが心配そうに見送ってくれてたのはそういうことだったのだろう。


「最近、Cランクになったばかりなんですよ。ライナスさんはここへはどんな用で来られたのですか?」


「そんなの勇者様のお手伝いに決まってるだろ。この街の北には魔王軍の砦があるんだ。ここに集まっている冒険者は勇者の戦いを間近で見たいとか、この国の為にとか思ってたり、あとはそうだな……ひたすらモンスターと戦いたい戦闘狂のような奴しかいないだろ」


 なるほど、観光気分で来てはいけない街だということがよくわかった。この街の優先順位は魔王軍との戦いに重きを置いているので、宿屋も武器屋も危険を顧みず商売をしているのだろう。だからこその価格設定ということか。万が一、砦から大量のモンスターが攻め込んで来たら店も商売道具もすべて失うかもしれないのだ。


「僕たちは、お披露目で見た勇者様の応援というか、そんな感じです。多分、危険だと思ったらすぐに戻ると思います」


「冒険者は引き際が大事だ。生き残ることが次の稼ぎに繋がるってものよ。いい経験になるといいな」


「そうですね。では、僕たちはギルドへ挨拶に行ってきます」


「おう、それから、この街の宿屋でおすすめは東のすずめ亭ってとこがいい。値段はプリメラ価格だが、料理とベッドメイキングが他と比べ物にならねぇ。間違ってもそこの砂漠の鷹亭はやめておいた方がいいぞ。オプションで寝具代や料理代を請求されるからな」


 砂漠の鷹って、ハゲタカの類なのかな。僕たちの話声が聞こえたであろう宿屋のおっさんがすごすごと戻っていった。とりあえず、今後どこかの街でライナスさんに会ったら宿屋情報は聞いておくことにしようと思った。



「プリメラのギルドへようこそ。はい、こちら冒険者カードをお返ししますね。一応、注意点ですけど、現在プリメラギルドでは通常クエストはありません。常時クエストのみとなっているのでお気を付けください」


「通常クエストがないのですか」


「場所柄と言いますか、北方面へは冒険者は基本的に立ち入り禁止になってますし、日銭を稼ぐにしても南側に集中してしまうので、どうしても取り合いになってしまうんですよ」


「つまり、クエストを出すまでもなく平和ということなのですね」


「危険が売りのプリメラなのに平和なんですよ……。うぅ、売上がほしい……」


「それはまた、何というか冒険者ギルドも色々と大変なんですね……。あっ、僕たちはそろそろ宿屋を確保しにいかなきゃなので、その、また顔を出します」


「何でも買い取りするので、野ウサギでもいいので持ってきてくださいね!」


 ウサギか……。ウサ吉やラビ子が近くにいるせいか最近、ウサギ肉を食べなくなったな。いや、別にどうしても食べたいというわけでもないし、全然気にならないんだけどさ。そんなことを考えていたからなのかはわからないけど、その日、東のすずめ亭で出された夕食は野ウサギのモモ肉をソテーしたものだった。


「す、すまない、ウサ吉。お、美味しく頂くからな」

「レ、レムちゃん、その言い方だとウサ吉を食べてることになっちゃうにゃ」


 少し気まずい雰囲気の夕食になってしまったけど味は申し分なく、ライナスさんの言う通りとても良い宿屋であった。翌日の朝、追加で三日分の予約をお願いすることにした。

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