四十一話目 死霊軍団
見張りを任せていたゴーストから連絡が入ったのは夕方頃だった。水門に仕掛けていたスケルトンの骨が消滅したらしい。ゴブリン軍団が来るにしては早すぎるし、そもそも、此方はまだゴーを出していない。何しろ勇者のお披露目は三日後なのだから。
「街の兵士にでも見つかってしまったか? おいっ、そこのゴーストちょっと様子を見てこい。念の為、他のゴーストとスケルトンは男爵家へ避難しておくように」
男爵家というのは、ブリューナク男爵のお屋敷のことだ。深夜に大量のゴーストが取り憑いて、男爵の家族から、そこで働いていた執事、メイド、料理人、警備兵に至るまで、まるっと飲み込んでみせたのだ。
現在はここを拠点として、教会に探りを入れているところだ。実は、ブリューナク男爵夫人が敬虔なイシス教徒ということもあり、多額のお布施をしていたことが判明した。教会内でもそれなりの地位にいることがわかったのだ。
夫人が手に入れた情報で、既に勇者は教会内部に入っていることがわかっている。そして、お披露目の日は三日後という情報まで得られた。
つまり、俺の仕事としては三日後に地下水路から大聖堂までのルートを整えれば完了というわけだ。あとは適当に脱出すればいい。
「順調すぎて自分の能力が怖い。おいっ、ワインを持ってこい。一番高そうなの用意させろ」
近くにいた執事に取り憑いたゴーストにワインを持ってこさせると、これまた料理人に取り憑いたゴーストが温野菜とチーズの盛り合わせを持ってくる。
「貴族というのもなかなか良いものだな」
すると、スケルトンがカタカタと慌てたように報告にやってきた。
「どうした、水門の件か? 何、様子を見に行かせたゴーストが消滅した!? 敵は獣人とエルフなどを含む男女四人組……」
その四人組ってリュカス様が関わってはいけないとか言ってた組み合わせのような気がするんだけど……ヤバくないか。
確か、元四天王でステータスも取り戻している暴れん坊獣王バリュオニウスに超攻撃的魔法のスペシャリスト、吸血姫のレムリア・ツェペシュ、そして千剣を操るエルフ、魔剣シュナイダー。
そしてもう一人、リュカス様の腕を軽く吹き飛ばしてみせたというもう一人の魔王レックス。
「レムリアは……? 背の低い色白の少女はいたか? あ、あとは、人族の少年もだ?」
結論から言おう。水路を抜けて来たのは、間違いなく関わってはいけない四人組だった。
どうしよう、どうしよう。に、逃げるか。い、いや、まだこちらの動きはバレてないはずだ。奴らが何の目的で王都イシストピアに来たのかはわからないが、あと三日、あと三日だけ我慢すればいいんだ。どうにかして俺は俺の役割を、任務を果たそう。
「そ、その、四人組に取り憑いた者を向かわせて情報を探ってくるんだ。いいか、絶対にバレるんじゃねぇぞ」
あとは、何だ……。そう、勇者パーティについても行動を移さなければならなかったんだ。何だよ、急に忙しくなってきやがった。ただ、食って襲うだけでいいガジュマズルは楽でいいよな、ったく。
「俺はこれから執事の振りをして、夫人と一緒に大聖堂へ行く。お前たちは、それまでに準備を整えておくんだ。わかったな?」
イシス教に娘が呪いを掛けられて寝込んでいると伝えるのだ。夫人の地位を活用すれば勇者パーティを引っ張れる可能性も高い。何としてでも聖光魔法を使える勇者を、最悪でも光魔法を使える聖女を呼んで情報を集めるのだ。
お礼に食事でもと誘えば断りづらいだろう。ワインに薬を入れておけば簡単に眠らせることも可能。眠ってしまえば勇者といえども取り憑き放題。
あれっ? これガジュマズル要らないじゃないか……。大軍で攻め込まずともお披露目の前に勇者暗殺とか可能かもしれない。
じ、自分が怖い。自分の頭の良さが怖すぎる!
「金を大量に用意しろ。追加のお布施で勝負を決めてくる」
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