三十七話目 ゴブリン王
王都へ向かう道のりでスリーザーの情報を確かめるべく、森を抜けながら向かっていたのだが、王都へ近付くほどに異常な数のゴブリンが集結しているようだった。
「スリーザーの話の通り、ゴブリンの数が増えてきたね。王都からそんなに離れた場所でもないのに、そろそろ危険じゃないのかな?」
「主様、これは多いってレベルではないにゃ。しかも、このゴブリン達ステータスが異常に上がっている。もうゴブリン王の従属のスキルが発動していると思うにゃ」
ゴブリンと戦ったことは、僕が村を追放された時以来ないのでよくわからないんだけど、異常という程の脅威は感じていない。これぐらいならパワーアップしたウサ吉でも無双出来てしまうレベルじゃないかな。
「王都の冒険者や兵は、このこと気づいてないのかな?」
「おそらく、見つけたものは全て殺されているのだろう。人族にとってゴブリンは忌嫌うモンスターだ。見つけ次第、せん滅というのが常識だからな。もちろん、我々エルフの民にとってもだ」
「つまり、倒そうとしたけど、この数で逆に逃げることすら出来なかったというわけか。見つけ次第、せん滅ね……」
脅威は感じないのだけど、次から次へと湧いてくるゴブリンには正直嫌気がさしてきた。見える範囲のゴブリンを指定して一気にドレインしてしまおうか。
「お、おいっ、レックス、お前、ドレインやり過ぎるなよ。前みたいになったらどうするつもりだよ」
レムちゃんは、リュカスの腕を吹っ飛ばした時のことを言ってるのだろう。あれから、僕のステータスもかなり上がっていて、今では七十パーセントぐらいまでなら意識を保ったままでいられるのだ。
ちなみに、現在の僕のレベルは五十二になっている。魔王を倒した時のドゥマーニ様が確かレベル五十を超えていたと聞いたことがあるので、僕もそろそろ当時の魔王に手が届く所ぐらいまで成長を遂げたようだ。
「そこまで無理をしなくても大丈夫そうだから、多分、平気だと思うよ。ちょっと、せん滅してくるね」
「お、おいっ!」
そう言って、レックスはゴブリンが大量にいる方角へと一人走って行ってしまった。
「せ、せん滅って、一体ゴブリン何匹いると思ってるんだよ……」
「主様にとっては、ちょっとした用事みたいなものにゃね」
「最低でも二万、いや、三万はいるのではないか? それに、ゴブリン王と遭遇してしまったらどうするのだ」
「レックスは、ゴブリン王も含めてせん滅に行ったんだよ。戻ってくるまで、俺たちは静かに待っていればいい」
「アイミーもレムリアも落ち着いて話しているようだが、本当にゴブリン王がいるのであれば、我々も動いた方がよいのではないか?」
「ゴブリン王ごとき、今の主様の敵ではないにゃ。それよりも、アイミーはお腹が減ったからお昼にしたいのにゃ」
「恐ろしくマイペースだな……」
「シュナイダー、俺のサンドイッチも取ってくれ」
「レムリア、お主もか!?」
「よく考えてみろ。この一年エルフの里に、ほとんど偵察すら寄越さなかった魔王軍だぞ。恐るるに足らずだ。アイミー、冷たいお茶を頼む」
※※※
森の中心へと向かう程にゴブリンの数は増え、密集度も上がってくる。ここまでは、剣でひたすらに薙ぎ払ってきたのだけど、そろそろ効率を考えてドレインに移行するべきだろう。
少しだけ開けたスペースに降り立つと、ゴブリンを挑発するように呼び寄せる。
「どうした、そんなものか? 全員で掛かって来なよ」
言葉が通じるかは、ちょっとよくわからないけど、煽っているのは十分に伝わったらしい。ゴブリン達は一斉にギャーギャーと騒ぎ始めると、目の色を変えてなだれ込むように飛び掛ってきた。
これぐらいの数なら、三十パーセント程度の力で十分だろう。
「ドレイン!」
僕を中心に全方向へとドレインの範囲を広げていく。それはまるで、生き物のように、近づいてくるゴブリンを順に貫いていく。
百、二百、三百、五百、千……。キリがないので途中から数えるのを諦めた。一番外側まで伸びたドレインがこれ以上生物がいないという情報を僕に知らせてくれる。
「これで、全部だね。ただ、一番大きいはずのゴブリンキングを捕らえていないんだよね」
周囲を見渡しても、ゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジの残骸以外には何もない。逃げられたのだろうか。
そう思った時に上空から大きな魔力を感知した。
「貴様かぁぁぁぁぁぁぁっ! お、俺の食料を奪った奴はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
いやいや、ゴブリンって食料だったのかよ……。共食い? そういえば、悪食のスキル持ちとか言ってたっけ……。
ドシーンっと地面が陥没するぐらい盛大に地響きを立てながら降り立つと、怒りにまかせて手にした棍棒を振りまわしている。どうやら、僕のドレインの危険性に気づいて上空へと避難していたようだ。
「許さんぞ! 絶対に許さんぞ!」
ゴブリンキングの大きさは人が五人分の大きさといったところか。悪食のスキルは既に発動しているとの話だったから、元々のサイズはもう少し小さいのかも知れないけど。
そんなことを考えていたら、さっき撃ったドレインが一塊となって僕の胸に飛び込んでくる。
ドクンっ
ちょっとエネルギーが多過ぎるね……。しかも、レベルが上がったらしい。一つ、いや二つは上がってるか。直ぐに身体強化を最大限に掛け直し、過剰なエネルギーをすぐに新しい魔法で消費する。
「怒槌よ集え、カオスドライブ!」
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