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三十五話目 魔王軍四番目の男

ここイシストピアは王都にして、イシス教の総本山があることから聖地とも呼ばれている場所だ。まわりを山々に囲まれ、正門から南に向かっては広大な麦畑が広がる。麦畑を眺めるようにして流れるプリテリア川が豊富な水と養分を運んでくる。


「今年は豊作になりそうですね」


「麦の相場が安くなりますかな」


王都へ入る正門への馬車渋滞を待っていると、隣の青年が話掛けてきた。彼はイーリアの街から乗ってきた商人だ。何でも、イーリアの街で新しい勇者様の噂を聞いたのだという。


「それにしても、イーリアの勇者候補様は少女だとかいいましたか? 大丈夫なのかね」


「それが、三代目のドゥマーニ様からお墨付きをもらったらしいよ。魔法も剣も顔もいいとの噂だよ」


「へぇー、見たのかい?」


「いや、噂を聞いただけだ」


「なんでい……。最近は、王都周辺の街で勇者候補の噂が絶えませんからな。私のいたリグリアの街でも、身体の大きい少年が籠り修行をしていて、きっと彼が勇者様なのだろうともっぱらの噂でしたよ」


「その噂も知ってますよ。何でも不慮の事故で亡くなったらしいじゃないですか。事故で亡くなるあたり、偽者でしょうけどね」


「はははっ、違いないですな。あちこちで勇者候補がいて、どれが本物なのやら……」


「まだレベルの低い勇者様の情報は教会も必死に隠すでしょう。近頃はモンスターの活動も活発になってきていると聞きます。商人には厳しい情勢になりそうですよ。やはり、魔王が復活したというのは本当なのかも知れませんね」


「おー、怖い怖い。ちなみに、勇者様のお披露目というのは何処で行われるんですかな?」


「そんなことも知らないんですか。毎回、お披露目はイシス教の大聖堂って決まってるんです。噂が本当なら王都滞在中に勇者様の顔を拝めるかもしれませんよ」


「おー、それは楽しみです。それにしても、この渋滞は……いつまで続くのやら……」


馬車は並び始めてから、ほとんど進んでいない。これでは、日を跨いでしまう可能性すらありえる。


「これだけ荷物検査を細かくやるってのが、何かあると思わせるのに十分でしょう。間違いなく、数日のうちに勇者様のお披露目ですな」


「なるほど、違ぇねぇ。……まだまだ時間が掛かりそうだし、もう一眠りさせてもらいますわ」


「あー、それがいいですね。門に近づいたら起こしますよ」


「あー、助かります」



※※※



手荷物検査を終えて、ようやく王都に入ったのは既に日が暮れて夜を向かえる頃だった。今日中に街の中へ入れたことは運が良かった。かなりの時間を人の姿に変えていたため、魔力的にも限界が近づいていたのだ。


普通の人族の姿をしているが、こう見えて魔王軍四番目の四天王となった死霊レイスのプリサイファというのが私の名前だ。


「さて、夜は俺様の時間だ。いつ勇者が発表されるかもわからねぇ。面倒臭いが仕事をするか」


宿屋を十日分の前払いで支払うと、適当に荷物をほおり投げて出掛ける。飯は食わないので、素泊まりだ。宿屋の人間は、俺が外に飯でも食いに行ったのだと思っているだろう。実際には裏路地を抜けて、川からの水を引き込んでいる地下水門が目的地だ。



「よう、お前ら、ちゃんと揃ってるか?」


地下水門には普段から人目がつかない場所なので、潜り込む場所としては最適といえる。街の外にも出やすいので、誰かが来てもそうそう見つかることも無い。そもそもコイツらはゴーストだからな。


ふよふよと浮かび上がりながら薄く光る透明体が動いている。


「スケルトン部隊も到着しているのか?」


水路の底に隠れていたスケルトン達が手や頭を出しているのが見える。どうやらうちの軍団はみんな出来る子のようだ。最終的にゴブリン達に美味しいところを持ってかれてしまう作戦なので、そこまでやる気がある訳でもない。適当に暴れて手引きしたら、すぐに退却するつもりだ。ただでさえ雑に扱われているのに、積極的に頑張ろうなんて気持ちはないのだ。


「リュカス様は別だが、たまたま俺が四番目だってだけで、能力や力でゴブリンやオークに負けているものはないっつーの! ……あー、すまんすまん、独り言だ、お前らは気にするな」


四番目なんだからと雑用を押し付けられること数多。我が軍で単独行動をさせてもらいたいところだが、敬愛するリュカス様の作戦ともあれば致し方あるまい。


「ゴーストとスケルトン一組で行動するように。それから、イシス教の大聖堂には近づくなよ。あそこには、俺が行くことにする。それでは、今はまだ身を潜めておけ。いったん解散する」


スケルトンはまた水底に潜るように隠れ、ゴースト達も闇の中へと消えていった。


「スケルトン、ずっと水の中にいられるのは新しい発見だったな。まあ、生きてないから息する必要ないもんな……って、俺もか!?」


我がアンデッド軍団において、空気も食料も不要、低コストが売りだ。



勇者お披露目の頃には流石に地下水路にもチェックが入るだろう。それまでにはうまく街の中にとけ込んで準備を整えておかないとな。


あとで文句言われてもムカつくし、面倒臭いが真面目に仕事してやろう。そんなことを考えていたら、ゴブリンキングのガジュマズルの顔が浮かんでしまった。


あー、一気に気分が悪くなったわ。あいつ、失敗すればいいのに。

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エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
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