三十二話目 剣の修行
翌日から、エルフの里でシュナちゃんから剣の特訓を追加してもらうことになった。アイミーがいったん獣人の国に戻っているので、午前中は剣の特訓、午後からは魔法の特訓というスケジュールになっている。ちなみに、アイミーが戻って来たら早朝、午前中、午後の割り振りになるらしい。
頑張って強くなろう。
「私も料理は得意な方だからな、レックス殿のお手伝いをさせてもらおう。食材についても、里で用意するから特訓に専念してくれ。本当は料理もこちらに任せてもらいたいと思っていたのだが、レムリアが味付けが気にくわぬらしいのでな」
「お、俺は、レックスの味付けの方がいい。エルフの味付けは薄くて食べた気がしないからな」
「だそうだ」
レムちゃんは味の濃い煮込み料理とかが好物だからね。調味料もニンニク以外なら何でも大好物と言っていい。それに比べてエルフの料理は素材の味を生かした調理が多く、調味料も最低限しか使われていない。節約の意味もあるのかもしれないけど、レムちゃんには物足りないようだ。
「いえ、料理は気分転換にもなりますし、みんなが美味しそうに食べてくれるから僕も作りがいがあるんです」
「そうか、やはりレックス殿は普通の魔王とは違うのだな。配下の者のために自ら料理を振る舞う魔王など聞いたこともない」
「僕も特訓をただで受けさせてもらってるわけだから、料理程度で交換条件になるならありがたいというか……」
「まぁ、そういうところだ。安心しただろシュナイダー」
「そうだな。これで、我らエルフの民もレックス殿に惜しみない協力を約束できる。レックス殿が強くなることはエルフの里の平和にも繋がるのだからな。早速だが、例の剣を持ってまいれ」
「ははっ」
シュナちゃんが指示を送ると、エルフの青年が一振りの長剣を持ってきた。
「この剣は、エルフの里に伝えられているもう一つの剣。世界樹より生まれたとされる破滅の剣レーヴァテイン。世界が混乱に包まれた時、その破を打ち払い滅するとされる神剣なのだ。魔剣と称されるファムファタルとは対をなす宝具なのだよ」
「こんな凄いものを……」
「レックス殿がエルフの民の為に剣を振るい続けるかぎり、エルフの民はこの神剣レーヴァテインを授けよう」
「神剣レーヴァテイン……」
「なあ、レックスの職業魔王なんだけど、神剣使えるのか?」
手渡された剣はずっしりとした重量感とともに、スーッと魔力が吸い付くような手に馴染む感覚があった。鞘から抜き軽く縦に一振りしてみると思っていた以上に軽く、しかしながら凶暴なほどの禍々しさを感じさせる。
「振れるか……。レックス殿、その剣を自分のものとして扱えることが出来るようになれば、この世に斬れぬものはないであろう」
「こんな凄いものをいいのですか?」
「実は、その剣を扱える者は今のエルフの里にはおらぬのだよ。ステータスのアップした私ですら鞘から抜くまでが精一杯なのだ。レックス殿が扱えるのであれば有効活用してもらった方が良いであろう」
周りで見ていたエルフの人達も、大きな歓声を上げている。この剣を扱えることができるということは、神剣に選ばれた者であるとの証明に他ならない。族長であるシュナイダーとの勝負に勝利し、エルフの民に伝わる宝具までも扱えるとなれば尊敬、いや、それ以上に畏れすら抱かせる。いつしか、その歓声が止むと、全てエルフの民が地面に片膝をついて頭を下げていた。
「えーっと、これはどういうことなのでしょう?」
「レックス殿を王として認めているのだよ。これは私の命令でも何でもない。エルフの民が心から其方を王として認めたのだ」
「獣人の国に続いて、正式にエルフの里も傘下に治めたな。もう、あれじゃねぇか、これ、今の時点で一番大きな勢力になってる気がするぞ」
「確かに、魔王は戦力を削がれており、人族は勇者が引退し、新しい勇者が誕生したばかりだからな。それで、どうするレックス殿?」
「い、いや、勢力ではそうかもしれないけど、僕自身はまだまだ弱いんだ。今はひたすら特訓をしてとにかく鍛えるよ。それから、アイミーが戻って来たらエルフの民と獣人の国とで連携を組んでもらいたい」
人族、魔王軍とは異なる第三勢力として影響力を持つには二つの種族の協力が必要になる。何も戦うことだけが影響力というわけではない。情報収集、後方支援、政治力など使える部分は活用させてもらいたい。それが、魔王討伐に繋がるのであれば二つの種族も力を貸してくれることだろう。
「レックス殿は面白いことを考えるのだな。それならば場合によっては、エルフの民が外へ出ることも許可しよう」
「うん、ありがとうシュナちゃん」
「それでは、剣の修行をはじめるとしようか。しばらく慣れるまでは木剣にて撃ち合いをしよう」
その後、木剣を使った剣の特訓をお昼まで行っていたんだけど、剣の動きというのは難しいもので初心者丸出しの僕は、一回たりともシュナちゃんに勝てることはなかった。おそらく身体強化でゴリ押しすれば、きっと勝てるとは思う。でも、それじゃダメなんだよね。剣の型、流れや間合いを読む力、そして力をいなして防御から攻撃に転じる技と技術。これも基礎となる動きを身体に叩きこまなければ上達はないのだろう。
「もう少し慣れてきたら、森にいるワイルドキラーキングベアに戦いを挑みに行くぞ」
この森にもいるのか、ワイルドキラーキングベア。もはや中級者殺しとかのネーミングに変更した方がいいんじゃないかな。僕は息を切らして転がされ、上空を見上げながらそんなことを考えていた。




