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三十話目 魔剣ファムファタル

「レックス殿、準備はよいか?」


「は、はい。大丈夫です」


手合わせとして、用意された場所は里の中央にある広場で、吊り橋からは多くのエルフ達が観戦している。こういう娯楽的な楽しみは里から出ることのないエルフ達にとってもささやかな楽しみなのかもしれない。


「シュナイダーさまー、がんばれー!!」


若いエルフの女の子達が、恥ずかしそうにしながらも声援を送っている。シュナちゃんは、軽く手を上げてそれに応えると僕をじっくりと見据えた。どう見ても魔剣持ってるんだけど……。いや、まあ、アイミーとレムちゃんの立てた作戦が上手くはまれば勝てそうなんだけどね。


「じゃあ、アイミーが立ち合いの審判をするにゃ。戦闘不能になったり、どちらかが参ったと言った時点で終了にゃ」


「うむ」


「では、開始にゃ!」


「最初は様子を見るとしよう。レックス殿の好きなように攻めてくるといい」


 有難いことに先手を譲られたらしい……。とは言っても、僕の攻撃手段といえば主に魔法になるわけで、ドレインはいきなり使うにしても躊躇しちゃうし、イービルミストに至っては毒の霧なわけで手合わせでいきなり放っていい魔法とは到底思えない。


そうなると、僕には自然と身体強化魔法による肉弾戦しか選択肢が残されていない。


とりあえず、やれるだけやってみよう。


「ドレイン!」

「あ、あぅぅぅ!」


 僕がドレインを撃った先はレムちゃんのお尻だ。いつもみたいに樹木に撃とうと思っていたんだけど、場所が場所だけにエルフの偉い人達から怒られかねないということで、レムちゃんの「しょうがない、お、俺に撃てばいいだろ」という言葉に甘えさせてもらった。


「ど、どこにドレインを撃っているのだ!?」


 全くもっておっしゃる通りだ。ウサ吉を連れていたら、こんな事せずに済んだのにな……。おかげで、エルフの里からは変態を見るような視線が僕に突き刺さっている。無心になれ、心を無にするのだ。


「魔力変換からの身体強化魔法」


「なっ!? どういうことなのだ! 魔王が、身体強化魔法を使うだと!?」


 ふふっ、驚いているなシュナちゃん。ステータスの上がったアイミーとも、そこそこ渡り合えるようになってきた身体強化魔法を受けてみるがいい!


 ステップを刻みながら、一瞬でスピードを上げ背後をとる。シュナちゃんは驚きながらも、何とか僕の姿を追ってくる。さすがに、スピードだけで翻弄できるほど甘くはないようだ。ここからは、更に合わせ技と行こう。左足にパワー、右手にパワーを込める。


「く、来るか!」


 細かなステップでスピードに乗った体を、沈み込めるようにして左足を力いっぱい踏み込む。その勢いのまま、右腕に溜めたパワーをそのままシュナちゃん目掛けて撃ち込む。アイミー曰く、「獣王激烈掌」という技らしい。


アイミーが「ここで技名を叫ぶにゃ!」とか言っているけど、もちろん恥ずかしいから叫ばない。


「くっ! アイミーの技まで使えるのか」


 一応、シュナちゃんを吹っ飛ばすぐらいの気持ちで撃ち込んでみたんだけど、魔剣の鞘を盾代わりに使われて、力を受け流されつつあっさりと防がれてしまう。素晴らしい剣技だ。さすがは元四天王というべきだろう。


「面白い。今のレベルにおいて、おそらくあの魔王より総合的な強さを持っているようだ。私も少しは本気を出して大丈夫そうだな」


 そう言って、魔剣をあっさりと抜いてしまうシュナちゃん。こ、殺す気じゃないよね……。


魔剣ファムファタルは紫の魔気に覆われていて、一段と鋭さを増しているように感じられる。


「レックス殿、このファムファタルは別名、千剣と呼ばれる魔剣なのだ。このように自由自在に数を増やせるし、目標に突き刺さることで、その者の力を奪う」


 ドレインに似ている……のか!? シュナちゃんの背後に浮かぶようにして数十ものレイピアの切っ先が全て僕に向かっている。


「もちろん、その力は私の力になるわけではなく、ファムファタルが魔剣として活動するために必要なだけなのだがな。ということで、レックス殿。このファムファタルのために少し養分を頂きたい」


「ひっ!?」


 手合わせすることになって、且つ、魔剣を抜いている理由が少しわかった気がした。戦闘好きなのではなく、魔剣を維持するために戦い続けなきゃならないのね。


つまり、僕のお尻も危険にさらされているということなのだろう。今なら、レムちゃんの気持ちが少しだけわかる気がする。


「行けっ! ファムファタル」


「容赦なしっ!?」


 防御魔法など持っていない僕はひたすら避け続けるしかない。もうそろそろ身体強化魔法が解けてしまう僕は、再びレムちゃんにドレインを撃って効果を延長させる。ご、ゴメンね。


「あ、あぅっ!」


 ファムファタルは、一度回避すると追ってくることはなく、そのまま直線的に地面に突き刺ささり消滅した。追跡されて、しかも無限に増えるとかだったら完全に詰んでいたと思うけど、これならばまだ何とかかわせるか。


「油断はせぬことだ。レックス殿が気づいている通り、ファムファタルは直線的な動きしかできないが、出現場所は自由がきくのだ」


 僕の背後に出現していたらしいレイピアが一振り、足元を掠めるようにして地面に突き刺さった。


「あ、あれっ、足に力が……」


 ほんの少し掠っただけにも関わらず、思わず膝をついてしまうぐらいに力を持っていかれた。これが魔剣の力なのか……。

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