二十二話目 竜王リュカス
特訓も順調に進んでいて、僕の身体強化魔法もそれなりに動けるようになってきた。アイミーとの追いかけっこも十回に一回は勝てるようになってきた。
まだまだ、先を読む動きに慣れていないので、たまに盛大に木にぶつかったり、はたまた、崖から落ちそうになったりと何度か死にそうになりながらも日々強くなっている自分を感じ始めている。
何だかんだとアイミーやレムちゃんが助けてくれているからこそ、純粋に強さを追い求めることが出来ている。二人には感謝しかない。
ちなみに、ウサギさんは門番としてしっかり働いてくれている。
門番になった翌日に奥さんが現れて、いきなりいなくなったことをとても怒られたらしく、めっちゃ揉めていたので奥さんもドレインの糸で繋ぎパワーアップさせて一緒に働いてもらうことになった。ウサギさん達からはとても感謝され、一生ついて行きますと言われてしまった。
今では、庭掃除から洗濯まで引き受けてもらえており、レムちゃんもアイミーも喜んでいるので良しとしようと思う。ちなみに、雄ウサギがウサ吉、雌ウサギがラビ子と呼ぶことになった。
「よしっ、レベルアップだ!」
「これで主様のレベルは二十にゃ。そろそろ、森の主と戦ってもいいかもしれないにゃ」
「えっ、森の主って、そんなのいたの!?」
「森の奥にいるにゃ。ワイルドキングキラーベアにゃ」
キラーにキングをつけちゃダメだと思う。そんな熊とは一生出会いたくないね。
「今の主様ならギリギリ倒せると思うにゃ。どうしますかにゃ?」
「い、いや、今日のところは遠慮しておこうかな……」
出来ればずっとご遠慮願いたいところだけど、これが恐らく特訓の締めなのだろう。ワイルドキングキラーベアがどれぐらいの強さなのかわからないけど、この森で主をしているぐらいなのだから相当な強さだということは理解できる。よし、明日から頑張ろう。
「じゃあ、今日はここらへんでレムちゃんとバトンタッチにゃ。ちょっと早いけど戻るとするにゃ」
「そうだね、お昼はボア肉のハンバーグにするから楽しみにしていてね」
「おー、主様のハンバーグにゃ! これは食後にいいお昼寝タイムになりそうにゃ!」
アイミーもレムちゃんもよく寝る。二人とも小さい女の子なので成長期のように思えなくもないが、実際の年齢は僕よりも上であることは間違いない。
レムちゃんは早寝で遅く起きる。というか、起こされるまでずっと寝てる勢いだ。アイミーは寝るのは遅いっぽいんだけど、特訓後は夕飯までぐっすりと惰眠をむさぼっている。そんなわけで、掃除や洗濯をしてくれるウサ吉とラビ子が来てくれたことは日々の暮らしを送る上で本当に助かっている。
「こ、これは……!?」
ウサギさん達の反応が一気に弱まった気配を感じる。
「どうしたにゃ、主様?」
「ウサギさん達の反応が急に弱くなったみたいなんだ。アイミー、急ごう!」
急いで戻ると、レムちゃんのお城の入口にいるはずの門番のウサ吉、ラビ子の姿が見えず、門は盛大に壊されていた。
「あ、主様、気をつけるにゃ! この気配は魔王軍四天王、竜王リュカスにゃ」
「竜王リュカス……」
「レムちゃんが危ないにゃ! 主様、急ぐにゃ」
「どういうこと!?」
「リュカスは私たちを迎えに来たにゃ。つまり、魔王が復活したということ。かつての四天王を集めようとしているにゃ」
よかった……。どこかで僕が魔王だったらどうしようかという気持ちがなかったわけではない。職業は魔王だけど、僕は普通の農家なんだ。魔王が存在して喜ぶとかどうかと思うんだけど、これで僕の目標は、はっきりしてきた。
崩れた門まで辿り着くとそこには、瓦礫に埋もれるようにして倒れているラビ子が。
「ラビ子! 大丈夫か? ……う、うん、わかった。アイミー、レムちゃんとウサ吉が城の中で戦っている」
「ラビ子の命は無駄にしないにゃ」
ラビ子、生きてるからね。まだ死んでないからね! 僕は、ラビ子を引きずり出して、少しエネルギーを送るとアイミーと一緒に城の中へと走っていった。ウサ吉の力が急激に弱まっているのを感じたのだ。
扉を開くと、レムちゃんがウサ吉をかばうようにして相対していた。
「レムちゃん! 大丈夫にゃ!?」
あれが、竜王リュカスなのか。見た目は人のように見えないこともないが、体は二メートル近くあり、その体表にはびっしりと鱗のようなもので覆われている。
「レックス、ウサ吉を頼む。こいつは、俺とアイミーで追い返す」
「わ、わかった」
「レムちゃん! ラビ子とウサ吉の仇をとろう」
なお、ウサ吉も死んではいない……。
「おお、獣王もこちらにおったのか。これは都合が良い。どうだ、また魔王様の元で共に暴れようではないか」
「ごめん被るにゃ。いくら力がアップしようと、無理やり暴れさせられるのは性に合わないにゃ」
「そ、そうだ、お前の指示で俺がどれだけ死にそうになったかわかっているのか!」
「やはり、二人とも魔王様の元へは戻ってくれぬのか……。致し方ない、ならば力づくで連れ帰るまで。魔王城へ戻れば、その気持ちも変わるやもしれぬ。ところで、その少年は?」
「主様は関係ないにゃ。私たちは戻らないし、四天王にもならない。用が済んだなら、さっさと帰ってもらうにゃ」
「ほう、主様か……。その少年からは何か不思議な力を感じるな。よしっ、一緒に連れて帰るか」
「そ、そんなこと、させないにゃ!」
アイミーが、突進すると同時に、レムちゃんが一気に魔力を高めると、とんでもない規模の魔法が放たれた。
「メガフレア!」
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