二十一話目 ウサギの運命
「なあ、糸繋げたのはあのウサギだよな……」
「そうだね、間違いなくあのウサギだね……」
昨日糸を繋いだウサギは間違いなくあのウサギで、糸はちゃんと繋がったまま。問題があるとしたら、少し元気がないというか雰囲気がガラリと変わってしまってたことだろう。
「あいつ、ちょっと痩せたか?」
昨日見た時は、ふっくらまんまるフワフワだったウサギが一日でげっそりとやせ細っていて、それはあきらかに僕のドレインが理由としか考えられなかった。
「ダ、ダイエットでも始めたのかな?」
「野生のウサギがダイエットするかよ。そもそも、一日で一気に痩せすぎだろうが。お、お前、吸ったのか?」
僕にそのつもりがなかったとはいえ、そうとしか考えられない。ひょっとしたら午前中の身体強化魔法の特訓の時にウサギさんの力を知らないうちに借りていたのかもしれない。
「レックスさぁ、あの糸で繋ぎまくれば、お前エネルギー吸い取り放題なんじゃねぇか」
「そんなこと……あるのかな?」
「だって、午前中身体強化魔法の特訓をみっちりやってるのに魔力満タンじゃねぇかよ。いくら何でも普通じゃねぇからな、それ」
「や、やっぱり?」
「アイミーだって特訓や治癒につき合って魔力が半減してたんだぞ。まぁ、あいつは獣人族だから元々の魔力量が少ないんだけどよ」
何だかとってもウサギさんに悪い気がしたので、魔力を逆に送ってあげることにした。ごめんなさい、ウサギさん、これで少しでも元気になってくれればいいんだけど。
「え、えいっ」
「お、お前、今何したんだよ。絶対何かやっただろ!?」
レムちゃんが、ビビりながら自分のお尻をさすっている。レムちゃんには何もしていないので安心してもらいたい。
「ち、違うって、ウサギさんに元気になってもらいたくって」
「げ、元気になりすぎだろうが……」
糸の先には、明らかに凶暴性の増したムキムキウサギが腕を組んで立っていた。体は一回りどころかワイルドボアと同じぐらいのサイズまでアップ。前歯も鋭く突き出し、愛くるしかった目は真紅に染まっている。
「あ、あいつ、大丈夫なのか?」
ここからは少し離れた場所とはいえ、もしも見つかったら攻撃されてしまうのだろうか。ほんの少しだけ不安にさせられる。すると、僕たちの後ろからガサゴソと何かがやってくる音が聞こえてきた。
「レムちゃん!?」
「し、しまった。ウサギに気をとられていて気配を感じるのが遅れたっ!」
草むらを掻き分けて登場したのは、これまた主かと思われる大きさのワイルドボアだった。大きくなったウサギさんの更に倍のサイズである。この森は、やはり普通の森とは一味違うらしい。
僕とレムちゃんを見つけた巨大なワイルドボアは、嬉しそうに牙を吐き上げながらレムちゃんのお尻に向かって突進を開始した。
「ひっ、な、なんで俺の方に来るんだよ!?」
巨大なワイルドボアはそのサイズでは考えられないような猛スピードで突進してくる。突然現れた後方からの攻撃に僕たちは攻撃態勢をとれていない。に、逃げるか、それとも迎え撃つか……。
「うぉっ! 何か来たぞ」
僕が迷っている間に、ワイルドボアの前に立ちふさがったのはなんとウサギさんだった。いつの間にここまで来たのか、僕たちを後ろにするようにして、背中でここは俺に任せろと言わんばかりの安心感。何このウサギさんカッコいい。
ウサギさんは発達した上腕を大きく広げるようにしてワイルドボアを迎え撃つようだ。そして、突進してくるボアを真っ向から受け止め、その牙を掴むとニヤリと笑って見せる。こ、このウサギさん、間違いなく戦闘民族だ……。
ウサギさんは牙ごと巨体のワイルドボアを持ち上げると、そのまま脳天から突き落とした。おそらく失神しているワイルドボアに止めのエルボーをお見舞いして、勝負あり。ワイルドボアは完全に沈黙した。
ゆっくりと立ち上がったウサギさんは、後ろ姿のまま僕に向かって拳を突き上げてみせた。きっと言葉に表すならば「魔王様、やってやりましたぜ」的なことと思われる。というか、糸を通じて入ってくる情報から、実際にそう感じている。
「えっと、ウサギさんありがとう。助かったよ。お礼に、僕は君のことを普通の姿に戻して解放しようと思うんだけど……えっ、嫌なの? このままでいさせてほしい? 何でもするから」
「お、おいっ、どういうことだよ。お前、ウサギと会話できるのかよ」
「えっと、それがね、このウサギさん今の姿がとても気に入っているみたいで、このまま僕と一緒にいたいって言ってるんだけど」
「別にいいんじゃねぇの。でも食料は自分で確保させろよ。ほら、城回りの草刈りとか、あと門番代わりになるんじゃないか」
「そ、そんな扱いでいいのかな……えっ、それでいいって? 自分にとって草は食料だから、逆にありがたい?」
「よしっ、決まりだな。しっかり精進するといい」
番犬ならぬ、番ウサギが新しく味方になってくれた。
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