十四話目 はじめての魔法
「よし、ちゃんとレベルアップしたようだな」
「えぇっ、レムちゃんそんなこともわかるの?」
「レックスの魔力が増えたのを感じた。おそらく、魔法も覚えているはずだ。魔王が最初に覚える暗黒魔法ドレインをな」
暗黒魔法、ドレイン。名前だけなら僕でも聞いたことがある魔法だ。相手の体力を奪い取り、自らの力にすることが出来るとされている。そして、レムちゃんの言う通り、僕はドレインを覚えていた。
「本当に僕は暗黒魔法を使えるんだね……」
「魔王の職業を引き継いでいるんだ、当たり前だろう」
「ねぇ、僕は魔王なのかな?」
「魔王だといえば魔王だが、俺の知っている魔王とレックスはかなり違う。これから先、レックスの行動がそうじゃないと証明することになるんじゃないのか」
レムちゃんの言葉が僕に勇気をくれる。こうなってしまった以上は、僕に出来ることをやるまでだ。
「うん、今はとにかく強くなるように頑張るよ。難しいことは後で考える」
「そうだな。今はそれぐらいの気構えでいいんじゃないか。……どうせ、近いうちに巻き込まれるんだ」
「ん、何か言った?」
「い、いや、何でもない。それより、暗黒魔法の説明をするぞ。暗黒魔法の基本は敵の力を奪うことにある」
「……敵の力を奪う」
「魔王にとって暗黒魔法は最大の攻撃手段であり防御手段にもなりうる。簡単に言ってしまえば、嫌らしい魔法だ」
どうやら、暗黒魔法というのは攻撃性も高く、また敵の力を奪うことに特化した魔法とのことらしい。大抵の場合において、付属効果があるらしく、その効果は絶大。今後を魔法覚えていくのがとても楽しみだ。
「では、早速ではあるが、ドレインの魔法の使い方を教えよう」
「よ、よろしくお願いします」
「レックスは自分の中にある魔力を感じることは出来ているか?」
「うーん、何となく体の中にあるのはわかる……かな」
レベルアップしたことで、僕の体の中に新しい力が生まれた感覚がある。お腹を中心にぐるぐると渦巻いている力がきっと魔力なのだろう。
「では、魔力をゆっくり両手に集めるように集中しろ。両手は前に突き出すようにするんだ。お、おいっ、こっちを向くな! ま、まだ撃つなよ」
向かい合っていたからか、ついレムちゃんに両手を突き出してしまった。
「う、うん。魔力を両手に集める……。こ、こうかな?」
「よ、よしっ。そのままの状態をキープしたまま、次に魔法を発動するんだ」
「えっ、どうやって発動するの?」
「なーに、簡単なことだ。魔法名を叫べ」
僕は意を決して目の前にある手頃な木に向かって魔法を発動した。
「ドレイン!」
僕の両手に集まっていた魔力の塊は、魔法名を叫ぶと同時に放出されると、黒い霧のようなエネルギー体となって目標としていた木に向かって飛んでいった。
見事に命中した魔法は、まるで木の養分を吸ってしまったかのように幹を抉りとってみせた。
「こ、これが魔法……」
「まだだ。ドレインの真骨頂は、対象とした生物の力を奪い、自らの力に取り込むことにある!」
レムちゃんの言うように、木にぶつかった魔法が吸い取ったエネルギー体が一塊となって僕の体に戻ってくる。それは、さっき魔法を放って抜けてしまった魔力がまるまる戻ってきたように感じられた。
「い、今のは?」
「体力が減っていなかったから、魔力が回復されたのだろう。通常は、優先順位として体力が回復され、次に魔力という順番のはずだ。……そ、それにしても魔力ほとんど回復してないか?」
レムちゃん曰く、普通は出したエネルギーの半分も戻ってこないらしい。不思議なもので、戻ってきたエネルギーで僕の魔力は満タンになっている。魔王、凄いな……。魔力切れることとか、そうそう無さそうな気がするんだけど。
い、いや、これは初級魔法だから魔力の減りが少なくて、そう感じるのかもしれない。これから更にレベルの高い魔法を覚えたら、それなりに魔力消費も高くなっていくのだろう。
「レムちゃん、何となく魔法の使い方は理解できたから、早速、泉の方へ行こうよ。多分、ドレインで魔力減ることが無さそうだから、モンスターが現れたら僕が攻撃してもいいかな?」
「……お、おう」
「あっ、でも僕が対処出来ない強いモンスターとか、出てくる数が多かったりした時はヘルプ頼むね」
「あ、あぁ、任せておけ……」
ドレインは初級とは思えないほどに、とても優秀な魔法のようで、モンスターの足を狙えば機動力を奪い、頭や心臓などの急所に命中すれば一撃で倒すことも出来た。つまり、何が言いたいかと言うと、泉に到着する頃には僕は既にレベル五になっていた。
「あまり強い敵が現れなくてよかったよ」
「そ、そうか……。ワイルドボアがグループで現れても瞬殺しそうだがな」
「いや、いや、さすがにそれは無理でしょ。一体で精一杯だって。レムちゃんもお世辞が上手だね」
「いや、何というか……。ま、まぁ、やってみればわかる」
そうして、油断した僕の前に現れたのはボアでもディアでもなく、森のキングと呼ばれるワイルドベアだった。
ガサゴソと揺れる草の陰をわけて出てきた七メーター級の巨体は、わかりやすく手を広げて僕たちを威嚇してくる。
レムちゃんを見ると、至って冷静に顎で倒せと指示されてしまった……。マジですか!?
ワイルドベア、デカすぎるんですけど……。