十一話目 二人目の四天王
「ま、待ってよ、アイミー!」
「ご、ごめんにゃ。久し振りに四天王の力を取り戻したから、つい飛ばしすぎてしまうにゃ」
会った時の印象からは、少しイメージが変わった気がする。活発さが増したというか、有り余った力を持て余すかのように動き回っている。何というか、無駄な動きが多いのだけど、全身全霊、そして身体いっぱい喜びに満ち溢れている。
ところで、僕たちは魔法が得意だというアイミーの古くからのお友達に会うために、獣人の国から少し離れた深い森の中へと進んでいる。草は鬱蒼と生い茂り、太い幹の木々がこれでもかと邪魔をするその道のりはかなり険しい。アイミーは、まったく気にしないかのようにスイスイと進んでいくのだけど、僕は追いかけるのだけで精一杯だ。
「アイミー、こんな所に本当に人が住んでいるのかな?」
「久し振りだけど、道に間違いはないにゃ。レムちゃんは、こういう陰気な空気が大好物な女の子なのにゃ!」
陰気な空気が大好物って……。確かに、深い森はジメジメとしていて、湿度は高そうだけど。
「そのレムちゃんって子はどんな子なのか聞いてもいい?」
「ひきこもり気味な子だから、アイミーがたまに外に連れて行ってあげてるにゃ。照れ屋さんだけど、とっても可愛らしい子なのにゃ」
会うのは久し振りということで、多分こっちの方であってると思うんだよにゃーとか言いながらズンズンと進んでいく。それにしても、レムちゃんというのも不思議な子と思われる。この辺りは、周辺に誰も住んでいないので生活をするにしても不便だと思うんだ。というか、全く手入れがされていない深い森を見ていると、どうやって生きているのか不思議でならない。
「あ、あのさ、ちゃんと生きてるよね? こんな森の中で生きていけるものなの……」
「レムちゃんは多分寝てるだけだから大丈夫にゃ。きっと外には一歩も出てないと思うにゃ」
「えーっと、冬眠とかかな?」
「今時、熊人族でも冬眠はしないにゃ。レムちゃんはヴァンパイアだから、食事をとらなくても少ない魔力消費で生存できるのにゃ」
どうやら僕の魔法の先生は、ヴァンパイアの女の子らしいということが判明した。
「えーっと、魔法を教える代わりに血を吸われたりしないかな?」
「血ぐらい吸わせてあげればいいのにゃ」
「眷族にされたりしないの?」
「うーん。私も何回か吸わせてあげたことがあるけど、今のところは大丈夫みたいにゃ」
大丈夫みたいにゃじゃないよ。ヴァンパイアといえば、吸血鬼と呼ばれる闇の種族だ。膨大な魔力を有し、様々な魔法を操ると聞いたことがある。そして、ヴァンパイアの能力の一つに洗脳に近い眷族化のスキルがあると噂されているのだ。
「アイミーの友達というなら、少しは安心だけど。やっぱり、ちょっと怖いかな……」
「主様、着いたにゃ。あそこに見えるお城がレムちゃんのお家にゃ」
視線の先には、迫力のある古い城が現れていた。壁面は蔦に覆われていて窓も全て閉まっている。もちろん、門は閉ざされており、誰も寄せつけない何とも言えない雰囲気がある。
「レームちゃん! アイミーが遊びに来ーたーよー!」
一瞬、二階の部屋からガタッと音が鳴ったような気がするけど、その後は特に音もなく、シーンと静まり返っている。
「ふーん。レムちゃん、二階にいるんだね」
アイミーは、物音が聞こえた二階の窓までひとっ飛びすると、そのまま窓を突き破って部屋の中に入ってしまった。
ワイルドすぎるだろ……。
「あぅぅー、お、俺の家に勝手に入ってくるんじゃねぇーよ。な、何度も言ってるだろっ!」
しばしの格闘の音の後、静かになったと思ったら一階の玄関の入口が開いた。
「主様、どうぞお入りくださいにゃ」
いや、いや、ここはアイミーの家ではないだろう。
「何か揉めているように思えるんだけど、その、大丈夫なのかな?」
お城の中に入ると二階に上がる階段の手前で、黒い棺に乗って膝を抱えて座っている金髪の幼女がぷいっと横を向いていた。
あれがレムちゃんというわけか……。
「主様、紹介しますにゃ。こちら、元四天王のレムちゃん。レムちゃん、こちらが新しい魔王様にゃ」
魔王様という言葉にビクッと反応して僕の方を一瞬見たようだけど、すぐに目を逸らされた。というか、また四天王なの!?
「ど、道理でステータスが大幅にアップしていると思った。アイミー、お前また四天王になったのか。まったく懲りない奴め……。お、俺をまた四天王にするつもりか? わ、悪いが他を当たってくれ。俺は強さとか全然興味がない」
「主様はとても優しいお方にゃ。あのクソ野郎とは天と地ほど違うからレムちゃんも安心するといいにゃ」
「ふんっ。そ、そんなことわかったものか。も、もう、俺は騙されないんだからな!」
どうやらアイミー同様に変なトラウマが染みついてしまっているらしい。あと、何となくアイミーとレムちゃんの関係性も理解できた。
アイミーの行動力に振り回されつつ、つき合わされているのがレムちゃん。アイミーもレムちゃんが一人で居るのを気に掛けて、ちょっかい出しているようにも見える。まぁ、ちょっとやり過ぎな気もするんだけど……。
一応、ちゃんと謝っておこう。
「ごめんね、レムちゃん」
「お、おい、それ以上、お、俺に近づくんじゃねぇぞ! ピカピカ光ったら、ぶ、ぶっ殺すからな!」
やはり、アイミー同様に前の魔王様との関係性は最悪なようだ。余程、嫌な思いをさせられたのだろう。これが、ヴァンパイアロードのレムリア・ツェペシュことレムちゃんとの出会いだった。
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