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じゃあ逆に君以外がみんな死んでしまうとしたらどうするんだって話  作者: quiet
Ⅲ 現実のことは知らない 優しさがあったら人のかたちに見える
14/22

Ⅲ-1



 起きんのめんどくさいな、と思ってベッドでごろごろ転がっていたら夜が来る。


 最近はそんな生活ばかりをしていたけれど、今日は違った。起きんのめんどくさいな、と思ってベッドでごろごろ転がっていたら朝が来た。カーテンの隙間から光が漏れ始めたので、たぶんそうだと思う。とうとう昼と夜が入れ替わるときがきた。


 起きてみる。寒い。もう一度ベッドに帰りたくなる。朝も夜も、人間が行動するような季節じゃないな、と昼間ずっと寝ていたくせに思ったりする。


 カーテンを開ける。その勢いで、窓にべったり張り付いていた結露が、するすると落ち始める。


 一二月も中頃を過ぎて、まだ冬だった。枯草ばかりが目に入って、今年まだ、雪は降っていない。空だって曇っていて、太陽はぱらぱらと降る雨の向こう側から、鈍い白色を発しているだけ。それでも少しだけ眩しくて、自然、目を細めた。


 せっかく朝起きしたんだし、たまには部屋の掃除でもするかな、という気持ちがついさっきまでないこともなかったんだけど、今はフローリングを踏んだ瞬間に強張った足の指が、それを冷静に拒否している。


 さむ、と腕をさする。風呂にでも入って温まろうかな、と考える。適当な着替えを手にして、部屋から出る。一歩進むごとに、足の裏から体温が奪われていく感触がある。脱衣場についたころには、もう痛いくらいに。


「あ」


 見つからないと思っていた携帯が、昨日脱いだ服の上に忘れ去られているのを発見した。拾って、電源を点けてみる。通知が四件。パスコードを入れて開く。全部東野さんからのメッセージだったので、その場で全部開く。


『こないの?』


 文字が打たれていたのは、その一通目だけ。二通目はうさぎがはてなマークと一緒に右に首を傾げているスタンプ。三通目はうさぎがはてなマークと一緒に左に首を傾けているスタンプ。四通目はうさぎが右手に目覚まし時計を、左手に包丁を持ったスタンプ。どんな場面で使う気で買ったんだ、と思って、いやよく考えれば結構使い道ありそうだな、と思い直す。


『いかない』


 とだけ返す。のんびり風呂に入る。出る。通知が光っている。返信は明日でいいかな、と思ってそのまま忘れ去ろうとする。


 通話の画面が見えた。


 携帯が鳴っている。けれど普段から通知の音を切っているので、音自体は聞こえない。


 ただ、画面に東野さんの名前が表示されている。僕は服を着て、髪を乾かしながらそれを見続けて、コールがやんだのを見てから、携帯を手に取って、メッセージを送る。


『なに?』


 もう一度コール画面が表示される。髪を乾かすのに戻る。コール画面が消える。髪を乾かし終わる。携帯を手に取る。


『なんすか』

『電話出ろ』


 コール画面。三度目の正直、と仕方なく繋げる。


「はーい」

『……私、嫌われてる?』

「や、風呂入ってたからさ」

『え、あ。そうなんだ。ごめん、今だいじょぶ?』

「うん、今出たから」


 平気、と脱衣所を出る。ずいぶん身体は温まって、もうフローリングの冷たさは気にならなくなっていた。


「で、なんすか」

『今日も学校来ないの?』

「行きませんけど」

『来なよ』

「えー」

『えーじゃなくてさ。どうせ暇でしょ』

「行ったらもっと暇だし」

『なことないよ。やることあるし』

「何」

『カレンダーづくり』


 部屋の扉を開ける。いつもの癖でベッドに携帯を投げそうになって、すんでで抑える。手に持ったまま、脱力してベッドに倒れ込む。


「ぶっちゃけさあ」


 薄暗い天井を見上げつつ、


「あれ全然興味ないんだよね」

『………………』


 しばらく東野さんからの返答がなかった。怒って電話をぶち切られるのかと思ったのだけれど、しばらくはしばらく続いて、通話の終了はいつまで経っても訪れない。


 さすがに明け透けに言いすぎたのかな、と思って、


「こういうこと言うの、色々やってくれてた東野さんには悪い気もするけど」

『お前は悪い』


 断言されてしまった。


『今のめっちゃ傷ついた』

「はあ、すんません」

『謝りに来て』


 電話がぶち切られた。東野さんも若干ぶち切れてるような雰囲気がないでもなかった。


 携帯を置く。天井に向かって小さく口を開ける。


「あーーーーーーー」


 眠たくなるような声が出る。


「めんどくせーーーーーー」


 目を瞑る。このまま死なないかな、と思う。眠れるほどではない眠気。


 行くんだったら、このまますぐに出られる。すでにジャージになっているから。逆にすぐに出られなかったら、湯冷めした身体で、ものすごく寒い思いをしながら学校まで行くことになる。


 一〇秒待っても、眠れなかった。から、


「…………行くかあ」


 仕方なく、起き上がってみたりした。


 そういえばそろそろお葬式の日か、なんて思い出したりしながら。



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