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悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜  作者: まさかの
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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一時の休息

 城に到着すると、前のように騎士たちがわたしを出迎えるために並んでいた。

 だが前とは一つだけ違う。


「グレイルは大丈夫ですか?」


 セルランの父であり、お父さまの騎士としてこの領土を守ってきた戦士がこの場にいなかった。

 ゴーステフラートに現れた魔物と相打ちになったらしいのでかなり心配だ。

 昔から知っている優しいおじさんだったので、どこか寂しい気持ちがある。


「ええ、まだ安静は必要ですが、数日もすればまた復帰できるはずです」


 わたしはホッと胸を撫で下ろした。

 クロートの話を聞いて不安が吹き飛んだ。



「では参りましょう。レイナさまはここまでです」


 呼ばれているのはわたしだけなので、レイナの役目は完全に終わった。

 わたしも彼女に労いの言葉をかけた。


「ありがとう、レイナ。側近たちも疲れたでしょうから。しばらくは休んでください」

「かしこまりました。ですが、今日まではしっかり働きますので、終わりまでお待ちしております」


 頑固なレイナにこれ以上無理強いはしない。

 良い側近だと思う。

 しょうがないな、と思うが、彼女の優しさに感謝しておこう。

 わたしはクロートの後ろを付いていった。

 階段を昇り、奥の間に進むと玉座の間にたどり着く。

 その玉座にはシルヴィ・ジョセフィーヌ、そしてシルヴィの側近たちが待ち構えていた。

 クロートはわたしと離れて、側近たちの列へと向かった。

 わたしはお父さまの近くに近付いて、膝をつき頭を下げて恭順な姿勢を示した。



「面をあげよ」



 シルヴィの許可があったのでわたしはシルヴィを見た。

 その目は前ほど激情に駆られてはいない。

 だが体が震えそうになる威圧感を感じた。

 ここでわたしは震えてはいけない。


「シルヴィ・ジョセフィーヌ、先日は大変無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。この身は貴方さまの物であるにも関わらず、ドルヴィの言葉を優先した、弱い我が身をお許しください」



 一応わたしはドルヴィの命令で動いていたことになっているので、全ては命令したドルヴィが悪いことにしておこう。

 少しばかり周りの雰囲気も和らいだ気がする。


「うむ、たしかにわたしの命令を無視したことは許しがたい行為だが、先に上位者から命令があったのでは致し方ない。それにそなたはパラストカーティに現れた凶悪な魔物とドルヴィの騎士団長ですら倒せなかったエンペラーを討伐した。これは誠に素晴らしいことだ。そしてそなたは己の罪を認めて、幽閉されることを受け止めたことで叛意がないことも証明された」



 お父さまは立ち上がった。


「シルヴィ・ジョセフィーヌの名において命じる。今回の罪はその功績によって罪と相殺することにする。従って、今回の活躍は功績とみなされず、ついては褒賞の全てを没収とする。わたしの言葉に異論があれば申してみろ」


 お父さまがわたしの罪をお許しになった。

 それによって継承権もそのまま残ることになった。

 わたしは再度頭を下げて答えた。


「わたくしの罪を赦してくださり、恐悦至極にございます。このような温情をもらって、異論などあろうはずがありません。以後は今以上の忠誠を以てシルヴィ・ジョセフィーヌへ御恩を返していきます」

「うむ、それではこれにてマリア・ジョセフィーヌの退室を許す」



 わたしは立ち上がって玉座の間から出た。

 こうしてわたしはやっと気持ちを落ち着けるのだった。

 レイナと共に自室へと戻った。

 そして入ると同時に泣きながらレイナに抱きついた。


「恐かったぁぁあ! 」


 大人たちに囲まれて息が詰まりそうだった。

 ここで変なことを言ったらまた幽閉されるかもしれないので、心臓が高鳴って仕方なかったのだ。

 レイナはそんなわたしの気持ちを知ってか、優しく抱きしめて甘い言葉を掛けてくる。


「マリアさまは頑張られました。こんなに震えてしまっているのに何もできない自分が恨めしいです。ですが、受け止めるくらいはできますので今日だけは思う存分お泣きください」


 わたしはわんわんと泣いてやっと気持ちも鎮まった。

 目元が涙で腫れたので、レイナが回復の魔法で綺麗に治してくれた。


「落ち着かれましたか?」

「はい、醜態を晒しましたがもう大丈夫です」



 レイナはわたしの背中をずっとさすってくれる。

 なんだが嬉しい反面、恥ずかしさもあった。

 そこで部屋にノックする音が聞こえた。


「マリアさま! セルランでございます! 入室の許可を頂けますでしょうか?」



 かなり慌てた様子だった。

 わたしは入室の許可を出した。

 入ってくるセルランを見てわたしは目を疑った。

 セルランは身体中に切り傷があり、痛々しくあった。

 優雅に勝利を収める普段の彼らしくない。


「その傷はどうしたのですか!? すぐにでも治癒をーー」

「よかった……」


 セルランは頭を下げてわたしの前で跪いた。

 その顔は涙に濡れていた。



「よくぞご無事で……、マリアさまのご無事を聞いてすぐさま魔物を討伐しました。お見苦しい姿ですが、どうしてもご無事なお顔を見るまでは安心できず申し訳ございません」



 ハッと気付いた。

 彼がお父さまの要請によって出かけてすぐにわたしは遠征を決めた。

 だから彼はこの城に到着してから情報を得て、わたしの身をずっと案じていたのだ。

 申し訳ない気持ちが体を蝕む。

 この傷を見れば彼がどれだけ心を乱したかわかった。


「レイナ、癒してあげて」

「かしこまりました」


 レイナの治癒の魔法でセルランの傷はみるみるうちに塞がった。


「貴方の気持ちを考えないでごめんなさい。心配を掛けましたね」


 わたしはそっと彼の肩を触って、彼の頑張りを労った。

 こうして魔物の大発生は無事全て解決したのであった。

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