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悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜  作者: まさかの
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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パラストカーティの主人

 クロートがゆっくりこちらに降りてくる。

 彼も少しばかり疲れているようだ。

 ここまで全力で騎獣を飛ばしてきたのだろう。



「ご無事で何よりです」

「ええ、貴方が来てくれたおかげでやっと戦いが終わりました。ありがとうございます」


 わたしは頭を下げて御礼を言った。

 彼がいなければ完全に敗北していた。



「では早速ですが、シルヴィからの命令があります」



 クロートは少しばかり表情が固く、何ともいえない声でわたしに言った。



「お待ちください。マリアさまはお疲れです。これ以上の公務は体に障ります。どうか明日以降にしてください」



 レイナが察してくれたのかクロートの発言を止めた。

 だがクロートはやめることはしなかった。


「いいえ、シルヴィのお言葉は何よりも優先すべきこと。レイナさまもそのことはご存知のはずです。これ以上姫さまの罪を増やすようなこと慎んでください」



 クロートは冷たくあしらった。

 レイナは悔しそうに下唇を噛んでいた。

 だがクロートはシルヴィの文官である以上仕方がない。

 それにわたしも分かっていたことだ。

 わたしはレイナに小声で感謝を告げた。



「これより姫さまをお連れする馬車で城へ向かってもらいます。よろしいですね?」

「待ってもらおう!」



 クロートが手を差し出すのと同時に待ったの声がかかった。

 クロートがゆっくり後ろを振り向く。

 そこには満身創痍ながらも、きつい目を向けたパラストカーティの領主候補生であるメルオープがいた。

 そしていつのまにかメルオープの父であるアビ・パラストカーティもメルオープのそばにいた。


「待つとは、何を待つのですかな?」

「どうしてお疲れになっているマリアさまを連れて行く? これから我が城で盛大な会を開く予定があるのだ。主賓であらせられるマリアさまを今すぐお連れしないといけない理由は何だ?」



 いつになくメルオープの口調が厳しい。

 その目は完全にクロートを敵として見ている。


「これ、メルオープ。シルヴィの文官にそんな口を開くでない。息子の非礼をどうかお許しください」

「いいえ気になさらず」

「ありがとうございます。ただわたしも気になっております。お疲れのマリアさまを今すぐお連れしないといけない理由は何でしょうか?」



 そういえばアビにはシルヴィから命令を受けていることにしていた。



「それは簡単です。シルヴィの命を無視したからです。しばらくは離宮で反省していただく必要があります」

「何!? それはまことですか?」


 アビの顔がわたしに向いた。

 わたしはゆっくり顔を縦に振って肯定した。

 そこでアビの顔が真っ青になっており、頭を抑えていた。


「シルヴィの顔が怒っているように感じましたが、やはり気のせいではありませんでしたか」


 アビはシルヴィに逆らうことは絶対にできない。

 もし逆らえばシルヴィから領主の座を降ろされる可能性もあるからだ。


「現状をご理解頂けたようですね。では早速ーー」


 クロートが一歩進もうとすると

 メルオープのトライードがわたしとクロートの間を割った。



「これはどういうつもりですか? わたしの邪魔をするのならたとえ領主候補生といえどもタダでは済みませんよ?」



 クロートの口調は一見穏やかだが、ピリピリする空気に変わった。

 黒い眼鏡のせいで目がどのようになっているかはわからないが、おそらくかなり恐いものになっているに違いない。

 しかしメルオープは臆することをしなかった。



「それは監禁というのではありませんか?」

「言葉遊びをしたいのですか? なら合わせましょう。その通りです。シルヴィは騒ぎを起こすなと命令したのです。それを独断で動いてわたしが来なければ危ない状況でもありました。今回は簡単には許してはいけない行為なのですよ。姫さまは継承権を剥奪されるでしょう」


 驚きの事実にアビもメルオープも目を見開いていた。

 クロートがトライードを退けようとした。

 その前にメルオープが下げた。

 クロートはやっと邪魔者が消えたことでさらに一歩進めようとしたが、それより早くメルオープはわたしの前に立った。



「残念ですが、マリアさまをお渡しはできない。帰って頂こう。もしそれ以上近くのなら相手になろう」

「貴方がわたしと? 面白い冗談ですね」

「こらっ、メルオープ! 失礼であろう!」



 三者三様の動きをした。

 メルオープは挑み、クロートは笑い、アビは困惑する。



「わたしだけではない。この土地に住まう者たち全員だ」



 そこでわたしも気付いた。

 クロートも察したのか辺りを見渡した。

 パラストカーティの騎士たちが全員殺気立ちながらトライードを持っていた。


「お前たち……。しょうがない」


 アビも何かを察したのか、さっきまでメルオープを止めるつもりだったのに、メルオープの隣に立ってトライードを握った。


「全員で罪を被るつもりですか? 一体何の意味が?」

「マリアさまはこの地を救うために尽力なさった偉大なお方だ。我らは忠義に厚い槍の一族。魔法祭の時にはわたしだけがマリアさまに忠誠を誓ったが今は違う。この土地に住む者はみな忠義を尽くすべき“あるじ”を見定めた。少しでもマリアさまに危害を加えてみろ。我らが一人になろうとも地の底まで追いかけて恐怖を与えてやる」


 メルオープはトライードを三又の槍へと変えた。


「そうだ、そうだ!」

「マリアさまを守れ!」



 パラストカーティの騎士たちが抗議する。

 数人の声が次第に伝染して、数を増やしていく。

 わたしは胸が熱くなるのを感じた。

 だがこれに感激している場合ではない。


「おやめなさい!」


 わたしは全員に聞こえるよう大きな声を出した。

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