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悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜  作者: まさかの
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

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閑話ステラの恋愛話5

 どうやら下僕も本を借りてから自室で調べごとをするつもりのようだ。


「どうかしましたか?」

「はい、この前頼まれた手紙の件で眷属について調べたことと例文を載せてあります」


 紙を受け取ってそれを見てみると、わたくしでも扱えそうな言葉がたくさん載っていた。


「ありがとうございます! これはお礼です」


 わたくしは金貨の入った袋を下僕に渡した。

 おそらくは満足してくれる額だろう。

 だが下僕は慌て始めた。


「こ、こんなに貰えないですよ!」


 仕事の成果に見合った報酬を与えたつもりが少しばかり恐縮させてしまったようだ。

 だが文官なら多少お金があったほうがいいのに、こういったところで真面目さを出してどうするのか。

 セルランも同じ気持ちのようだが、珍しく優しい声を下僕にかけた。


「いいから受け取っておけ。お前は中級貴族でお金があるわけではないのだろ? それにお前はマリアさまから頼まれた仕事もやっているはずだ。いわばマリアさまの仕事の邪魔をしたのだから、その口止め料だと思っておけ」

「ええ、それに最近はヴェルダンディに稽古を付けてもらって回復薬を大量に使っていると聞きます。いくら研究で成果を出しても足りなくなるはずです。気にせず受け取りなさい」


 下僕はとうとう諦めて受け取ってくれた。


「ありがとうございます」

「いいえ、そういえばマリアさまのあの件は進んでいますか?」



 今はサラスさまが王国院まで来ているのでコソコソと話をする。

 姫さまから絶対にバレないように仰せつかっているからだ。

 なんでも研究費を多く見積もりすぎて足りなくなっているらしいのだ。

 まさか五大貴族がお金を払えないでは外聞が悪すぎるため、文官たちは一生懸命お金を稼ぐ手段を探している最中のようだ。


「ええ、ようやくシュティレンツの歴史について書かれている本を見つけたので解読しています。現代語に近いですがそれでも今ではない言葉が多いので大変でした。でもあらかた調べ終わったので明日か明後日にはマリアさまに提出する予定です」



 その言葉を聞いてわたくしもセルランもホッと胸を撫で下ろした。

 こういったことは騎士では何も意見を出してあげれないので、文官たちの頑張りで姫さまの窮地を脱せるのは喜ばしい。


「姫さまも大変喜ばれるでしょう。時間をとらせてごめんなさい。調べごとを頑張ってください」


 そこで下僕は自分の部屋へ帰っていった。

 今すぐにでも手紙を書いてみたいが、今は職務中のため仕事に専念する。

 そして今日の護衛も終わってから自室に戻って、手紙を再開させた。

 流石は下僕がまとめただけあって分かりやすい。

 この前と違いスラスラと手紙をかけるので、書いている方もノってくるものだ。

 集中力が続くうちに書き上げた。


「ふぅー」


 わたしは満足した。

 これまでこれほど一生懸命手紙を書いたことはない。

 まさかまだ顔すら合わせていない人にこれほど熱中するとは思ってもみなかった。

 ちょうどセーラがわたくしの部屋に入ってきた。



「あれ、机にいるってことはまた手紙を再開したのですか?」

「ええ、下僕に眷属について調べてもらったから簡単に書けました」

「へえー、手紙を読んでもいいですか!」



 セーラが可愛らしく聞いてくるが、流石に自分の書いた手紙を他人に見られるのは恥ずかしい。

 わたくしは急いで蝋で封をした。



「あー、少しくらい見せてくれてもいいのに!」



 セーラは残念そうにそう言ったが、わたくしだって恥ずかしいのだ。


「もう少し時間が経ったら教えてあげます。明日、転移の魔道具でスヴァルトアルフまで送っておいてください」


 セーラは諦めて手紙を受け取った。

 わたくしは一度手紙の内容を思い出してみた。


 スフレ・ハールバランさま


 お手紙ありがとうございます。

 スヴァルトアルフは大変気候が穏やかで、木々以外でも花や動物が伸び伸びと暮らしていると聞きます。

 そのような場所で過ごしているからこそ、貴方さまの心は温かく、手紙を通してわたくしの心すら太陽の日差しを与えてくれるのでしょう。

 しかし貴方さまは罪な人です。

 何人もの殿方から手紙を頂きましたがこれほどわたくしを悩ませた手紙はありません。

 まるでフヴェズルングがわたくしを笑っているかのように長い時間手紙へと向き合いました。

 それでも思い付く言葉が陳腐なものばかりで、貴方さまが失望した未来をクリスタライザーが見せてくるようです。

 わたくしに書ける文はこれが精一杯です。

 ご存知の通り、わたくしは剣を握って生きることを決めてきたので、血に塗れた人生だと思います。

 そんな泥臭いわたくしを美しいと言ってくれる貴方さまの目を見てみたいです。

 どうか貴方さまの目が闇の神のマントによって惑わされたものではなく、水の神が作った大海のように全てを包む目であることを心から祈るばかりです。

 もしこの手紙を読んでも失望することなく、風の神のように追いかけながらも、火の神のように豪胆にわたくしを包み込んでくださいますでしょうか?


 ステラ・エーデルガルトより

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