女性のご機嫌伺い
狭霧の件は、ガラスで作った簪で誤魔化した。
その場の追求を諦めさせただけなんだけど、俺では、今はこれが精一杯。
国旗付きの花でも、手品で出せばいいんだろうかね?
つまり、あれだ。
プレゼントで頑張った訳だよ。
俺と狭霧の関係を馬鹿正直に話すと面倒な事になるのは目に見えていたし、それよりもラルーニャのデザインの素になっている事まで話すと、話が更にややこしくなる。
言えない事を暗に伝え、この場は引いてもらった訳だ。
「お前の(デザイン的な意味で)母親なんだよ」
これを正面切って言える奴が居たら、そいつは勇者だと思うよ。
町が『狭霧の町』と呼ばれるようになった。
船の名前であれば女性名を付ける事が多いというか、恋人の名前を使う事が多いんだけどね。
町の名前だと「特産品」「地理的特徴」「町長の名前・家名」などの方が一般的。
分かっていても、それらを上手く使えなかった事が悔やまれる。
だってさ、狭霧という名前を聞く度にラルーニャの機嫌が悪くなるんだ。
そのうち慣れるだろうけど、それまでは針のむしろである。
女性の機嫌をとるには、やっぱり甘味があると良いだろう。
不機嫌な女性の機嫌は、だいたい甘味で誤魔化せるものだ。
甘いものを与えておけばいいというのは暴論だし、次に体重で不機嫌になるだろうから加減が必要だが、甘いお菓子は俺の知る限り、かなり有効なご機嫌取りアイテムなのだ。
「だからレーラ。追加予算を融通するから、砂糖の生産をお願いしたい」
「いいですけど。甘いものができたら、私の分もお願いしますよ」
「そこは大丈夫。そのまま町の中で食べられる場所を作るから。レーラには優先して食べられるよう、手配しておく」
「商談成立ですね。……私もラーラさんが不機嫌なままというのは困りますから」
生真面目なタイプのレーラだが、求める甘味を報酬にすると、すんなりと話が通った。
そして、友人であるラルーニャの為であれば骨を折るのに否は無いと。
……その割には、予算と、甘味をしっかりと確保するところが“ちゃっかりさん”だと思うけどね。
卵があり、小麦があり、砂糖がある。
牛乳も欲しいけど、無い物ねだりをしてもしょうがない。豆乳は用意できるので、それで代用する。
砂糖は精糖がまだ雑なので茶色いし雑味がある。
牛乳の替わりの豆乳ではやや青臭さが残る。
そこまで上等な甘味を作る事はできないだろうが、今の手持ちでなんとかしてもらい、徐々に改善される事を祈ろう。
料理が得意なNPCを捕まえ、ネットで落としたレシピで甘味の作成を依頼。
クレープなら、これだけでも作れる。
あとは蜂蜜を塗ったり果物を挟めるようにカットするだけのお手軽レシピ。
砂糖の代わりに水飴や蜂蜜を使うパターンもあったが、蜂蜜や水飴は塗る方に回したかったので今回は砂糖なのだ。
他にも卵とバナナだけで作るケーキのレシピとかもあったけど……さすがに、今からバナナを用意する余裕はなかった。
バナナを育てるには温室が必要だったので、泣く泣く断念したのだ。
砂糖を用意するのに時間をかけすぎた事もあり、それだけでもラルーニャの心境がどうなっているか分からず、怖い。
「甘いお菓子を作ってもらったんだけど……一緒に食べないか?」
俺は恐る恐るラルーニャの様子を窺うが、彼女の機嫌はとても良い。
心からの笑顔を浮かべている。
甘い物はやっぱり強い。
俺はその時は、そう思ったのだが、そうではない。
「私の為に、そこまで頑張ってくれたのが嬉しいんですよ」
そう言ってラルーニャから笑顔を向けられると、気恥ずかしいものがあった。
なんとなく、自分の狡い部分を刺激されてしまうのだ。
まぶしくて、その笑顔を直視できない。
「じゃあ、たべようか。頂きます」
「頂きますー」
誤魔化すように食べたクレープは、あんまり美味しくない。
リアルで400円も出せば、これ以上のクレープを買う事ができるだろう。そう断言できる程度の味だ。
だけどまぁ。
このクレープは、リアルの物よりも悪くなかった。
理由は、察しろ。




