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町の名前

 俺がそうやって児童労働の問題について考えているときのことだった。

 額に青筋を浮かべたラルーニャが、俺の肩を掴んだ。万力のごとく掴んで離さない手からは、逃がさないという意思を感じる。


「旦那様。そろそろ、町の名前を教えてほしいんですけど?」


 笑顔で、でも目だけはまったく笑ってない顔で、ラルーニャは俺に答えにくい質問をした。

 ……まったく思い付かず、放置していたその問題を。





 俺にも言い分がある。


「ヴァルハラ、ニライカナイ、アヴァロン、ミドガルド、アースガルド、竜宮、ニルヴァーナ、エルドラド、ラピュ◯、シャングリ・ラ……。

 ルナ、アルテミス、ディアナ、パールヴァディ、アマテラス、イザナミ、ティアマト、アテナ……。

 この辺を全部アウト判定をされると、もう候補が思い付かないんだよ!」

「他と被る名前は駄目だと、ちゃんと言いましたよね?」

「俺のネーミングセンスに、何を求めているんだよぉ……」


 オリジナルな名前を考えられない俺は、幻想境や女神の名前を使ってお茶を濁そうとしたわけだが、なぜか全部、却下された。

 「すでに使われています」と。


「ウンババ」

「危険なネタは止めてくださいね?」

「第三新東――」

「第一と第二は? いえ、()ではなく()でも駄目ですが」


 めらっさめらっさ。

 全てはエントリー以前の問題だ。

 ラルーニャのストライクゾーンが狭すぎて辛い。


 これは後で知った話だが、他のプレイヤーが使っている名前も駄目だという話。

 ネット交流が可能な仕様のため、個人ゲームだけど名前のダブリが許されないのだ。

 たまにあるよね、他の誰かを誘えるゲーム。



 そんな事情はさておき、本気で名前が思い付かない。

 俺はひたすら悩み、ふと、ある名前を思い出す。


「『狭霧』は大丈夫か?」

「……大丈夫、ですね」


 思い出したのは、うちのサポート担当。

 マシンナリーインテリジェンスの狭霧だ。

 女性の名前なので、すでに誰かが使っていてもおかしくないけど、セーフだったようである。



「なら、狭霧で」

「はい、承りました」


 ようやく町の名前が決まり、ラルーニャはほっとしたような顔を――していない。

 どこか、迫力のある笑顔を浮かべていた。


「ところで。

 狭霧というのは女性の名前だと思うのですが、どのような方です?」


 ラルーニャの声に棘が混じる。

 俺は必死に弁解の言葉を並べるのだった。

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