熱気球、完成
普通に浮き上がるだけの熱気球。
本来ならリップパネルで昇降の制御をするはずだけど、そこを簡略化したおかげで俺は命拾いをした。
と言うのも、墜落しかけたのだ。熱気球が。
まずは10mの高さに挑戦という事で、海上に行くようにしつつ、浮いてみた。
だけど縫製の甘かった部分が大きく裂けて、そこから空気が抜けていくというアクシデントがあったのだ。
困った事に、その時は予定していた最高高度に到達していたので、他から10mからの墜落だ。
幸い、下降速度は急激なものではなかった。
裂けたと言っても穴が小さかったからだろう、そこから空気が急激に抜けるという事は無く、下にいた者からは「思った以上に早く降りてくるんだな」としか思われなかった。
海面に着水してから気球の穴が見つかり、大騒ぎになっただけである。
「これでリップパネルを付けていたらと思うと……うん、酷い事になっていただろうね」
「縫製専門の、熱気球担当者が決まるまでは、旦那様は乗っちゃだめです!」
ラルーニャはこの件で熱気球そのものに不信感を持ってしまったため、俺が熱気球に乗る事を断固として認めなくなった。
止めようとする嫁さんを無視して乗る事は可能だけど、そこまで心配をかけているならあえて乗ろうという気にはならない。
心配される事が嬉しくもあり、俺はその言葉に従うことにした。
それからしばらくして、専任の新規NPCを縫製関係で配属し、熱気球はリップパネルを付けても大丈夫と言える強度を持つようになった。
数回の試験飛行を経て、俺や、どうしても乗りたいと言っていたアセリアも空の旅を楽しめるようになる。
空からの眺めは最高で、高度も100mや200mと昇っていけば見える景色が全然違う。
山の上の方からでも似たような景色は見えるのだろうが、熱気球の上というのはまた違って見えるのだ。
そこはもう、体験しないと分からない違いだと思う。
ただ、興奮したアセリアが身を乗り出し、そこに風が吹いて籠が大きく傾いた時は怖かったよ。
リアル知識をもとに作った墜落制止用器具、安全帯と昔は言われていたものを装備していなければ、本当に危なかった。
用心はし過ぎるという事など無い、改めてそう思ったよ。
内部構造も自作熱気球用の資料が公開されているので、そこから情報を得れば、再現するのは難しくなかった。
リアルではゴツい燃料タンクを設置するんだけど、こっちでは錬金術による燃料で済んでいるので、重量的な面ではあまり変わらないものが出来たと思う。
燃料で軽くなった分は、気球に使われる布の重さで相殺なのだ。
細かい部分に差異はあるけど、これなら自信を持って人に勧めることが出来る。
「うーん。そこまで需要が出ますかなー?」
「灯台の替わりになるというのは大きなメリットだろう。設置費用やなんかも、持ち運びができるから人手のあるところで作って持っていくだけなら、コストを安く抑えられる。
高い所からの監視を、場所をあまり考えずにできるっていうのは大きいだろう?」
そうして出来た技術と成果は、例のごとく商人に売りつける。
完成品もサンプルとして付ければ、あとは俺が何か言わなくても再現・量産できるだろう。
熱気球という空の優位性は、魔法のある世界でも間違いなく高いはずである。
軍事利用――熱気球爆弾などの可能性については、こちらからは言い出さない。
前回と合わせるとそういった方面への展開が可能な技術の組み合わせをしてしまったが、こちらに他意は無いのだ。堂々と、平和的な利用方法を提案する。
「そうですねぇ。試作機分も含めた材料費を考え、これぐらいで如何でしょう?」
「――うん、金額はそれでいい」
熱気球の技術と現物、開発費用も含めて結構な金額が提示された。
トータルで考えればやや赤字に傾きそうだけど、その他の優遇、利権による長期収入などを考えれば、今回の取引はかなりの黒字となった。
夫として、ラルーニャに胸を張れるレベルである。
ただ、それでも商人の方は俺より大きな儲けを得ていたと思う。
交渉の素人である俺があえて出張ってみたけど、交渉後の商人は非常に嬉しそうだったし。
俺には理解できない手段で儲ける方法を考えついているんだろうね。
こうして熱気球関連はひと段落ついたけど、次は飛行船かな?
ヘリウムって、どうやって手に入れればいいんだろう?




