試作1号機
時間は一気に経過し、綿花栽培や養蚕も軌道に乗った。
村での布生産は品質を徐々に向上させ、ついでに撥水用の塗料も開発され、気球を作るための下準備が整いつつあった。
当たり前だが、撥水性塗料は非可燃性だ。
ヒンデンブルグ号のようにはなりたくないのである。
気球の部分、球皮と呼ばれるそれは、上の方に穴が開いている。リップパネルと言うのだが、籠から紐を引いて穴を開閉できるようになっている。
そこから空気を逃がすことで下降し、時には全部閉めて上昇し、狙った方向に吹く気流から推力を得て、思った方向に動けるようにするのだ。
もちろん、行きたい方に吹く風が無ければ、狙った方向に行けない事もある。
だが、そういった仕組みがあるから、熱気球は「決まった場所まで移動する」競技として多くのファンを集めている。
日本でも何度か大会が開かれているので、地元住人の人は毎年様々な熱気球が飛ぶところを見ているはずである。
残念ながら、俺の地元ではそういった競技をやっていないが。
俺の地元はさておき、今回は試作機ということで、このリップパネルは無しで作る。
いきなり高度なことに挑戦するより、一つ一つ積み重ねる事が大切だ。まずは人をのせて飛ぶところから、だ。
「その場合、どうやって下に降りるんですか?」
「気球の空気を冷ませばいいんだよ」
融通の利かないシステムになるけど、暖気を止めて気球を冷ましても高度は下がる。
気球部分を変に弄って強度に不安を抱えるより、この冷却システムを使って降下する方が安全だ。
温度管理の方が手間がかかるし、リップパネルの方が原始的でシステムとしては安定しているんだろうけど、技術の系譜が地球とは違う世界での話だ。俺たちにとってはこの方法の方が安定する。
錬金術という技術チートを前提にするなら、相応のやり方があるのだ。
俺は熱気球があまり高く飛ばないようにする牽引用のロープとアンカーを用意しつつ、その先を見据えて動くのだった。




