海の底
海の中は綺麗だ。
深海まで行くと話は変わるけど、素潜りでいける範囲なんてそこまで暗くない。
晴れた日に潜ると、降り注ぐ陽光が海中と海底を照らす。
こちらが獲る気にもならない小さな魚の群がすぐ近くを通ってゆく。
さすがに手のひらサイズの魚を、素潜りで捕ろうとは思わない。できれば一抱えもあるような魚のほうがいい。
ただ、大きい魚は獲るのに手間取ってしまうと、その血の臭いでサメがよってくるので油断できない。
海底に降り立つ頃には、けっこう息が苦しくなる。
足りない酸素を求めて海面に向かえと体は言うけど、まだ大丈夫と分かっているから気にしない。
海底には運良く見つけたアワビの群生地。
岩にへばり付くアワビだけど、こいつらは陽の光を嫌うのか、暗い場所を好む。それを知っているとわりあい簡単に見つかる。
海藻が多くあり、日陰のできる岩場であること。
聞いていた通りのロケーションだ。
俺はナイフでアワビを剥がし、腰に下げた篭に入れる。
剥がすアワビは、もちろん大きめのもののみ。小さいアワビには手を出さない。
三つほど回収すると、さすがに息が持たなくなる。
そろそろ戻らないとまずい。まっすぐに上を見て、海面を目指す。
戻るまでの、ほんの15秒はかなりキツイ。
水中にいられる時間はずいぶん延びたけど、だから苦しくないのかと聞かれると、そんなことはない。苦しいものは苦しい。ただ、耐え方を覚えただけなんだ。
だから息が吸えるようになると、吐き出さず溜めていた息を吐き出してから、大きく息を吸い込む。
この瞬間に、ようやく体から力が抜ける。
なんだかんだ言って、息を止めているときは体に無駄な力が入るんだよな。俺もまだまだだ。
「旦那様。体を拭いてください。風邪をひいてしまいますよ」
「ああ。ありがとう」
いつものやり取り。俺はラルーニャから布を受けとると体を拭く。
「おにーちゃん、とれた? とれた?」
「おう。当然だな!」
ただ、今回はアセリアも付いてきた。
たまには船に乗りたいらしい。
好奇心が強い子だ。海の中にも興味がある。潜りたいとわがままを言い出しはしないが、船から身を乗り出して海を覗き込んでいる。
うん。楽しそうだ。
そういえば、海の中を覗くための道具もあったよね。四角い筒に透明のビニールを付けただけの簡単なのが。
大人として、子供の為に少し頑張ってみるか。
スライムの皮が使えないかな?




