第5話 クラス決め
「あ、ズルイぞ! よし、俺もツバサちゃんに協力するよ!」
「俺も俺も! 一次転職クエだろ? お使いとアイテム集めが殆どだし、手伝うよ」
「そうそう。俺なんて、最近一次クラスに就いたばかりだから、クエスト内容もはっきり覚えてるよ!」
凄い。一人が転職を手伝ってくれると言った途端に、集まっている人たち――殆どがオジサンで、少し大学生っぽい人も居るけど――も協力を申し出てくれた。皆、凄く親切な人ばかりだ。
昨日のアオイもそうだけど、このゲームはプレイヤー同士で互いに助け合うんだね。
昔ちょっとだけプレイしたオンラインゲームは、効率を求める人ばかりでギスギスしていて、すぐ辞めちゃったけど、こっちなら続けられそうだ。
ただ、親切な人が集まっているからか、親しみを込めてちゃん付けで呼ぶ人たちが多いみたいだけど。
「ところでツバサちゃん。どのクラスに就くのか、もう決めているの?」
「あ、えっと、まだ決めてはいないんですけど、バード、メイジ、アコライトのどれかにしようかなって思ってます」
「なるほど。基本的に後ろが良いんだね。僕も、ツバサちゃんにはそっちの方が合っていると思うよ」
靴をくれたオジサンが深く頷く。
僕の運動神経が良くない事もあるけれど、とにかく背の高い人たちが多いから、やっぱり僕に前衛は難しそうだ。
「ツバサちゃんは絶対バードだろ。俺は、それ以外の職業は絶対に認めねぇ!」
「何を言う! ツバサちゃんはメイジに決まっているだろ! ドジっ子魔法使いになって、パーティを癒すんだ!」
「バカだなぁ。癒しを求めるのなら、アコライト一択じゃないか。ツバサちゃんが祭服に身を包んで、回復魔法を使って癒してくれるんだぜ? 俺は前衛として、命に変えてもツバサちゃんを護るね」
どういう訳か、僕の一次クラスが何が良いか、オジサンたちが討論を始めてしまった。
僕の事なのに、こんなに親身になって話をしてくれるなんて、本当に良い人ばかりだ。
「服装の事を言うのなら、ストライカーじゃないか? 二次クラスへの転職でバシュカーかグラップラーに分かれるけど、どちらを選んでも見た目は最高だろ?」
「それなら、テイマーだって捨て難いぜ。可愛いモフモフペットに包まれたツバサちゃん……あぁ、想像しただけで萌えるっ!」
「どっちも無ーよ! テイマーなんて三次クラスまで進んでも、ビーストマスターやスライムマスターなんて使えないネタクラスだし、ツバサちゃんがストライカーになって前衛で怪我でもしたらどうするつもりだ。てか、そもそも、どちらもツバサちゃんの候補に入って無いだろうが!」
一次クラスから更に進んだ二次クラスや三次クラスでは、一次クラスを基に、更に多様化していくのだけれど、ネットで見た通りテイマーはやっぱり使えないのか。
猫や兎は好きだけど、どうせやるなら性能を重視したいしね。
あとネットで見た情報では、確かバシュカーが殴打に特化したコンボ技系で、グラップラーが体術全般を修得出来るんだっけ。
うーん。改めて考えてみても、無理そうかな。
「皆、良く聞け。バードの特技は何だ? 歌だぞ? 皆、ツバサちゃんの歌声を聞いてみたくはないか?」
「ツバサちゃんの歌……そ、それは確かに聞いてみたい」
「それにだ。バードの二次クラスには何がある?」
「……あっ! ダンサーだっ!」
「そう、ダンサーだ。衣装の事を言うのであれば、ダンサーに敵うクラスがあるか? しかも、踊るんだぜ? ツバサちゃんが、踊るんだ!」
ゴクリ……どこからともなく、喉を鳴らす声が聞こえた気がする。
二次クラスの事は深く調べてないけれど、バードの二次クラスは支援に特化したミンストレルと、弱体化を修得可能なダンサーだったかな。
歌はともかくダンスなんて出来ないから、バードになるなら僕は、二次クラスはダンサーではなくミンストレルを選択するけど。
というか皆、僕の歌を聴いたり、踊りを見たりして、何が面白いのだろうか。
「……よし、決まったな。ツバサちゃん。俺たちは、ツバサちゃんはバードになるのが良いと思うんだけど、どうかな」
最初にバードを提案した大学生くらいの男性が、優しく話しかけてくる。
しかし、やっぱりこの人も背が高い。ほぼ真上を見るくらいのつもりで、見上げないと顔が見えない程だ。偶然僕の周りに背の高い人が多いのだろうか。
一先ず、元よりバードも一次クラスの候補だったので、それで良いやと皆の身長の事を考えていると、僕が困っていると思われてしまったのか、靴をくれたオジサンが再び口を開く。
「ツバサちゃん。一次クラスの選択は重要だから迷う気持ちは分かるけれど、あんまり深く考え過ぎなくても良いと思うよ。というのも、このゲームはレベルをそのままに、一次クラスからやり直せるからね」
「え、そうなんですか?」
「そうなんだ。とは言っても、課金アイテムが必要だけどね。そして、僕たちみたいなオジサンからすると、この程度のアイテムは大した額じゃないんだ。一つプレゼントするから、軽い気持ちでバードになってみると良いよ」
そう言った後、
『クラスリセットを受け取った』
というメッセージが。どうやら、ゲームソフト代とは別に課金しなければ得られないアイテムを貰ってしまったらしい。
お礼を言わなければと思い、このオジサンの名前も知らない事に気付く。
とりあえず名前を確認しようと思うのだけれど、すぐ隣に居るのと、背が高過ぎるのとで名前が見えない。
頑張って背伸びして、何とか名前が見えた。
「あ、あの。さっきの靴に加えて、こんな物まで……すみません。クマヨシさん、ありがとうございます」
「あはは、いいんだよ。それより、早速バードの転職クエを受けに行こう。僕が案内するよ」
「はい、お願いします」
オジサン――もとい、クマヨシさんにポンポンと頭を撫でられ、冒険者ギルドへ向かって一緒に歩き出す。
「おい。あのオッサン、今ツバサちゃんの頭を撫でたぞ!」
「ふざけんなよ! いえすろりーたのーたっちが、俺たちの唯一にして絶対のルールだろうが!」
「待て。通常エリアでプレイヤー同士が戦ったらBAN……まではいかないにしても、ペナルティで一週間強制ログイン不可とかって話だぜ」
「くっ……一週間もツバサちゃんを見られないなんて、死に等しい拷問だ」
「あぁ。それに、あのオッサンは有名な廃課金野郎でさ。既にレベル80越えで、ファイターの三次クラス、グラディエーターらしいぜ。どのみち今の俺たちじゃ勝てねぇよ」
何だか難しい話が聞こえてきたけれど、BAN……はアカウント凍結だったかな? つまり、このゲームが出来なくなるって事だ。
いや、それよりも凄いのは、まだ発売されて一週間近くしか経って居ないというのに、この人はもうレベル80を越えているの!?
それに三次クラスだなんて。全く調べていないから、グラディエーターって言われても、何の事だかさっぱりだよ。
「ツバサちゃん。その靴、どうだい? 歩き易いだろ」
「はい、とっても。これでもう、躓きませんよ」
「そうだね。また何かツバサちゃんに合う装備を適当に身繕っておくよ。今の僕にとっては物足りないけれど、一次クラスには十分な装備が倉庫に眠っているから」
なるほど。三次クラスになっているクマヨシさんからすれば、この学びの靴なんて大した事のないアイテムなのか。
でも、初期装備しか持っていなかった僕には十分過ぎる効果なのだろうけど。
しかし、クマヨシさんにフォーチュン・オンラインの事を教えて貰いながら歩いていると、背後からもの凄く視線を感じる。
いや、もちろん後ろに沢山の人が歩いているから当然なのだけど、特に脚に視線が集中している気がするのは何故だろう。
何となく後ろを振り返ってみると、
「あ、ツバサちゃんと目が合った!」
「ツバサちゃーん! 歩くの疲れない? おんぶしてあげようか?」
「あぁん!? お前、調子に乗るなよっ!」
何故か僕を中心に、扇状に展開して歩くオジサンたちがニコニコしている。ただ、その後ろからは殺伐とした声が聞こえてきたりもするけれど。
とにかく賑やかな人たちみたいだ。
そんな事をしていると、いつの間にか冒険者ギルドの目の前に辿り着いていたのだった。