第37話 最凶ギルド
ピンクのスライムから放たれる紅い光が僕を照らす。
嫌だっ! 渚の身体で、エッチな写真を撮らせるなんて、絶対に嫌だっ!
僕は心の中で必死に拒絶して……何も起こらなかった。
あれ? 抵抗すれば回避出来るのだろうか?
「んん? 何故だ? ロクブケイのチャームは成功率百パーセントのはずなのに……ロクブケイ、もう一度チャームだっ!」
ピンクのスライムが再び紅く光る。
今度は、普通にしていたのだけれど、やっぱり何も起こらない。
「どうしてだっ!? チャームは使用者の異性を、必ず魅了状態にするのにっ!」
「……あの、そのピンクのスライム。実はメスじゃないんですか?」
――ピシッ
クマヨシの表情を凍りつかせる。
スライムの性別なんて知らないし、そもそも性別なんて無いかもしれない。
だけど、外見は幼女でも中身が男だからなのか、それとも低年齢モードによる補助なのか、魅了効果は全く効かなかった。
とにかく、この機会を逃す訳にはいかない。
大量にスライムが居るし、ログアウトは無理。出口は扉が一つあるけれど……ドアノブがない!? まさか今回のために、わざわざ中から開けられない扉を作ったの!?
アイテムは何か使える物がないだろうか。
ステータスウインドウのアイテム欄を急ぎながらも、慎重にチェックして……あった。
しかし、平日のお昼過ぎという時間と、僕の日頃の行いが結果に左右するアイテムだ。正直、どれだけの効果になるかは使ってみないと分からない。
でも、今はこれに賭けるしかないっ!
僕は、そのアイテムを使い、直後に大声で叫ぶ。
「お願いっ! 誰か、助けてっ!」
『レスキューコールを使用しました。残り使用回数は1回です』
使用後のシステムメッセージが表示され、そして僕の声でクマヨシが我に返る。
「ツバサちゃん!? 一体、何をして……」
凍りついた表情から一変し、怒りの表情を浮かべたクマヨシだけど、その言葉が途中で遮られた。
「ツバサちゃん!? どうしたの!? 普段はこんな時間からログインしていないのに」
「ツバサちゃん? 何かあったの!? お兄ちゃんが助けに来たよ!」
「おい、誰がツバサちゃんのお兄ちゃんだっ! さぁ、パパが助けてあげるよ」
天使護衛団ギルドのメンバーだけでなく、聖母の癒しギルドのメンバーや、一度か二度程、すれ違った事があるような気がする人まで、沢山の人が現れる。
「お、おいっ! 何だ、お前らっ! 俺様とツバサちゃんの二人っきりの時間を邪魔するなっ!」
「お願い、皆助けてっ! 僕、クマヨシってオジサンにエッチな事をされそうなんだっ!」
クマヨシが叫んだ直後に、負けじと僕も大声を上げると、
「あぁぁぁんっ!? てめぇ! ツバサちゃんにエッチな事だとっ!? 死にたいらしいなっ!」
「おい、何だこの床一面のネバネバした半透明の液体はっ! これを使って、ツバサちゃんに何をする気だったんだぁぁぁっ!」
「というか、どうしてツバサちゃんがスク水……って、思い出したっ! こいつ、前にツバサちゃんに抱きついた奴だっ!」
家中に黒いオーラが立ち昇った。多分だけど、これが殺意という奴なのだろう。
その中で一人、見覚えのあるギルドメンバー――クルセイダーのベアートゥスさんが冷静な声を上げる。
「まぁまぁ、ちょっと待てよ。ツバサちゃんにエッチな事? いいじゃないか。俺も、エッチなツバサちゃんを是非みたい。どうだ? うちのギルドへ来ないか? ツバサちゃんと同じギルドだぜ」
「おっ!? アンタ、話が分かるじゃないか。是非とも頼むよ」
『クマヨシがギルドに加盟しました』
ベアートゥスさんがギルド加盟申請を出したらしく、クマヨシが僕たちのギルドへ加盟してしまった。
「え? ちょ、ちょっとベアートゥスさん!?」
「まぁまぁ、待ってくれ。さて、他に俺たち天使護衛団ギルドに入って居ない奴は居ないか? もしくは、同盟ギルドの聖母の癒しギルド。せっかくだから、この機会にどちらかへ入ってくれよ」
「あ、俺もツバサちゃんギルドへ入りたいっス」
どこかで聞いた事のある声が聞こえてきたけれど、とにかくここに集まった全員が、天使護衛団ギルドか聖母の癒しギルドに加盟したらしい。
けど、クマヨシがギルドメンバーだなんて嫌だ! 今度は何をされるか分かったものじゃない。
そして、僕の不安そうな顔を見たのか、ベアートゥスさんがウインクを一つ。
「じゃあ、皆準備は良いな? ……では、今から、このクマヨシのタコ殴り大会を始めるっ! 同じギルドか同盟ギルドならば、殴ってもペナルティは無い。ツバサちゃんを怖がらせたこいつを、全員血祭にあげろっ!」
「うぉぉぉっ! 死にさらせぇぇぇっ!」
「ツバサちゃんの心の痛みは俺たちの痛みっ! これはツバサちゃんの分っ!」
クマヨシはレベル80オーバーと、かなり強キャラなのだけれど、ここには最凶ギルドと最強ギルドのメンバーが居る。
そして何よりも圧倒的な数の違い。
クマヨシの生命力が無駄に高く、延々とサンドバック状態が続いたけれど、残りの生命力が一桁になった所で、
「ヅバザぢゃん……ずびばぜんでじだ」
「……もう、絶対にこんな事はしないでくださいね」
「はい。ごべんなざい」
皆に無理矢理土下座させられたクマヨシが謝罪してきた。
「分かったな!? 二度とツバサちゃんにちょっかいを掛けるんじゃねぇぞっ!」
ベアートゥスさんがそう言った直後、容赦なくクマヨシに止めを刺し、その姿が掻き消える。
「おし! 次は、このツバサちゃんが苦しめられた家を破壊だっ! いくぞ、野郎共っ!」
「おぅっ! ツバサちゃんが悲しむ物は、全て消去だっ!」
「ツバサちゃーんっ! これが終わったら、ぎゅーって抱きしめてあげる……じょ、冗談っス。いや、皆ガチで怖いっス」
前衛職ばかりが集まったからか、あっという間に家が破壊され、更地となった。
そして、すぐさまベアートゥスさんがクマヨシをギルドから除名する。
「ツバサちゃんは、もっと守りに気を使わないとな。スライムが沢山いたし、大方麻痺とか眠りとかの状態異常を受けたんだろ?」
「ツバサちゃん。だったら、これを受け取って。一見、ただの体操服とブルマだけど、麻痺の耐性が大きくアップするんだよ」
「ツバサちゃん。そんなマニアックな服は着ちゃダメだ。やっぱり、ここはレオタードが一番だよ。今回用意した、白のレオタードは混乱耐性があるからね」
クマヨシにはかなり驚かされたけれど、いつも通り、それぞれの趣味全開の衣装がすぐ出てくるギルドメンバーにも驚かされる。
今回の事件が再びネット上で話題となり、幼女に何かあると容赦が無いギルドだと、最凶ギルドの名が更に広まる事になったのだった。
了




