第27話 GvG二回戦
緑の絨毯を風が撫で、僕の膝の高さ程の草の葉が揺れる。
降り注ぐ太陽の光が眩しく、草の臭いが僕の鼻孔をくすぐってきた。
周囲を見渡してみても、緑色の地面と青い空の境界線に囲まれるばかりで、辺りには何も無い。
「草原……見渡す限り何にも無いね」
「あぁ。これはチャンスだな」
「うん、僕もそう思う。身を隠す場所や背を預ける壁が無ければ、ギルドマスターを護るために、全方向を護らなきゃいけないし、当然壁は薄くなる。そうすると、きっとどこかに綻びが出来るはず」
僕と考えが同じだったようで、シュタインさんが大きく頷く。
「皆! 今度こそ行けるぞっ! 敵は防御特化の重装備。いくら広い草原といえども、目指すべき方角は分かるし、逃げられるはずはないっ!」
「おぅっ! まだ相手のギルドマスターの顔すら拝めてないんだ。今度こそ、ぶち殺してやるっ!」
「お風呂お風呂お風呂お風呂お風呂……」
ちょっと言動が危ない人もいたけれど、メンバーそれぞれが自身を鼓舞するように叫び、遥か彼方の地平線に目をやる。
GvGが始まるまでは、相手のギルドマスターがどっちに居るか表示されないので、四チームに分かれた僕たちは、互いに声が届く程度の間隔を開けて、開戦の時を待つ。
そして、
『時間になりました。只今より戦闘開始です! 守備側のギルドマスターが戦闘不能となり次第、もしくは三十分経過後、強制的に控室へとワープします』
戦闘開始を告げるシステムメッセージが表示されたその直後、相手ギルドマスターが居る方角に向かって、アイコンが表示される。
「出たぞっ! 敵は南東だっ!」
「よっしゃぁ! 機動力なら、身軽な俺たちが一番だぜっ! ストライカーチーム行くぜっ!」
「先ずは足止めを頼む! 俺たちもなるべく早く追いつく!」
モンクのヴィーゴさんが率いるストライカー系統のメンバーが戦闘を走り、グラディエーターのトーヤさんが率いる、ソードマンチームが後に続く。
遅れてウォーリアチームが続くけれど、同じファイター系統でも、重い斧やハンマーを獲物にしているプレイヤーも居て、軽い剣に特化したソードマンチームより少し遅れてしまうみたいだ。
そして、最後尾に僕を護ってくれているソルジャー系統チームだ。これは、防御特化で重い鎧や盾を装備しているからであって、決して僕が遅いからではない……と思う。
「ツバサちゃん。大丈夫? おんぶしてあげようか?」
「あ、あの。俺、パイクだけど意外に力もあるんだ。お姫様だっことか、されてみたくない?」
「えっと、肩車とかはどう? 楽しいよ? もちろん、兜ははずすからツバサちゃんは痛い事なんてないし、そのすべすべした柔らかい太ももでオジサンの首を……ごふぁっ!」
クルセイダーの人が蹴られたっ! この中で一番レベル高い人なのにっ!
だ、だけど、そもそも僕の足が遅いのは、渚が小学五年生に見えない程幼く、身体が小柄で、一歩の距離が短いからなんだ。決して僕の運動神経が悪い訳じゃないんだよっ!
まぁ運動神経が良い訳でもないけどさ。
おんぶにだっこ、もちろん肩車も丁重に断り、暫く走っているとシュタインさんが訝しげな声を上げる。
「変だな。俺たちが近づいてくるという事は、向こうだって分かっているはず。それなのに、相手のギルドマスターが少しも動いていない」
「確かにずっと同じ方角だね。あ、僕たちが走る方角に向かって逃げているって事は?」
「まぁ確かにそれも有り得るんだが、少しずつ相手のギルドマスターの位置を示すアイコンが近づいているんだよな」
やっぱり相手ギルドの機動力が低いからじゃないかな?
そんな事を考えながら走っていると、
「やべぇっ! 皆、早く来てくれっ!」
戦闘を走っていたストライカーチームの一人、コージィさんが戻って来て、後続の僕たちやウォーリアチームに急げと声を掛けている。
一体何があったのかと思っていると、不意にそれが視界に入った。
「え!? どうして!? ここ、草原だよ!?」
「マジかよ。たったの十分でここまでやりやがったのかよ」
「くそっ! こんなのどうしろってんだっ!」
草原フィールドへワープしてからの十分間と、僕たちが攻めてくるまでの数分間。
たったそれだけの時間で、相手ギルド『聖母の癒し』は、草原にちょっとした堀を作り、そこで出た土を使って、僅かなだが高台を作っていた。
堀と言っても五十センチ程の浅いものだけど、周囲をぐるりと囲っている上に、堀のすぐ上には相手ギルドのクルセイダーやナイトといった防御特化クラスが待ちかまえている。
低い位置と高い位置で戦えば、高い位置に居る方が有利なのは明白で、どうすれば相手のギルドマスターに辿り着けるかが考えつかない。
「やられたな。ただ開始時間を待って居た俺たちと、しっかりと準備をしていた相手チームの差か」
シュタインさんが悔しそうに顔を歪め、項垂れた直後、
「しまった! ツバサちゃんっ!」
誰かが大きな声で僕の名前を叫ぶ。
その直後、皆が、相手ギルドの人たちまでもが僕の顔を見ていて、
『……たしました』
内容までは分からないけれど、何かのシステムメッセージが表示された事だけは分かった。
そして、高台の上から片目で僕を見据え、弓矢を構える人――敵スナイパーと目が合う。
それなりに距離が離れているはずなのに、しっかりと目が合った事が意識出来て、そして構えた矢を放つ所まで、何故かしっかりと見えた。
どういう処理が行われて居るのかは分からないけれど、スローモーションのように矢が僕に向かって飛んで来て、
『生命力が尽きました。戦闘不能になりました』
初めて見る、暗めのシステムメッセージが大きく表示される。
それから少し間を置いて、
『天使護衛団ギルドのギルドマスターが戦闘不能になりました。よって、GvG二回戦は聖母の癒しギルドの勝利となります』
再びシステムメッセージが表示され、周囲が先程の控室へと変わってしまったのだった。




