第25話 GvG一回戦
「お、俺たちのギルド名が表示されたな」
「そうだな。よーし、いっちょやったるか!」
「しかし、相手のギルド名ってどこかで聞いた事がなかったか?」
ギルドメンバーたちがそれぞれの抱いた想いを口にした所で、視界が一瞬真っ暗になって、すぐさま見たことの無い景色に変わる。
目の前にお城みたいな建物――砦があり、周囲には何も無い。
これはつまり、この砦に侵入する所から始めろって事なの!?
「マジかよ。砦なんて聞いて無いぜ!」
「こんなの、門を突破するだけで三十分くらい経ってしまうんじゃないか!?」
「これ、守備側超有利じゃん……って、あれ? 門が開いてるぞ?」
ただ戦う場所が砦だというだけで、砦を攻略しなければならないという訳ではなさそうだ。
「ふぅ。門を破壊するとか、壁を乗り越える所からでなくて良かったね。これなら、相手ギルドのマスターの位置が分かっている事だし、きっと僕たちが勝つよね」
「あぁ。だけどツバサちゃん。相手のギルド名って覚えている?」
「えっと、聖母の癒しだったかな?」
「そう。その名前って、どこかで聞き覚えがないかな? 少し前に俺が話をしたんだが」
そう言って、シュタインさんが険しい表情を浮かべる。
「あ! ギルドレベルが一番高いギルドだ」
「その通り。そして、あくまで俺の勘だけど、このギルドがGvGで唯一無敗のギルドではないかなと」
初めてのGvGの相手が、いきなり最強ギルドだって!?
ついていないにも程がある。
「とはいえ、このゲームは始まって一週間とちょっとだ。プレイ時間にそこまで大差はないはず。そして、攻撃側が有利なのだから、俺たちにだって可能性はあるっ!」
「そうだ! GvGに勝って、家を買うんだ!」
「おうっ! ツバサちゃんにお風呂をプレゼントするんだっ!」
依然としてお風呂に拘っているのはさて置き、最強ギルドを前にして、士気の高さをキープしているのは凄い。
戦いが始まっても、この士気を保っていられればよいのだけれど。
「えっと、初期配置はどうしようか? あと十分で決めないといけないんだよね?」
「あぁ。ギルドメンバーを見ると、三次クラスが四人か。じゃあ、一番レベルの高い十六夜さんと、二番目にレベルが高いベアートゥスさんを中心に、前衛職を……って、ダメか。今ログインしているメンバーだと、ツバサちゃんを除いて全員前衛職なのか」
「そ、そうみたいだね。とりあえず、攻撃型か守備型かで分けてみたら?」
「なるほど。流石ツバサちゃんだね。一先ず守備型というか、ソルジャー系統なのが、三次クラスのクルセイダー、ベアートゥスさん。それから二次クラスのナイトの俺、シュタインだろ。同じ二次クラスのパイクの人が二人……って、守備型も四人しか居ないのか。とりあえず、この四人は全員ツバサちゃんを守る最終防衛線って事で」
補足として教えて貰ったのだけれど、盾役であるソルジャーは、二次クラスで防御特化のナイトと、防御と攻撃のバランスを取ったパイクというクラスに分かれるそうだ。
更に、ナイトの三次クラスであるクルセイダーは、従来の防御力に加えて、アコライトが使用する一部の神聖魔法が使えるらしい。つまり、初級に限られてはいるものの、回復魔法が使えるというになる。
回復役不在のギルドにおいては、数少ない回復役だ。
「あと、攻撃型の中でもストライカー系統は、三次クラスであるモンクのヴィーゴさんと、バシュカーが四人。グラップラーが三人の合計八人か。という事は残りがファイター系統で、三次クラスはデュエリストの十六夜さんと、グラディエーターのトーヤさん。それから二次クラスは、ウォーリアとソードマンが六人ずつか」
「改めて数字で表されると、多く感じちゃうね」
「そうだね。じゃあ、三次職を中心に同系統でチームを組んで貰って攻めようか。ヴィーゴさんはモンクだから回復魔法も使えるだろうし、ストライカーチームを中央にして、デュエリストとウォーリアのチームは右手。グラディエーターとソードマンのチームは左手って感じで」
こちらも補足。体術で戦うストライカーは、二次クラスでコンボ技特化のバシュカーと、体術全般を修めるグラップラーに分かれ、更にグラップラーは三次クラスのモンクで、クルセイダーと同じく神聖魔法の一部が使えるのだとか。
そして、武器で戦うファイターは、二次クラスで武器全般を扱うウォーリアと、剣に特化したソードマンに分かれ、それぞれ三次クラスでデュエリストとグラディエーターになるらしい。
「さて、じゃあこれで皆の役割も決まったのかな?」
シュタインが決めた役割に従い、皆が動か……ない!?
「ちょっと待てよ! どうして、盾役のソルジャー系統がツバサちゃんの側に居るんだよ! 普通は盾役が最前面だろ!?」
「コージィさんの意見も尤もだが、このギルドは盾役が極端に少ないし、おまけに後衛も居ない。だったら、少ない盾役はツバサちゃんの守りを固めるのに使うべきだと思うんだ」
「いやいや。盾役をウォーリアチームとソードマンチームに分けて、ツバサちゃんを護るのは、俺たちストライカーチームで良いだろ。モンクのヴィーゴさんなら回復魔法も使えるしさ」
コージィさんを先頭に、ストライカー系統のメンバーがシュタインさんを取り囲む。
「いやいや、我々ソルジャーチームは四人しか居ないんだ。それを二手に分けても大して効果は無いよ。それよりもツバサちゃんを傍で支える役割を……」
「ほら見ろ! ただツバサちゃんの傍に居たいだけじゃないか! そんなの俺たちだって傍に居たいに決まっているだろ!」
「待て待て。俺たちファイター系統だって、ツバサちゃんの傍に居たいんだ。勝手にお前たちだけで盛り上がるなよ!」
どうしよう。せっかく作戦が纏まったと思ったのに、急造ギルドの良い部分――勢いの良さを上回る悪い部分、チームワークの無さが現れてしまっている。
もうGvGが始まってしまうというのに、これはかなりマズいのではないだろうか。
『時間になりました。只今より戦闘開始です! 守備側のギルドマスターが戦闘不能となり次第、もしくは三十分経過後、強制的に控室へとワープします』
いつの間にか準備時間が経過してしまい、GvGの戦闘開始を告げるシステムメッセージが表示された。
……されたのだが、
「ソルジャー系なんて、敵に攻撃されてナンボだろうが!」
「だったら、ファイター系なんだから敵を攻撃してこいよ!」
「俺はツバサちゃんが居てくれるなら、何でも良いぜ」
それぞれが好き勝手に意見を主張し合い、全く纏まりが無い。これではGvGどころでは無いよ。
こんな事をしているうちに、攻撃されてしまうかもしれないのに……こ、こうなったら!
「ぼ、僕……皆が敵を倒して活躍している所を見たいなー。やっぱり強い人って、格好良いですよねー」
半ばやけくそになりながら、それっぽい事を言ってみると、
「うぉぉぉーっ! 俺が敵をぶち殺してくるぜっ!」
「三次クラスのスキルを見せてやるっ! 一人残らず全滅させてやらぁぁぁっ!」
「ツバサたん! ツバサたん! ツバサたーんっ!」
それぞれが雄叫びと共に、先程シュタインさんが述べた作戦通りに分かれ、何故か守備専門であるソルジャーチームまで三つのチームに混じって駆け出して行ってしまった。
「やる気を出してくれて良かったんだけど、僕は一人でどうしたら良いんだろ?」
スタート地点に一人取り残された僕は、とりあえず砦の門のすぐ傍で、小さくしゃがんで隠れている事にしたのだった。




