第12話 ハグ
「とぉーっ!」
「ツバサちゃん。頑張ってー!」
育代さんがスキルで僕のステータスをアップさせながら、応援してくれている。
僕の音楽スキルである歌とは違い、攻撃が出来ない代わりに、喋る事は出来るみたいだ。
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル18です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
僕の攻撃で目の前の蛙型のモンスターが動かなくなると、すぐさま見慣れたメッセージが表示された。
育代さんのスキルのおかげか、トゲタニシだけでなく、魚モンスターや、虫みたいなモンスターも倒して、どんどんレベルが上がって行くし、ドロップアイテムである、トゲタニシのトゲや魚の骨、虫の殻みたいなアイテムも、それぞれ二桁あったりする。
「ツバサちゃーん! おめでとー!」
「あ、ありがとうございます」
「凄いねー。ツバサちゃん、頑張ったねー」
レベルが上がる度に優しく抱きしめられ、頭を撫でてくれた。
アオイもレベルが上がる毎に抱きついてきたけれど、育代さんのハグには、それとは違う心地良さがある。ちなみに、胸はアオイの方がムニムニと弾力があったのに対し、育代さんはフニフニと柔らかい。
あと、高校生のアオイに対して、育代さんは大学生くらいに見えるから、大人の余裕という物があるのだろうか。
「じゃあ、ツバサちゃん。もう少しでレベル20になるから、そこまで一緒に頑張ろっか」
「はい。お願いします」
名残惜しくも、育代さんの胸から離れ、新たなモンスターを探す。
最初に育代さんと出会った場所から、それなりに奥へと進んできたけれど、ネットの情報通りモンスターは少なく、二人でずっと新たな獲物を探して歩く。
ザブザブと川の中を進んでいると、
「ひゃあっ!」
踏み出した先に川底が無く、ズルズルと胸くらいまで水に浸かってしまった。
「ツバサちゃん、大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
「これ以上、奥に進むのは無理かしら」
「そうですね。流石に、この水深だと戦えない……くしゅんっ」
「あらあら、大変! 着替えないと」
「いえ、大丈夫ですから」
タイミング悪く、くしゃみが出てしまっただけなのだが、育代さんが僕を離してくれない。
そして、少しするとステータスウインドウで何かを探していたらしき育代さんが、嬉しそうに声を上げる。
「あったわ! ツバサちゃん。服が濡れちゃったし、一先ずこれにお着替えして」
そして、紺色の何かが手渡され、
『学校指定水着+8を受け取った』
再びいつものメッセージが表示された。
「……あの、育代さん? これって?」
「それはね。私がまだレベル15くらいの時に、もらった装備なの。それなりに性能も高いし、水耐性もあるし、このダンジョンにピッタリだと思うの。だから、ツバサちゃん。お着替えして」
「……えーっと、育代さん。これって、水着……ですよね?」
「えぇ。濡れている服を着続けるより、良いでしょ?」
この人は、本気で言っているのだろうか。濡れた服よりも水着……というか、スクール水着を着ろと。
念のため、ステータスウインドウで形状を確認してみると、予想通り女性用のスクール水着だ。
流石に、これに身を包むと、変態の称号から逃れられない気がする。
「育代さん。お気持ちはありがたいのですが、流石にこれはちょっと」
「でも、私が今着ている服は、レベル制限があってツバサちゃんは装備出来ないし、他に服みたいな物なんてあるかしら?」
僕は最初に貰った旅人の服があるけれど、これまで濡れちゃったら、街へ戻った時に着る物がなくなってしまう。
流石に裸は避けたいけれど、
「分かったわ。ツバサちゃんはお着替えが苦手なのね。じゃあ、私がお着替えを手伝ってあげる。はい、手を真っ直ぐ上に上げてー」
僕が口を開く前に、育代さんがワンピースに手を掛け、そのまま真っ直ぐ上に持ち上げようとしてきた。
女の子の服を着ているだけでも恥ずかしいのに、育代さんに服の着替えを手伝われるなんて……
「ま、待ってください。着替えます。着替えますからっ!」
急いでステータスウインドウからスク水――もとい、学校指定水着を装備する。
あぁぁぁ……ゲームの中とは言え、女性用のスクール水着を着るなんてっ!
「うぅ……恥ずかしいです」
「まぁここには私しか居ないし、大丈夫よ。それに、私も今の装備を貰うまで、ずっと着てたんだけど、見た目とは裏腹に耐久性もあるし、何より魔法防御力が高いのよ?」
「え? 育代さんが着ていた水着なんですか?」
「そうなの。お古でごめんね」
育代さんが着ていた水着に、僕は今包まれて……って、服装だけじゃなく、中身まで変態になっちゃうよっ!
「うー、育代さん。もう、モンスターを狩って狩って、狩りまくりましょう!」
僕は育代さんが着ていた水着を着て喜ぶ変態じゃないんだっ! と、自らに言い聞かせるようにモンスターを探しては戦い続ける。
そして、
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル20になりましたので、一次サブクラスが1つ解放されます。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
一心不乱に戦い続けた結果、僕のレベルが20に到達した。
一次サブクラス? そんなのネットには載ってなかったような気がするんだけど。
「ツバサちゃーん! 凄ーい! おめでとー!」
レベルアップのご褒美、育代さんが僕を温かく包み込む。
「はい。頑張りましたー!」
「あらあら、ツバサちゃんったら甘えん坊さんになっちゃったのね?」
その途端に頭が真っ白になり、僕は育代さんの優しいハグに飢えていたかのように、自ら抱きつきに行ってしまった。
だけど、レベルアップの度に柔らかい抱擁をくれた育代さんが、何故か強張る。
一体どうしたのだろうと胸に埋めていた顔を上げると、育代さんが何かに視線を奪われたかのように、遠くを見ていた。
「育代さん?」
育代さんが見ていた方向に僕も視線を向けると、
――フシュルルル……
洞窟の天井にまで到達しそうな――二メートルくらいの体長がありそうな、大きな蛙がこちらへ向かっていたのだった。
 




